アートとカルチャー
2019年08月19日 07時00分 JST

白石和彌監督、佐藤健とのタッグで「家族の再生」描く きっかけは母親の死

次作『ひとよ』のテーマは「家族」。これまでの作風と異なる題材に挑みます。

©2019「ひとよ」製作委員会

『凶悪』や『日本で一番悪い奴ら』、『孤狼の血』など、ハードボイルドな作品で知られる白石和彌監督。2019年は、その作風とは一線を画すような題材に挑む。テーマは「家族」だ。

11月8日(金)に公開される『ひとよ』。桑原裕子が作・演出を手がけた舞台が原作だ。子どもたちの幸せを守るため、夫を手にかけてしまった母が、15年ぶりに子どもたちと再会する物語を描く。

一度崩壊してしまった家族は、どう繋がりを取り戻し、再生していくのかーー。撮影現場を訪ね、むずかしいテーマに新たに挑む白石監督にインタビューした。

©2019「ひとよ」製作委員会

 

母親の死が「家族」というテーマと向き合うきっかけに

「上手くいっていない家族とか、一度バラバラになった家族が何かを取り戻していく。僕自身のパーソナルな話でいうと、家族の話はどこかでやらなきゃいけないと思っていました。なおかつこじれた家族を描こうと」

「家族」というテーマをいま選んだ理由について、監督はそう話す。 

「『凪待ち』(香取慎吾主演、6月28日公開)も家族の話ではありましたが、それまで僕は『家族』の話をしっかりやったことがありませんでした。『ひとよ』を映画化しないかというお話をいただいて舞台をDVDで観たんですが、大袈裟な言い方をすると、ここに描かれている家族の在り方はすごく僕の人生にとって避けて通れない部分があると感じたんです」

「一度バラバラになった家族が何かを取り戻していく。それは僕の家族も同じようなところがあって。7年前に母親が亡くなった時、弟と連絡が取れない時期があって死に目に会えなかったとか...その感じが、兄弟って何なんだろうとか、すごく考えるきっかけにもなりました」

「そこで、自分が監督になってから、『家族』に向き合うという作業をしていなかったなと。今になって、何となく僕自身も振り返ることができるようになって、描くべき時期なのかなと思っています。その意味では、ヤクザ映画の方が楽ですね(笑)」

©2019「ひとよ」製作委員会

 

ショッキングな事件の中にも普遍性がある

撮影は5月下旬、茨城県神栖市で行われた。 

物語の主な舞台となるタクシー会社は、実際に営業しているタクシー会社を借りたという。世間から取り残されたような、どこか寂しげな情景が、「子どもの幸せを守るために夫を手にかけた」という特異な事件から好奇の目に晒されつづけ、ひっそりと生きる家族の姿と調和していた。 

母親・こはるは自首し、15年後に3人の子どもたちと再会する。

しかし、父親から解放されたからと言って、子どもたちの人生が「幸せ」になったわけではない。彼らは「被害者」の家族でもあり、「加害者」の家族でもあるのだ。

主人公・次男の雄二(佐藤健)は兄妹との交流を断ち、しがない風俗ライター

として働いていた。吃音を抱えている長男の大樹(鈴木亮平)は夫婦関係に思い悩み、長女の園子(松岡茉優)は美容師の夢を諦めてスナックの従業員としてふわふわと生きている。

作品が描くのは、現実離れしているように見える「ショッキング」な出来事だ。しかし、監督は「ショッキングさの裏には、普遍的なテーマが詰まっていると思う」と話す。 

「それぞれの子供たちには小さいながらも色々やりたかったことがあって、その未来のために母親が罪を犯す、という物語でもあります。それでも、成長した子どもたちは『なりたかった』ものになれていない」 

「子どもの頃、自分はどうなっていたかったのか?母親にはどうあってほしかったのか? 大人になった時にそれを叶えられていない、というのは多くの人が経験するような普遍的なテーマだと思いますし、だからこそ人間ドラマとしてこの物語が強さを持つんだろうなと思います」  

©2019「ひとよ」製作委員会

 

『ひとよ』が描く人間の複雑さ

母親・こはるを演じるのは日本が誇る名優の一人、田中裕子。監督がキャスティングを熱望し、スケジュール調整の末、出演が叶ったという。 

取材に訪れた日に撮影していたのは、物語の終盤。東京に戻る主人公の雄二が、家族に別れを告げるシーンだった。母のこはるは、ひと言も言葉を発することなく、優しく祈りを込めるような表情で雄二を見つめる。

白石監督は、レンズ越しに見る田中の「すべてが美しかった」と振り返る。

「人としての美しさがあり、物語をより美しくしてくれる存在でした。今までの田中さんのキャリアを含めて拝見しているような感じがして、背筋が伸びる思いでした」

物語の中心人物でもある母・こはるは、解釈が難しいキャラクターだ。 

子どものために夫を殺してしまったこはるは、悪人なのか、善人なのか——。その見え方は人によって様々だろう。しかし白石監督は、「母」という存在は、そうした人間の複雑さを丸ごと包み込むことができる存在なのではないか、と語る。

「その答えは誰も出せないと思うんですけど。僕も父親として、子どものためなら何か突き抜けていけるんじゃないかとか、大いなる愛みたいなものは全てを包み込めるのではないかという思いもあります。人間のいろんな部分の複雑さを受け入れられる存在として見ると、『悪い母親』『良い母親』というどちらの要素も、こはるというキャラクターの中には混在しているのだと思います」

痛快なストーリーとともに人間の弱さ、醜さを描いてきた白石監督は、どんな家族像を描くのか。『ひとよ』は11月8日(金)公開予定だ。

©2019「ひとよ」製作委員会

ひとよ
11月8日(金)全国ロードショー
監督:白石和彌 脚本:髙橋泉 原作:桑原裕子「ひとよ」
出演:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、MEGUMI、大悟(千鳥)、佐々木蔵之介・田中裕子
製作幹事・配給:日活