韓国のある大学で開かれた「ホモフォビア講演会」

表現の自由はヘイトの自由ではない。

「最近キャンパスで、性的少数者(LGBT)へのヘイトスピーチ(差別扇動表現)とか、露骨な差別が妙に多いんだよな」

韓国南東部の地方都市、浦項(ポハン)にある韓東大学に通う学生、Aさんはこんな言葉を耳にした。

韓国陸軍の普通軍事法院(軍法会議)が24日、同性と性関係を持った大尉に対して有罪判決を下した件は、韓国社会に議論を巻き起こしている。それと同時に、ホモフォビア(同性愛差別)がまたもや頭をもたげつつある。

そんな中、韓東大学は24日、「同性愛と同性婚に対する韓東大学の神学的立場」と題した文書を発表した。

「同性愛行為は、聖書の真理と倫理観に反するもので、根本的に個人とコミュニティに害と病気をもたらす、同性愛を治すことが真の人権回復だ」

この文章は、韓東大学の総長、副総長、校牧(宗教教育)室長、学生処長が合意したものだが、総学生会や学生の意見が全く反映されていない。(参照:http://newdam.com/49

この文書に呼応するかのように、「美しい結婚と家庭を夢見る青年の集い」というグループは25日、「同性愛について正しく知る」という名前の講演会を開いた。

学生10数人からなるこのグループは最近、「同性愛と同性婚についての21の質問」という70ページの冊子を制作し、講演前日に全学生に無料で配布した。冊子には、同性愛は先天的なものではなく、同性愛と肛門性交(アナルセックス)はAIDSの主な原因であり、聖書にも同性愛は罪だと書いてあるというものだ。

講演が始まる30分前から、キャンパス内でのホモフォビア拡散に反対する学生10数人が、教室の前で、「ホモフォビアこそ、治療できる」「表現の自由はヘイトの自由ではない」「ここにクィアがいる」などと描かれたプラカードを掲げて抗議活動を行った。

画像:チョン・グァンジュン

しかし、ほとんどの学生は抗議活動に無関心な素振りだった。時間が経つにつれ、教室に入る学生は増えていった。ある女子学生は、通りすがりにプラカードを見てこうつぶやいた。

「クィアってなんだったっけ?教わったんだけどな...」

この大学に通うAさんは、教室に入る人の数の多さに驚かされた。

「こんなに多くの学生が集ったのは初めてです。それもそのはず、それもそのはず、複数の講義で、2つの特別講義から1つを選んで受講するように促したんですよ。そのうちの1つがこの特別講義でした。受講すれば点数を上乗せするというところもあったそうです。だからと言って、こんなに人が多いのは衝撃でした...」

ちょうどその時、グレーのスーツを着た中年男性が通り過ぎた。

「あの人が『美しい結婚と家庭を夢見る青年の集まり』の指導教授で、ホモフォビアを煽る首謀者です」

するとある女子学生が叫んだ。「教授、恥を知りなさい!」教授は女子学生の前で立ち止まり「お前、今何と言った?」と詰問した。

「恥を知りなさいと言いました」

「何?礼儀を守れ!」

「性的少数者への礼儀を守りなさい!」

すると教授は、舌打ちをし立ち去った。

教授の態度を見たAさんは涙を流し続けた。そんな教授の口から語られるのは「脱同性愛者の証」「差別禁止法になぜ反対すべきか」という言葉だ。抗議していた学生たちは首を横に振った。

【訳者註】「脱同性愛者」とは、同性愛の"矯正"治療「コンバージョン・セラピー」で、性的指向が「治った」と主張する人のことを指す。このような行為は有害だとして、米国の5つの州では、若者に対する「コンバージョン・セラピー」を州法で禁じている。韓国のキリスト教団体は、脱同性愛者の人権こそが侵害されているとの主張を繰り返している。

1つ目のテーマは「ゲイ、神聖になる」。かつて同性愛者だったと自らを紹介した男性は、いかに乱れた生活をしていたかをつまびらかに語った。

「ゲイの友達はパートナーを取っ替え引っ替えしている、それは40代になっても変わらない、幸せな人を見たことがない」

続けて彼は、同性愛は歪曲された性的欲望であり、アナルセックスをする関係に過ぎない、そのせいでAIDSになったが、ありがたいことにある女性に出会ってから救われた、そして二人の間に子どもが生まれた、などと語った。学生たちは一斉に拍手を送った。

「彼女にカカオトークでプロポーズした」という言葉に、学生たちは感嘆した。義理の父が亡くなったという話には、残念がった。話は、共感を引き出すように組み立てられていた。

2つ目のテーマは「差別禁止法と同性愛独裁」。自らを弁護士と紹介した講演者は、しきりに「同性愛独裁」「表現の自由」という言葉を使った。

「西欧を中心に同性愛を支持するクリスチャンが増えて、同性愛独裁が蔓延っている。韓国では大胆なクリスチャンは『同性愛に反対する』と堂々と話すが、卑怯なクリスチャンは何も言おうとしない」

差別禁止法が合法化されれば、同性愛独裁が始まると熱く語った彼は、激昂した様子で「やつらは自由の名のもとに同性愛を叫ぶが、同性愛に反対する人々の自由は無視する、われわれに自由はあるのか!」と叫んだ。

表現の自由はヘイトの自由ではない。しかし、彼は終始一貫「学問の自由、良心の自由、表現の自由、信仰の自由が消える独裁時代がまもなくやって来る」と主張し続けた。教室は、まるで大きな教会のようになっていた。これが果たして大学のあるべき姿なのか。

教室に性的少数者はいなかったのだろうか。ある学生が語った。

「2年前にも同じような講演会があったが、性的少数者の友達2人が講義を聞かざるを得なかった」

教室を埋めた400人の学生の中に、性的少数者がいただろう。自らの存在を不憫で、罪人で、みだらだと決めつける言葉の暴力に打ちひしがれているであろう誰かのことを思った。そして、何もできずにいる自分に罪の意識を感じた。

学生処長は、プラカードを持って立っている学生を撮影した。ある中年女性は、彼らをにらみ続けた。講義が終わり、学生たちが一斉に外に出てきた。プラカードを持った学生に、ある学生がこんな言葉を投げつけた。

「同性愛は罪だよ、罪」

【訳者註】韓東大学は、慶尚北道(キョンサンブクト)浦項(ポハン)市にある4年制の総合大学で、学生数は4398人(2014年4月時点、大学のHPによる)。キリスト教系で、保守プロテスタント色の色濃い大学だ。市内中心部から北に15キロほど離れた山の中にある。

(翻訳:植田祐介)

ハフポスト韓国版より翻訳しました。

注目記事