はじめてのSDGS
2019年11月26日 07時00分 JST | 更新 2019年11月26日 19時10分 JST

絶滅危惧のイルカをKDDIの研究員が調査。海中ケーブルの技術が意外な場所で役に立っていた。

「まさか、イルカ観測することになるとは…」通信のための技術が切り開いた新境地

Yuko Funazaki
KDDI総合研究所の小島淳一さんと東大生産技術研究所の杉松治美研究員

川にイルカ?しかも、インドのガンジス川に?

知らない人は耳を疑うかもしれないが、実はガンジス川にもイルカが棲息している。しかし人間活動による水質悪化などにより激減し、現在は2000頭ほどと言われ、絶滅危惧種になっている。

彼らの保護に繋げるため、生態状況の調査を行っていた意外な日本企業がある。電気通信企業として有名なKDDIだ。長期観測は2018年度に一旦終了しているそうだが、そもそも何がきっかけだったのだろうか。

イルカと通信企業の繋がりとは?

「KDDIに入社したとき、まさか自分がインドでイルカの観測をすることになるとは思っていませんでした」

そう語るのは、KDDI総合研究所で環境計測プロジェクトのリーダーを務める小島淳一さん。もともとは、海底ケーブルの設置、修復などの技術の研究、水中ロボットの導入などを行っており、のちに自律航行型海中ロボットAE2000を開発した。その後、ロボットはある程度実用化までは行ったが、なかなか先に進まなかったという。

そんな時、転機が訪れた。

共同研究の依頼を出した東大生産技術研究所の杉松治美研究員は、当時のことをこう語る。「ある学生が、『水中ロボットを使ってクジラ観測はできないだろうか』と提案したんです。確かにクジラも音を出していて、可能ではないか、と。そこで、KDDIさんの水中ロボット(AE2000)を使って一緒に共同研究しないか?と声をかけたんです」

Sandeep Behera氏 提供
WFFインディアにより保護され、パンチャプトゥーリ淵にリリースされるガンジスカワイルカ

その後、2000年に沖縄でのクジラの観測から始まり、インド工科大学の教授との出会いを通じ、インドのチリカ湖でのカワイルカの調査を経て、2006年にガンジスカワイルカの観測プロジェクトをスタートした。

ガンジスカワイルカのプロジェクトはKDDI、東京大学生産技術研究所海中工学研究センター(現在、東京大学海中観測実装工学研究センターに改組)、インド工科大学デリー校、WWFインディアと共同で行われた。

「イルカは音を出します。水中ロボットも音を使ってポジショニングするので、水の中の音響技術を応用したのです。ターゲットがロボットではなく、イルカやクジラに変わりました」と小島さんは話す。

 

実際どのように調査していたのか?

ガンジスカワイルカは濁った水中に棲息しており、カメラなどを設置しても調査は難しい。そのため、従来はイルカが息継ぎに水面に現れた一瞬を目視で観測していたという。

小島さんらチームが導入した調査は、KDDI総合研究所の最新音響技術を使い、イルカの発する超音波音を複数の水中マイクを固定し長期で記録するもの。後には、固定マイクの他にも、移動式マイクを舷側から降ろして川を移動しての調査や、バルーンを使った空中からのカメラ撮影などの手法も併用し、生態を調査した。

東京大学生産技術研究所
複数の水中マイクを固定したハイドロフォンアレイ

これまでの調査で、イルカの発する音の特性や、イルカの行動パターンが明らかになってきた。

ガンジスカワイルカの存在はインドでもあまり知られていないそうだが、最近は環境への士気も高まり、小島さんらの調査は現地テレビや新聞などのメディアにも取り上げられた。

現在、長期観測は一旦終了しているが、国際会議などでの発表や展示で情報発信を行なっている。

東京大学生産技術研究所
2012年11月 インドのガンジス川の流れるナローラにて(1番左が小島さん、その隣が杉松教授)

 

応用から広がる可能性

もともと海中ケーブル設置のために開発された海中ロボット。ガンジスカワイルカの調査は一旦終了したが、現在は資源調査や地形探査にも活用されている。

2017〜2018年に開催された海底探査技術の国際大会「Shell Ocean Discovery XPRIZE」では、小島さん含むKDDI総合研究所や杉松さんが在籍する東大生産技術研究所などにより構成された「Team Kuroshio」は、準優勝という結果を残した。この大会は、水深4000メートルの深海を無人ロボットで探査し、海底地形マップを製作するものだ。

「水中ロボットを作ったことで、全てが始まった」と語る小島さん。もとは海中ケーブル設置のために開発された技術は、目的や国を超え、世界で新境地を切り開き続けている。

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