CAMPFIREでの支援総額が100億円突破。背景には、家入一真さんが気付いたクラウドファンディングの本質があった。

立て直しに必要だったのは「いかに小さい声をあげようとしている人に寄り添うか」という視点だった。
株式会社CAMPFIRE代表取締役社長・家入一真さん
株式会社CAMPFIRE代表取締役社長・家入一真さん
HUFFPOST JAPAN

インターネットを通じて、不特定多数の人から資金を募る「クラウドファンディング」のサービスを提供している「CAMPFIRE」は3月5日、累計流通額(支援資金の総額)が100億円を突破したと発表した

CAMPFIREは2011年に家入一真さんが共同創業した。その後、実質的な経営は共同創業者に任せていたが、2016年に代表取締役社長に就任。

流通額100億円という節目の時に、改めて「クラウドファンディングの本質」を家入さんに聞いた。

■CAMPFIREは「この国の課題に実は一番向き合っている会社なんじゃないかと思った」

ーーCAMPFIREを創業後、一度会社を離れて、2016年に戻られましたね。

僕が戻った当時のCAMPFIREは、流通額は低迷して、スタッフも3人になっていて、会社も潰れそうな状況で…。立て直すために戻ったんです。戻ってみると、「こんな素晴らしい事業をやってたんだな」と再度気づきました。

2014年に東京都知事選に出馬して見えた世界や、リバ邸(家入さんが手がける、「現代の駆け込み寺」と銘打ったシェアハウス)などの居場所作りの活動で見えてきたこの国の課題に、実は一番向き合っている会社なんじゃないかと思ったんです。それ以降、CAMPFIREを軸として活動しています。

ーー「この国の課題に向き合っている」とは?

ひとつは原体験に紐づくことでいうと、家がすごく貧しくて、親父が自己破産して、離婚もしました。合わせて、僕はいじめられて中2くらいから学校に行けなく引きこもっていた。

引きこもっているときに、芸大・美大を受けるための予備校に行きたかったけど、学ぶお金も出せない状況だった。結果的に僕はたまたま見た新聞で、新聞奨学生の募集を見つけましたけど。

生まれながらの家庭環境や金銭的なものによって学ぶ機会を得られないことは自分自身が経験しています。

ーーご自身の経験から課題を感じていた、と。

もうひとつは、都知事選に出た時に、「東京をどうしていったらいいと思いますか?」「どういうところが課題だと思ういますか」などを、お年寄りにヒアリングしたんです。

そしたら、100%に近いくらい「このままでいいよ」と言われました。「特に不満なんかないよ」や、なんなら「税金をもうちょっと下げて欲しい」と。自分たちはもうこれでいいからこれでいいよというのを感じたんですよね。

一方で、応援してくれた人やボランティアには若い人がたくさん集まってくれたんですが、若い子たちは必死だった。

就活で悩んだり、心を病んでいたり、お金がない子だったりがボランティアをしてくれていた。

この子たちが「この国に住んでてよかった」と思える国を作るには、今から動いていかないと何も変えられない。上の世代から僕らに連綿と受け渡されてきたバトンがあるとすれば、そのバトンを次に繋げないと途切れちゃうなと思ったんですよね。

ーー「バトンを渡す」という意識が強いんですね。

日本って、世界で見ても国民の預貯金額は多いけれど、その8割は高齢の方々のお金です。それを「くれよ」と言うつもりは無いけれど、その内少しでも、ほんとに1%のお金でも、若い人の活動に、もっと滑らかに巡っていくような仕組みを作らないと、お金を持ったまま高齢者が亡くなっていくことになるなと。

特に最近は、「地方をどうにかしたい」や「社会を良くしたい」という若い人が増えてきているので。

ーークラウドファンディングだからこそ解決できると。

クラウドファンディングという仕組みは、もちろん全てを解決する訳ではないけれど、力もなくてお金もなくて年齢も若くて無名のような、そういった人たちにとって、インターネットが浸透し、スマホが普及したからできる、新しい資金調達方法・応援の集め方だと思っています。

終始、穏やかに想いを語る家入さん
終始、穏やかに想いを語る家入さん
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■「クラウドファンディングの本質にちゃんと向き合ってこなかった」

ーー2016年、低迷するCAMPFIREに戻ってから、実際には何をしたのですか?

クラウドファンディングの本質を捉え直そうという話をしました。

当時のクラウドファンディング市場は、1件5000万円や3000万円のような大型案件を狙っていました。それで結局、案件が取れなくて流通額が低下していた。

クラウドファンディングの本質は、スマホやインターネットというテクノロジーによって個人が力を得られることです。その本質は今でも変わらないし、これからも変わらないと僕は思っています。

例えば、「5万円あればフリーペーパーが出せる」とか「10万円あれば個展ができるのに」とか。今の銀行はそんな小さな金額に融資をしないから、この人たちは、バイトをしながら貯めるか、「僕らには無理だった」と諦めるかのどちらかになる。

大きい案件が悪い訳ではないですけど、本当はそういう、特に地方の、名もない個人が共感を集めて、小さい金額だけどサクセスしたという小さな物語が、クラウドファンディングの本質。僕らはそこにちゃんと向き合ってこなかった。

だから、手数料を(20%から)5%に下げて、「小さな火を灯す」というコピーに変えて、それまで大型案件を営業で取りにいっていたのを止めた。いかに小さい声をあげようとしている人に寄り添うかに変えました。

そうしたら、プロジェクト数が少しずつ増えて、一個一個は小さなプロジェクトだけど累積で流通額も積み上がっていった。

■「まだ入り口の入り口。ここからまた、攻めていきますよ」

ーーCAMPFIREの今後の展開は?

流通総額は100億円を超えました。「100億円」というと、ひとつの区切りのように感じますが、僕らからすると、入り口の入り口に立ったという感覚で、まだまだです。

僕らが実現したい世界を作るには、もっともっとお金が流通する世界を作らなければいけない。単に流通額が大きければいいという話ではないですが、流通額が大きくなると、お金が滑らかに巡る土台ができていくし、これまでならお金が集まらなかった方がチャンスを得られるかもしれません。

ーーあくまで「お金を滑らかに巡らせる」ことが軸にあるのですね。

あとは手数料ですね。基本的に支援者が「活動を応援したい」ということで支援しているお金なので、本来1円でも多く発起人に渡すべきだと思っています。

けれど、ひとつひとつのプロジェクトにサポートや手間がかかっているので、今のプロジェクト数なら、この金額の手数料(現在は12%)をいただかないと継続できません。流通額がもっともっと伸びていけば、手数料を下げられるはずです。

ーー流通額が大きくなるメリットがまだまだあるということですね。

僕らは、従来の金融機関を倒そうとは思わないけれど、少なくとも同じくらいの流通額に行きたいし、行かないとインパクトを起こせないと思ってはいる。

8年かかって、一旦100億円まできました。ここから、また攻めていきますよ。上場もひとつの視野に入れています。

2016年、CAMPFIREを立て直すために考えたことは「小さい声をあげようとしている人に寄り添う」というクラウドファンディングの本質だったという家入さん。そんなCAMPFIREが掲げるビジョンは「優しい革命をおこす」だ。後日公開予定の後編では、家入さんが考える「優しい革命」の中身に迫る。

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