蛍舞い、棚田広がる山里にダム計画 「ふるさと守りたい」住民の姿を映画に

県の勧誘に乗らないために、県職員らの話を「見ざる聞かざる話さざる」。ユニークに明るく戦おうという住民の気持ちが現れている看板。

石木ダム建設で揺れる長崎県川棚町川原地区に住む石丸勇さんとキム子さん夫婦。ふるさとを守りたい一心だ。

ダム建設予定地となっている石木川。子供たちが泳ぐ姿も

初夏には川沿いの田んぼから蛍の光が立ち上る。盛夏には橋から子供たちが川に飛び込む。川のせせらぎは、この地域で生きてきた人にとって、かけがえのない体に染みこんだリズムだ。

長崎県川棚町の川原地区。大村湾から車で15分、幅3メートルほどの石木川に沿って、一本道が山へ向かって続く。そこに家々が点在する。

8月に取材で訪れると、棚田には青々とした稲が風に揺れ、石木川では子供たちが泳いだり魚すくいをしたりしていた。

41年前、この石木川に県などが石木ダムを建設する計画を国が採択した。建設されれば、いまも13軒60人が暮らす川原地区全体がダム湖の底に沈むことになる。

この地域で生活する人々の姿を映像に収めている人がいる。大手広告会社のプロデューサー、山田英治さん(47)だ。自身が立ち上げたNPO法人として、東京から通って、ドキュメンタリー映画「ほたるの川のまもりびと(仮)」を撮影している。

旧盆、山田さんの撮影チームは、親戚が集まった炭谷猛さん(65)の家を訪れた。日が落ち始めたころ、親戚15人ほどが大きな食卓を囲んだ。部屋には人の背丈より大きい仏壇。果物や菓子など供え物が並び、壁には祖先の顔写真が飾られている。

おむつをした赤ちゃんが畳の上をころころと転げ回って笑いを誘う。春にとれたゼンマイの油炒めや色鮮やかな赤米のおにぎりなどを囲んで、先祖を思い、手を合わせる。その飾り気のない生活に、山田さんら撮影チームはそっとカメラを向ける。

炭谷さんは「先祖の魂が戻ってくる所はこの里でなくてはならない」と静かに語った。

そんな里山の穏やかな日々の暮らしを守ろうと住人は結束する。

セミの鳴き声が迫り降ってくるような山を背にした家に岩下すみ子さん(67)は暮らす。「ここから強引に引きはがそうとする権力の横暴は許されるのですか」と訴える。傍らには、びっしり書かれたノートが積み重ねられていた。県職員がどんな発言をしたのか、みかん、クッキーなど支援者から差し入れられた品物まで書かれている。

住民や支援者は、お盆などを除いて朝から夕方まで、交代で「見張り小屋」に詰めて、県の動きを監視する。

昨秋には、住民が寝静まった深夜、県職員とともに関係者の重機が集落に入って来たことがあった。たまたまトイレに立った住民が、耳慣れない音に気がついた。呼びかけ合って住民らは着の身着のまま結集。道路上で県関係者ともみ合い、押し返したという。

石丸勇さん(67)とキム子さん(66)夫婦はその時の様子をカメラに収め、記録にまとめている。

「毎日毎日、私たちががんばらないと隙をみせるとあっという間に公権力に乗っ取られてしまいます。だから、がんばっています」

「私たちは歳をとっていくけれど、県側はどんどん若い人が次々に来て、県側の力は変わらないのです」

と話す。

山田さんは「小さな里山を守りたい。そんなささやかな住民の思いから発する力強い活動をカメラに収めて、全国の人々に訴えたい」と思う。会社の仕事の合間を見つけては、川原地区に足を運んで撮影を続ける。その制作資金への支援をA-portで募っている。

山田英治監督(左)と百々新カメラマン。小さな村落をカメラを持って駆け回る

県の勧誘に乗らないために、県職員らの話を「見ざる聞かざる話さざる」。ユニークに明るく戦おうという住民の気持ちが現れている看板。

山田監督からのメッセージ

長崎県川棚町こうばる地区。夏には蛍が舞う自然豊かなこの里山に、ダム建設計画が持ち上がったのは約半世紀前。そして今まさに住民たちの反対をよそに、ダム建設のための土地収用が強行されようとしています。私はそんな状況にも関わらず、明るく前向きに暮らす13世帯の家族の日々を、世界中の人々に伝えたくて映画を制作しています。しかし完成までの制作資金が足りません。なんとか完成させたいです。ぜひともご支援の程、よろしくお願いします!

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