アジア大会サッカー日韓戦、両チームの特徴と限界が見える試合に

試合終了直前にPKを取られての惜敗。U21日本代表が、準々決勝で韓国に敗れた試合である。僕にとって「不倶戴天の敵」である韓国にあんな負け方をして、本来なら悔しくて仕方がないはずなのに、どちらかといえば日本が健闘したという印象が残った。
時事通信社

試合終了直前にPKを取られての惜敗。U21日本代表が、準々決勝で韓国に敗れた試合である。僕にとって「不倶戴天の敵」である韓国にあんな負け方をして、本来なら悔しくて仕方がないはずなのに、どちらかといえば日本が健闘したという印象が残った。日本がU21代表なのに対して、アジア大会開催国である韓国は規定いっぱいのU23代表にオーバーエイジを加えたチーム。このアンバランス、非対称性。それが、せっかくの熱い試合なのに、気持ちを燃え上がらせることができない理由である。この年代でも、やはり2歳の差は大きいし、選手選考の枠も大きく広がる。かなり絶対的な差と言ってもいい。

そういう頭があるから、韓国に一方的に押し込まれる試合を見せられても、「仕方がないか」と思ってしまうし、終了間際までなんとかゼロに抑えたのは「健闘」と感じてしまうのだ。もちろん、試合をする以上はそういう気持ちは困る訳だし、ピッチ上の選手たちは十分に気持ちを込めて闘ってくれたのも分かる。こんな錯綜した気持ちが嫌なので、アジア大会には来るつもりがなかった訳である。

さて、試合内容だが、韓国代表がフィジカル的なパワーを活かしてロングボールを多用し、日本がワンタッチのパスを通して攻める辺り、この年代になっても、やはり両国の特徴が生きていることが面白かった。特に、前日に「K3リーグ(現・チャレンジャース・リーグ)」を見て、「韓国でも下部リーグでこんなにテクニカルな試合をするようになったんだな」と思ったばかりだったので、余計に両国の戦い方がはっきりと違ったのが面白かった。

日本チームとして、まず目についたのは、岩波拓也と植田直通というサイズのあるセンターバックが、ロングボールを使ってくる韓国に対し、強さや高さで負けなかったことだ。ロンドン・オリンピックの3位決定戦で顔を合わせた時、日本の最大の弱点であるセンターバックの所を狙われて易々と(と、僕には見えた)破られた記憶があるので、岩波と植田が戦ってくれたことは評価したい。

ただ、足元のプレーでミスがあったことは反省材料だろう。また、空中戦で反則を取られた点も、気を付けないといけない。アジアの審判は選手が倒れると反則を取る傾向があるのも事実だが、今回の日韓戦でのプレーをみると反則を取られても仕方がないプレーが多かった(大島僚太がPKを取られたプレーを含めて)。ただ、やはり反則を取られたとしても、韓国のFWと互角に戦えたことは評価したい。

一方、攻撃面では、ほとんど見るべき点はなかった。特に、後半は日本が攻撃の形をほとんど作れないまま過ぎた印象だ。それでも、前半の10分から20分までの時間帯は、何度か日本のパスが回って決定機を作っていた。野津田岳人、中島翔哉、矢島慎也の2列目と、サポートする大島僚太、遠藤航のMF陣のパス回し。これが、この世代でもやはり日本の武器となっていくのだろう。

ただ、両チームとも、ストロングポイントを十分に活かしきれなかったのも事実。韓国は勝利したとはいえ、PK以外に得点できなかった訳であり、「宿敵」日本に勝ったからといって、手放しでは喜べないはずだ。ロングボールで何度も何度もチャンスを作りかけはするのだが、そのロングボールから抜け出した選手のボールコントロールが心もとない印象だ。「チャンス!」と思っても、ボールが足につかず、日本選手にクリアされる場面が多かった。

一方、日本のワンタッチパスを通す技術力は韓国を上回っていたものの、パススピード、判断のスピードをもう少し上げないと、最後はパスを切られてしまう。両者のストロングポイントがはっきり見えたと同時に、そのストロングポイントを活かす為に何が不足しているのか、その限界もはっきりと見えた試合だった。ブラジル・ワールドカップでは共に世界との差を痛感させられた日韓両国。互いのストロングポイントを高めていく為に、今後も時宜に応じて戦いを続けて切磋琢磨したいものである。

今回のアジア大会で、日本チームはこの世代でアジア最強と言えるイラクと韓国と戦うことができた。イラク戦は、クウェート戦との連戦となって疲労があったこともあって、完敗を喫したが、韓国に押し込まれたとはいえ最後の時間まで戦い抜くことができたのは大きな収穫。欲を言えば、準々決勝では中間的な力のチーム(例えば、サウジアラビアとか北朝鮮)と戦ってベスト4に進出し、大会で7試合を経験したかったところだが、韓国と、しかも4万3221人という大観衆の前で戦えたことはやはり良い経験をしたと言っていいだろう。

決勝進出を決めた女子代表の方は、決勝トーナメントでは香港、ベトナムという力の差が大きいチームと当たってしまった。銀メダル以上が確定したので、成績としては好成績で男子以上なのではあるが、チーム強化という意味では得るものはあったのだろうか?ベトナム戦などは、実力通りに押し込んで試合を進めたものの、フィニッシュ段階でのコンビネーションの悪さ、そして、シュートミスの多さには、目をふさぎたくなった。ベトナムのGKの好守もあって攻めあぐねている間に、次第にチームがバラけてしまったような印象だ。せめて、決勝戦では強い相手にしっかりとした試合をして欲しいものだ。

ところで、今回、僕は仁川の文鶴(ムンハク)競技場という所に初めて来た。陸上競技兼用の競技場だが、スタンドはトラックに近く、スタンドの傾斜も急でなかなか見やすい競技場だった。これで、僕は2002年ワールドカップで使用された10ヵ所の会場のうち、光州(クァンジュ)以外のスタジアムは全部行ったことになる。来年は、その光州でユニバーシアード競技大会が開催されるので、行ってみようかと思い始めた所である。

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後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

(2014年9月30日J SPORTS「後藤健生コラム」より転載)

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