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2020年02月13日 14時42分 JST | 更新 2020年04月24日 05時47分 JST

家族が闇じゃなくなった。トランスジェンダーのカップルが、結婚を求めて国と闘うことにした理由

「結婚の自由をすべての人に」訴訟に、新たな原告が加わる。一橋さんと武田さんが、国に伝えたいこととは?

Jun Tsuboike / HuffPost Japan
一橋穂さんと武田八重さん(仮名)

法律上の性別が同じカップルの結婚実現を求め、13組の同性カップルが国を訴えている「結婚の自由をすべての人に」訴訟。

同訴訟の原告に、トランスジェンダーで性自認が男性の一橋穂さんと、女性パートナーの武田八重さん(ともに仮名)が新たに加わる。

一橋さんは男性として生活しているが、戸籍上は女性のため、武田さんと結婚できない。

原告の中ではじめてのトランスジェンダーのカップルとなる一橋さんと武田さん。二人はなぜ訴訟に参加しようと思ったのか。そして国にどんなことを訴えたいのだろうか。

ハフポスト日本版は、一橋さんと武田さんに話を聞いた。

今、原告になる理由

一橋さんと武田さんはともに40代。数年前から武田さんと東京都内で暮らしている。

ふたりは、一年前に始まった「結婚の自由をすべての人に」訴訟を見守ってきた。

一人一人の原告が自分たちの気持ちを代弁してくれていると感謝する一方で、自分たちにもできることがあるのではという気持ちにもなったという。

「つらい状況の中で訴訟を闘っている原告たちを見てきて、ありがたいと思う一方で人任せにしていていいのかと思う気持ちもありました」

「原告になることで、仕事に影響が出て生活がままならなくなるのではという不安も、正直あります。でも、私たちにできることをやってみようと二人で話し合って決めました」と、武田さんは話す。

一橋さんも、「この年齢になって、病気や死というものがリアルに見え始めてきました。誰かがやってくれるだろう、とただ待つだけじゃダメなんだよなって思いました」と、原告になると決めた気持ちを語る。

出会って、変わったこと

Jun Tsuboike / HuffPost Japan
海外で結婚式を挙げた一橋さんと武田さん。日本で二人の法的な結婚は認められていない

一橋さんはかつて「どうせ自分は結婚できないだろうから」と思っていたという。

「若い時には、女性と結婚できない人生なんだったら太く短く生きればいいや、とあまり自分を大事にしていない時期もありました」

一橋さんが「女の子」という枠組みにはめられることに最初に抵抗感を感じたのは、幼稚園生の時だった。スカートをはかされたり、ままごとでお母さん役をしたりするのがとても嫌だった、と振り返る。

小学生の時から、好きになる相手はいつも女性だった。高校生になった時に、自分は男性だということをはっきり自覚した。

しかし、周りには同じようなトランスジェンダーの人たちがいなかったので、どう生きていいかわからなかったという。

どうせ家族を持てないのなら、太く短く。そんな一橋さんの人生観を変えたのが、武田さんとの出会いだった。

「彼女に出会って、長生きしたいと思うようになりました。それは家族ができたから。自分一人の体ではなくなって責任感も生まれました。相手を悲しませたくない、幸せな時間を一緒に過ごしたいという感情が強くなりました」

武田さんは、トランスジェンダーのカップルの自分たちが訴訟に加わることで、トランスジェンダーの人たちが希望を持ってもらえたら嬉しいと考えている。

「『トランスジェンダーの人たちは結婚を望んでいないよ』と言われることもあるんです。だけどそもそも、トランスジェンダーの人たちの中には『結婚できる』と思っていない人たちもいると思います。期待を持つのが怖いという気持ちもあるんじゃないかな」

「だから私たちが結婚の権利を訴えていくことで、もっと可能性について知って欲しい、希望を持って欲しいです」

性別取り扱い変更要件が、トランスジェンダーの人たちに与える負担 

Jun Tsuboike / HuffPost Japan
一橋さんがプロポーズした時、武田さんに贈った12本のバラ

一橋さんは性自認は男性だが、戸籍は女性のまま。恋愛対象である女性と結婚するためには、性別変更によって戸籍を男性にしなくてはならない。 

性別変更のためには、性別適合手術を受ける、未成年の子供がいないなど、複数の要件を満たす必要がある。しかしその内容は精神的にも経済的にも、そして肉体的にも大きな負担を強いるものだ。

20代の頃には手術をして、戸籍変更することも考えた一橋さんだが、今は手術をしたいと思っていないと話す。

「大人になってから『あなたはあなただよね』と受け入れられる友人たちに出会い、このままでいいんだ、社会の中で生きていくための道具としての『男性』という性別を無理して手に入れなくてもいいんだと思うようになりました」

「トランスジェンダーの人がみな、戸籍上の性別を変える訳ではありません。手術をする人もいますが、私はホルモン注射も卵巣の摘出もしていません。それでも、この体のままで何とか折り合いをつけながら日常生活を送れていますし、手術をしなくてもいられるのであれば、そうしたいと思っています」

