石破陣営が安倍陣営に「干さないでね」 盛り上がらない総裁選の裏側で……

討論会会場を緊張させたのは、論戦ではなく意外な一言だった

事実上、首相を決める自民党総裁選の投開票(9月20日)を前に16日、安倍晋三首相と石破茂元幹事長による討論会(niconico主催)が開かれた。

2人の討論そのものは、これまでに主張してきたことの繰り返しで驚きもなく、盛り上がりに欠けた。しかし、石破陣営のこんな一言が会場を緊張させた。「仲良くやりましょう。干さないでね」――。

Satoru Ishido

SNS用動画撮影で盛り上がる安倍陣営

発言の主は石破陣営の中核、平将明衆院議員。討論会の会場前列に用意された関係者席に着席を前に、安倍首相陣営に向けて発言した。

優位が伝えられているのは、安倍陣営だ。その後のSNS向け動画撮影でも、安倍サイドはカメラに向かって、大勢の議員が勢いよく手を振っていた。

討論会は約1時間にわたって続いた。主催者側が選んだ「ネット視聴者の興味関心が強い」4つのテーマ(憲法改正、安全保障、規制改革、地方創生)について両氏がそれぞれ答え、互いに質問する形で進んだ。

公文書改ざん、森友・加計問題はなし

安倍政権で問題になった、公文書の改ざん問題や情報公開のあり方をめぐる問題、森友・加計問題、政治姿勢といった問題は触れられないまま終わった。

また消費増税や再分配政策といったマクロ経済政策の問題についてもほぼ割かれることがなかった。

では、何が議論されたのか。肝心の憲法問題でみていこう。

Satoru Ishido

深まらない議論

安倍首相が発言した憲法9条に自衛隊を明記するという改憲案について、石破氏は「賛成」としつつも、「国民の世論を分断するようなことがあってはいけない。多くの国民が賛成するもの、多くの政党が合意できるものを優先すべき」と釘を刺した。

安倍首相の反論は、「共産党はどうか?共産党は憲法改正するすべての行動に反対すると言っているから絶望的だ。どこまでいけば多数派が形成されたと言えるのか?」

石破氏は「国民世論の二分は避けるべき。51対49といった状況は避けて、できれば国民投票で6割〜7割の賛成をいただく。懸念に対して丁寧に説明することが大事ではないか」と説明した。

だが、安倍首相は「憲法にあるハードルを高くするのは間違っている。6割〜7割の賛成を得るのは簡単ではない。そもそも、どうやって判断できるのか。私たちが必死に説明して(憲法改正の国民投票で)過半数が取れたらいい」と再反論。

大きな反対運動が起きて、政権支持率も低下した安保法制を引き合いに出し「平和安全法制(安保法制)も反対が多かったが、いま反対だと言っている人は2〜3割しかいない。だんだん理解が深まる」と述べた。

このように細かな点で、お互いの主張をぶつけ合う形でのやり取りが続き、議論が深まる様子はなかった。

「干さないでね」の真意

討論会後、平議員に「干さないでね」発言の真意を尋ねた。

「あれは冗談、冗談」とケムに巻かれたが、石破派の斎藤健農林水産相が「安倍首相の応援団の一人から辞表を書けと言われた」と発言するなど、「冗談」ではすまない事態が起きつつあるのもまた事実。

誰が辞表を迫ったのか。永田町では何人かの実名が飛び交っている。

安倍首相の圧倒的優位がささやかれるなか、争点は次第に石破氏・石破氏を支持した議員の処遇へと移っていきそうだ。

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