石原さとみ主演『Heaven?』、コミック連載終了から16年越しのドラマ化。その理由とは?

プロデューサーの瀬戸口氏は、「肩の力を抜いて笑ってもらうことが本作の最高の評価だ」と話している。
石原さとみさん
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時事通信社
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石原さとみ『Heaven?』、原作漫画連載終了16年後のドラマ化の背景

『99.9-刑事専門弁護士-』『A LIFE~愛しき人~』など話題作を多く手がけるヒットメーカー、TBSの瀬戸口克陽プロデューサーの新作は、石原さとみ主演の火曜ドラマ『Heaven? ~ご苦楽レストラン~』(TBS系)。原作コミックの連載終了から16年を経てのドラマ化の経緯、予測不能なコメディに潜ませたメッセージについて聞いた。

■16年の時を経て気づいた今の時代に届けたいメッセージ

石原さとみが演じる風変わりなレストランオーナーと、彼女に振り回される従業員たちのドタバタ劇を描くドラマ『Heaven? ~ご苦楽レストラン~』が、話題作の続くTBSの火曜ドラマ枠でスタートした。

原作は『動物のお医者さん』などの傑作コメディで知られる佐々木倫子氏によるコミック。同作の大ファンだったという瀬戸口氏は、03年の連載終了の直後に映像化の許諾を取り付けたものの、「力不足で着地ができなかった」と振り返る。その後、数々の名作ドラマを世に送り出し、満を持して手がけるのが本作だ。

「時を経て最高のキャストと心強いスタッフが揃ったのはもちろん、当時は読み取れなかった原作の根底に流れるメッセージに気づくことができました。そのメッセージは、16年前よりも今の時代にこそ届けたいものでした。そういう意味で、一度は頓挫したことも含めて、この原作にはとても運命を感じています」

物語は、石原が演じる謎の女性・黒須仮名子が「心ゆくままにお酒と食事を楽しみたい」という自己の欲求を叶えるためだけに、フレンチレストランを開業するところから始まる。彼女がスカウトするのは笑顔を作ることが苦手な伊賀観(福士蒼汰)をはじめ、レストランの従業員としては、それぞれ欠点と思われる点がある者ばかり。しかし、その瞬間瞬間、自由奔放に振る舞う仮名子に翻弄されるうちに、いつしか最高のチームになっていく。

「一流ではないと思われていた従業員たちが成長する物語ではないんです。むしろ彼らの欠点は最後まで欠点のまま。だけどこのレストランでは、その欠点のピースとピースが絶妙に噛み合うことでそれぞれが個性を発揮し、やがて誰1人として欠けてはならない存在になっていきます。彼らは他の職場では通用しないかもしれません。だけど今の時代はどこか自己啓発的と言いますか、がんばらなければ役割を果たせないと思い込んでいる人や、あるいは過剰に成長を求められる職場も少なくない。それによって疲弊してしまうより、自分にとって居心地がよく、かつ持ち味が生かせる場とマッチングすることが、本当は人間にとって幸せなんじゃないか。そんなメッセージを僕は原作から受け取りました」

■モノローグシーンで見せるコメディ演出の新たな発明

もちろん本作はあくまでコメディであり、仮名子もまた相手を励ますような感動的なセリフを言うわけではない。何しろ彼女の行動原理は自分の欲求が最優先。決してブレない彼女に振り回されるスタッフたちが、困惑しながらも奮闘する姿はまさに究極のコメディだ。

「彼女は誰かに影響を与えたいなんて微塵も考えていません。だけどその人間としての精神的、肉体的な強さこそが彼女の説得力であり、周囲の人々も結果的に気持ちよく振り回されていきます。そうした原作のキャラクターを体現できる女優は今、石原さんを置いてほかにいないと思います。ちなみに、最高に華のある石原さんを紅一点で真ん中に配置しましたが、ラブの要素は一切ありません!」

脚本は『花のち晴れ~花男 Next Season~』(18年)の吉田恵里香氏、演出は『99.9 -刑事専門弁護士-』(16年、18年)の木村ひさし氏と、全幅の信頼を寄せる座組みとなった。

「ソムリエ役を演じる岸部一徳さんは、あまりコミックを読まれないそうなんですが、この原作はとても気に入られて『この予定不調和さをいかに表現するかだね』とズバリ魅力を指摘されました。たしかにコメディは、ほんの細かいズレがおもしろさにもつながれば、テンポを崩してしまうこともあります。吉田さんは軽みのあるシーンが上手で、かつ笑いのリズム感にとてもセンスがある方です。木村さんはキャラクターを引き出すのが巧みな上に、演出のアイデアも斬新。レストラン従業員たちのモノローグシーンは、コメディ演出の新たな“発明”だと自負しています」

肩の力を抜いて笑ってもらうことが本作の最高の評価だと、瀬戸口氏は言う。さらにその奥に潜ませたのは、がんばりすぎて疲れている人に向けた「人生を生き抜くヒント」。ジャンルはまったく違えど、これからの時代の働き方を提起した同枠前期の『わたし、定時で帰ります。』に続き、社会的な意義のある作品になりそうだ。
(文/児玉澄子)

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