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「がんのおかげで、キレイになって、素直になれた」美容ジャーナリストが闘病生活で見つけたもの

がん患者支援のNPOを運営する山崎多賀子さんは、10年前に乳がんを患い、抗がん剤による“脱毛”を経験した。山崎さんに、その闘病生活について聞いた。
The Huffington Post

「昔はメイクとか、かなり適当だったんです。仕事に必死になっていたから」

美容ジャーナリストでありながら、自分を“着飾る”ことに興味がなかったと話すのは、NPO法人キャンサーリボンズの山崎多賀子さん。山崎さんは、女性誌の編集者を経て、フリーランスのライター・美容ジャーナリストになった。

仕事に明け暮れ、めまぐるしい毎日を送る中、乳がんであることを宣告されたのが10年前のこと。手術と抗がん剤によるつらい闘病生活を経験した。

今では、治療中に出会った主治医が立ち上げた、がん患者の生活を支援するNPO法人キャンサーリボンズの理事を務める。

NPO法人キャンサーリボンズは、がん治療中の女性に医療用ウィッグを贈る「キレイの力」プロジェクトを、ヘアケアブランド「パンテーン」(P&G)、ウィッグメーカーのスヴェンソンとともに運営している。このプロジェクトで山崎さんは、自身の経験を生かし、がん患者の女性にヘアメイクをアドバイスしている。

「がんのおかげで、キレイになれた」と話す山崎さんに、こうした活動に至ったエピソードや、自身の闘病生活、“キレイ”に目覚めたきっかけを聞いた。

髪も眉毛も抜け落ち、顔はくすんで重病人のような顔に

山崎さんは、手術を受け、半年間の抗がん剤と1年間の分子標的薬の投与。その後、5年間ホルモン療法による治療を受けた。抗がん剤は、成長の早いがん細胞を抑える働きがあるが、髪のもとになる「毛母細胞」にも影響が出やすいため、投与後に髪の毛が抜ける。

「抗がん剤で、髪だけじゃなく眉毛もまつ毛も抜けました。肌もどす黒くくすんでしまいました。とくに女性の場合、外見が精神面に大きく影響するので、重病人のような顔になると気持ちもどんどん暗くなってしまいます。ただでさえがんの治療は不調続きでつらいのに、さらに精神的苦痛に襲われます。女性にとって外見がどれだけ大事か、身をもって実感しました」

ウィッグは、世間の目から自分を守るための“鎧”

「髪のない一般の女性が目の前にいたとして、まともに顔を見られますか?」と山崎さん。もしかしたら、見てはいけないような気持ちになる人もいるかもしれない。それは、がん患者にとって、とても悲しいことだ。山崎さんは、治療をはじめてすぐに医療用ウィッグを購入したという。

「当たり前ですが、髪がないと、人に会えませんよね。だからウィッグは必需品。それもちゃんと自然に見えるものじゃないと意味がないんです。がん患者にとっては、普通に見られることが憧れだから。がんも怖いけれど、外見が変わってしまうことで好奇の目にさらされる。そんな世間の目が怖いから、気持ちが鬱々として引きこもってしまいがち。

治療も大事ですが、女性は外見をきちんとケアすることで、気持ちを立て直すことができるんです。ウィッグは、世間の目から自分を守ってくれる鎧なんです。私は、頭皮に優しいなど配慮された医療用ウィッグを買ったとき、『脱毛どんとこい』って気持ちになれました(笑)。」

「メイクは理論」

プロジェクトを通じて山崎さんが目指しているのは“患者さんが、がんになる前よりもキレイになれる”こと。山崎さんは、メイクアップのセミナーでがん治療中の女性に“元気に見える”メイクを教えている。ポイントは、保湿して肌にツヤを出すこと、くすみを隠すこと、眉毛を描くこと、アイラインとチークを入れることだという。

「眉毛は表情を作る上ですごく重要で、眉毛がないと無表情に見えてしまうのですが、眉を描けば表情は戻ります。まつ毛が抜けて弱々しくなった目にアイラインを入れると、目に力が戻る。いつも“アンパンマンの位置”って説明しているんだけど、笑ったときにポコっと出る部分にチークを入れてあげると、少しの笑顔でもすごく笑って見えるんです。メイクは理論だから、こうすればこういう顔に見える、ということを知識としてしっかり伝えるようにしています。

