「お前は最高に頭が悪い」先住民族の女性、病院で人種差別を受けた後に死亡。Facebookに動画を投稿していた

続いてきた先住民族への人種差別。「彼女はカナダのジョージ・フロイド」と言う人もいます

一人の女性の死が、カナダ先住民族への人種差別問題を浮かび上がらせ、カナダ社会を揺さぶっている。

先住民族アティカメクのジョイス・エチャクワンさんが亡くなったのは9月28日。亡くなる前、エチャクワンさんは看護師に助けを求める訴えを無視され、侮辱的な言葉を浴びせられていた。エチャクワンさんはその様子を、Facebookライブで投稿していた。

動画にうつっていた人種差別的な行為に多くの人たちが衝撃を受け、抗議活動が行われている。

苦しみを訴える中、浴びせられた差別的な言葉

7人の子どもの母親だったエチャクワンさんは、激しい腹痛のため、住んでいたファーストネーションズ(イヌイットとメティス以外のカナダの先住民族)の居住時から車で約3時間の場所にあるジョリエット病院に運ばれた。

エチャクワンさんは心臓疾患を抱えており、2014年からペースメーカーをつけていた。

Facebookに投稿された動画で、エチャクワンさんは激しい苦しみを訴え、「誰か来てください」と懇願していた。

エチャクワンさんの親族は「大量のモルヒネを投与されたために体調が悪化し、命の危機を感じていたのではないか」とラジオ・カナダに話す

死の直前に投稿されたFacebookライブ。エチャクワンさんは「誰かきて」と訴えていた
死の直前に投稿されたFacebookライブ。エチャクワンさんは「誰かきて」と訴えていた
CAPTURE D'ÉCRAN/FACEBOOK

しかし、動画に声が記録されている少なくともの二人の看護師は、エチャクワンさんの訴えを無視。

「もう十分に騒いだ?」「お前は、最高に頭が悪い」「何か自分で変なことをしたんだね」「こんな姿を見たら、あんたの子どもたちは何て思う?」「得意なことはセックスだけ」「そのために税金を払うのは私たち」とエチャクワンさんを侮辱し続ける声が動画には残る。

エチャクワンさんは、その日の夜に亡くなった。

怒りと悲しみ

ケベック州のルゴー首相は29日の記者会見で、看護師の行動は「とうてい許容できるものではない」と非難した。

また動画が明るみに出た後、二人の看護師は解雇された

エチャクワンさんの死後、多くの人たち、とりわけ多くの先住民族の人たちがジョリエット病院の前に集まり、ろうそくを灯して「ジョイスに正義を」と訴えた。

また、参加できなかった人のためにオンラインの抗議活動も開催された。

ジョリエット病院前の抗議活動に参加したジョイスさんの夫のカルロ・デュべさんと母親のダイアン・エチャクワン・デュべさん(右)
ジョリエット病院前の抗議活動に参加したジョイスさんの夫のカルロ・デュべさんと母親のダイアン・エチャクワン・デュべさん(右)
AUL CHIASSON/LA PRESSE CANADIENNE

このろうそくを灯す抗議活動を企画したチャンタル・チャートランドさんは、 「先住民の女性、そして母親として、何かしなければいけないと強く感じました」と話す。

多くの先住民族と同じように、イヌー族のチャートランドさん自身も10代の頃に医療機関で「トラウマになるような差別」を経験した。それはその後も続いている。

チャートランドさんは看護師を処罰するだけでは不十分であり、「誰かが『もう十分だ』と声を上げるべきでした」と語る。

チャートランドさんが、エチャクワンさんの葬儀費用と家族のために立ち上げたクラウドファンディングには、これまでに19万カナダドル以上が集まっている。

エチャクワンさんの死因を調べる捜査も始まっている。

ケベック州の検視局はエチャクワンさんの死亡にについての調査を開始したと発表。同州の保健省も、看護師の行為は一切許容されるものではなく、内部調査をしていると明らかにした。

国も動き出している。マーク・ミラー先住民サービス大臣とキャロリン・ベネット政府‐先住民関係大臣は、エチャクワンさんの死について捜査を立ち上げると発表した。

システム化された人種差別を終わらせたい

エチャクワンさんが亡くなった後、多くの先住民族のグループが「システム化された人種差別を終わらせなければいけない」と声をあげている。

あるコミュニティアドバイザーは、「ジョイスさんはケベック州のジョージ・フロイドもしくはブレオナ・テイラーです」と、アメリカで人種差別抗議運動のきっかけになったふたりの黒人にエチャクワンさんをなぞらえる。

モントリオールで先住民族女性のシェルターを運営するジャニス・カヴァヴァ・ビボー氏は「先住民族の人たちが受けているのは警察からの暴力ではなく、人種差別的な病院スタッフからの暴力です」と、訴えている。

ジョイス・エチャクワンさんは、心疾患があったため2014年からペースメーカーをつけていた
ジョイス・エチャクワンさんは、心疾患があったため2014年からペースメーカーをつけていた
GOFUNDME

また、ファースト・ネーションズ・ケベック・ラブラドール会議の(AFNQL)ジスラン・ピカード代表は「ケベックでは、ファースト・ネーションズへの差別が頻繁に起きています。昨日、ジョリエット病院で亡くなったアティカメクの女性の死は、この悲しい現実を映し出しています。ケベック州の多くの人たちがそのことに気がついています」と、声明で発表した。

州で人種差別や差別問題について大掛かりな改革が進まないことから、 AFNQLは29日に、独自の行動計画を発表したばかりだった。

一方、ケベック州のルゴー首相は、エチャクワンさんへの差別を非難したものの、システム化された人種差別が存在することについては否定した。

「私たちは、ケベック州に存在する人種差別と闘わなければなりません。看護師の発言は人種差別でした。しかし全ての看護師、もしくは全医療機関で同じことが起きたかといえば、全ての人がそれはないと答えるでしょう」

10月3日には、エチャクワンさんの死を悼み、システム化された人種差別を終わらせるための抗議活動がモントリオールで開かれる予定だ。

ハフポストカナダ版の記事を翻訳・加筆しました。

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