武田さんも、命の危険を伴う手術を強要されなければいけないことに、パートナーとして怒りを感じている。

「失敗することだってあり得ますし、それに災害が多いこの国で、被災した時にホルモン治療を受け続けられるのかということもすごく不安です」

「(手術をしてもしなくても)、彼の存在は全く変わりません。なのに、なぜそこまでしなければいけないのでしょうか。そんな不安なことを押し付けられるというのは、すごく悲しいし憤りを感じます」

「想定していない」と主張する国に伝えたいこと 

Jun Tsuboike / HuffPost Japan

同性カップルの婚姻を認めない理由を、国は「想定していないから」と主張している

しかしそれは、現代社会の現状を無視した主張であり、法律で保護しない人たちを生み出していると一橋さんは訴える。

「憲法を制定当初の社会の中では、セクシュアルマイノリティーの人たちの存在はまだ見えておらず、想定していなかったのかもしれません」

「しかし、今はもう違うでしょう。これだけ声をあげている人たちがいる。社会の中でセクシュアルマイノリティーの人たちが見えるようになってきているのに、それでもまだ想定していないといい張るのは、どれだけ国民を見ていないんだと思います」

取材の途中、一橋さんと武田さんは「私たちは運よく生き延びたけれど」という言葉を使った。 

「私は運よく教育の機会を与えられ、学校に通えて、仕事ができています」

「だけど、トランスジェンダーの子どもの中には、自分の体への違和感がつらくて小学生の頃から自分の体を傷つけてきた子たちもいます。教育を受けられず、しんどくて学校にいけず、安定した仕事ににつけていないトランスジェンダーの人たちもいるんです」と、一橋さんは言う。

武田さんは、セクシュアルマイノリティーの子どもたち、セクシュアルマイノリティーの家族を持つ子どもたちが安心して暮らせる制度を作るのは、国の責任だと強調する。

「同性カップルを認めて彼らが子育てをすると、子どもがいじめられると言われることがあります。だけど私は、(性的マイノリティーを保護する)制度がないから理解が進まないんだと思うんです」

「今、制度がない中で、生き抜いていかなければいけない子供たちもたくさんいます。私たちは運よく生き延びられたけれど、そうじゃない人たちもたくさんいる。制度を変えなければ苦しむ子供たちがもっと出てくるという現実をもっときちんと見て欲しいと思います」

結婚できないトランスジェンダーのカップルのことを知って欲しい

ともに生計を支え、食卓を囲む。社会に暮らす大勢の家族たちと何も変わらない生活を送っている一橋さんと武田さん。

一方で、相手を扶養に入れられない、一緒にローンを組めない、どちらかが倒れてICUに運ばれたら、病院で配偶者と扱ってもらえないかもしれないといった不安や恐怖がつきまとう。

自分たちのように結婚できず不公平な扱いを受けているトランスジェンダーカップルがいることを、訴訟を通じて多くの人たちに知ってもらいたいと、一橋さんは願っている。

「もし法律上の男女であれば、たとえ婚姻届を出していなくても、事実婚としてかなり多くの法的な保護を受けられます。それなのに私たちは婚姻できないだけでなく、夫婦として生活していても、事実婚としても扱ってもらえないんです」

武田さんは、セクシュアルマイノリティーの人たちが結婚できないのは、身近に存在する差別だということを感じて欲しいと語る。

「自分の努力で変えられないことに対して、差別偏見を受けるというのがすごく理不尽なことというのを知って欲しいです」

「特定の人たちに『あなたたちは結婚ができません』と言うことは、例えて言えば、一部の街に住む人だけに『あなたたちには物を売りませんよ』と言っているようなものなんですから」

ふたりにとって、家族とは? 

Jun Tsuboike / HuffPost Japan

法律上の家族になる権利を求め、裁判で闘うことを決めた一橋さんと武田さん。

ふたりにとって家族とは?という問いかけに、一橋さんと武田さんは「作ること、育てることができるもの」と答えた。

武田さんはかつて「家族は闇だと思っていた」という。

「大切にされていることは感じるけれど、一緒にいるのは苦しい、今までずっとそういうものでした。でも、一橋と一緒になって初めて、家族っていいなと思えるようになったんです。家族って自分で作ることができる、そういう意味ですごくいいものなんだなって思えるようになりました」

一橋さんも、武田さんとの関係を通して、実家の家族との関係を育てている。

「私はずっと実家の家族にカミングアウトできずにいたので、根っこの部分ではどうせわかりあえないという、どこか冷めた、諦めたところがあったんです」

「だけど、彼女と一緒になったことをきかっけに、本当の自分はこうなんだよというのを少しずつ伝えられるようになりました。彼女との関係を大切にしながら、それ以外の人との関係も、今は育てているような感覚です」

ふたりには、忘れられない思い出がある。武田さんの祖父が亡くなった時に、親戚の一人が、葬儀に参列した一橋さんのことを「この人は誰」と尋ねた。

その時、武田さんのお父さんがしっかりと「家族なんです」と言ってくれた。本当にありがたかったと、ふたりは振り返る。

「窮屈だなと思うこともあったけれど、しんどいときに家族が支えてくれました。大事に思ってくれていたんだなということがわかり、家族のことを見つめ直すきっかけになりました」 

「結婚の自由をすべての人に」訴訟は、2019年2月にスタート。札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の5カ所で、複数のカップルが同性婚の法制化を求めて国を提訴している。