元気に見えるメイクのポイントって、患者さんに限らずみんな同じ。だから『がんが治ったあとも一生使えるポイント』って伝えています。キレイにメイクができると表情が本当に明るくなるんです。メイクレッスンが始まると患者さんも普通の女性に戻り、帰るときにはみんな笑顔になっていて。自信がついて背筋がシャキッとするからスタイルも良く見えたり。抗がん剤での治療中は、ウィッグや、オシャレな帽子とか、メイクの知識とか、外見を装う手段をいっぱい持っていたほうが安心できると思います」

メイクレッスン中の山崎さん

看護学生の髪で作ったウィッグは尊いもの

「キレイの力」プロジェクトの医療用ウィッグは、看護学生が、ケアしながら伸ばした髪の毛が使われている。「ウィッグサポーター」として参加する看護学生は、パーマやカラーは禁止。傷まないようケアしながら伸ばす必要がある。

「このプロジェクトは、最初は“患者さんのため”だけを考えていましたが、参加された看護学生さんたちは皆、毎日自分の髪をケアしながら患者さんに思いをはせる『いい経験ができた』って言ってくれるんです。プロジェクトを続けていく中で、これは双方にとっていい形になっていることが分かりました。ご協力いただいた看護学生さんたちには本当に感謝しています」

山崎さんは、完成したウィッグの贈呈式で、患者さんに伝えていることがあるという。

「がんになると、とにかくいろんなものに頼りたくなるんです。神様だとか、お守りだとか。それくらい不安。だから、患者さんには、『これはお金では買えない特別なウィッグ』って伝えています。看護学生さんたちの、患者さんへの思いが詰まった尊いものなので、お守りみたいに思ってもらえたらいいなという気持ちを込めて」

もともと海外で始まった、ウィッグを作るために髪を寄付するヘアドネーション。7年前、「キレイの力」プロジェクトが立ち上がったときには、日本ではまだ認知が進んでいなかったのだという。今ではこのプロジェクトをはじめ、日本でも広がりつつある。プロジェクトのメンバーは、こうした取り組みが広がることを願っているという。

「人員も支援も、私たちだけでは限界があるので、いろいろな企業や自治体が協力して、このような活動がどんどん広がっていけばいいなと思います。その良いモデルケースになれれば何よりです」

がん患者は、医療費の負担もあるため、医療用ウィッグの購入をためらう人も多い。「キレイの力」プロジェクトでは、こうした患者の負担を少しでも減らす目的で、看護学生からの髪の寄付に加え、一般の方が参加できるサポーターシップとして、1口3000円の寄付を募っている。30口集まると、そこに企業からの寄付金などを加えて1つのウィッグを作ることができる(詳しくはNPO法人キャンサーリボンズの公式サイトへ)。

がんになったおかげで、キレイになって、素直になれた

山崎さんは、「これからも自分にできることを地道に続けていきたい」と語る。それは自身の体験をもって、がん患者に伝えたい思いがあるからだ。

「がんになる前はね、実は、夫とあんまり仲良くなかったんですよ(笑)。仕事優先で互いを想いやる気持ちが薄れていたからかもしれません。でもがんって分かったら、自分ひとりじゃ手に負えないから人に甘えようって素直になれた。それで、夫婦関係がうまくいくようになったんです。おしゃれや美容に気を使うようになってから人生がより楽しくなった。あのとき、乳がんで立ち止まっていなかったら、擦り切れていたかもしれない。がんになったおかげで、今まで見えていなかったものが見えたんです。生きているから、そんな風に言えるんだって思われちゃうかな……。でも、もし生きていなかったとしても、きっとそう」

夫は言いました「人間、致死率100%だよ」

この記事を読んでいる人の中に、病と闘っている人、それを支えている家族がいるとしたら、最後に山崎さんからのメッセージを届けたい。

「がんになると将来のことが考えられなくなるものです。考えられることはマイナスなことばかり。そういう人は本当に多いと思います。だけど、今ちゃんと生きている、それは事実でしょう? 私のがんが発覚したときに、夫が言ったんです。『人間、致死率100%だよ』って。私はその言葉でなんだか救われました。死は必ず訪れる。それは病気に限らず誰だって同じ。がんの治療をしていても、もしかしたら災害や事故で死ぬかもしれない。だから、難しいかもしれないけれど、今を少しでも楽しむこと。わからない先のことを怖がるあまり、今ある幸せが見えなくなるのは本当にもったいないことだから」

もしかしたら、山崎さんのご主人の言葉を、冷たいと感じる人もいるかもしれない。しかし“不安がることはない”と、震える肩をそっと抱くような、愛に溢れた言葉だ。暗闇はすべてを隠してしまうこともあるけれど、そこには支えてくれる大切な人や、幸せの欠片があるのだと教えてくれた。

(写真:西田香織)

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