裁判員制度「市民からの提言2018」<提言⑨>予備時間を設けることで審理日程を柔軟にして、訴訟進行においても裁判員の意見を反映させる余地をつくること

予備時間は、事件によって異なりますが、公判日1日につき1時間から2時間程度が適切だと考えます。

裁判員制度は5月21日でスタートから丸9年となり、制度開始10年目を迎えます。裁判員ネットでは、これまでに345人の市民モニターとともに650件の裁判員裁判モニタリングや裁判員経験者へのヒアリングを実施し、裁判員裁判の現場の声を集める活動を行ってきました。この「市民からの提言」は、裁判員制度の現場を見た市民からの提案です。裁判制度の現状と課題を整理し、具体的に変えるべきと考える点をまとめました。今回は提言⑨を紹介します。

<提言⑨>

予備時間を設けることで審理日程を柔軟にして、訴訟進行においても裁判員の意見を反映させる余地をつくること

1 現状と課題

⑴ 審理日程を事前に決める公判前整理手続

裁判員裁判では、公判前整理手続が必ず行われます。この手続において、裁判官・検察官・弁護人によって事前に争点が整理され、どの証拠を取り調べるかが決められ、どの証人尋問にどれくらいの時間を使うかといった審理スケジュールが決められます。

この公判前整理手続には、裁判員は関与しません。しかし、事件によっては、裁判員となった人が、事前に公判前整理手続で決められた争点だけではないポイントにも注目する場合や証人への尋問をもっと行いたいと思う場合もありえます。裁判員の中には、審理を早く終わらせてほしいと思う人もいるかもしれませんが、一方で、裁判員になったからには納得できるまで十分に審理して責任をもって判断したいと思う人もいるはずです。

⑵ 裁判員の要請で審理再開した事例

新潟地裁で行われた裁判員裁判では、被告人が強姦と強制わいせつ致傷の罪に問われ、強姦罪について無罪を主張していました。この裁判では、初公判が2013年12月9日、同月11日には検察官の論告・求刑まで終わり、結審しました。しかし、裁判所は、裁判員の求めに応じて審理を再開しました。再開した審理では、被告人のDNAを調べた県警の捜査員を改めて尋問しました。再出廷した捜査員はDNAを採取した道具の保管方法を証言し、裁判員からの質問にも答えました。※1

このように裁判員の意見を配慮して、審理を尽くす裁判所の判断は市民の主体的な参加を支える上で大きな前進といえます。

⑶ 審理日程を柔軟にする予備時間の必要性

市民モニターに参加した人たちからも、「時間が大幅にずれ込んでしまったために、裁判長が証人の証言を打ち切ってしまっているように感じた。」、「時間が足りない場合には日程を延ばせるようにしたい。」、「公判前整理手続の段階で余裕のある日程を組んでほしい。」といった声が寄せられています。

裁判員の負担を考えて審理時間を効率的にすることは重要です。しかし、訴訟進行に関しても裁判員の意見を反映して、十分な審理を行えるようにすることが必要です。

2 裁判員経験者の声(裁判員経験者意見交換会議事録より)

もうちょっと僕達は時間が欲しかったですね、正直言って。(中略)やっぱり人の人生左右すると思うと、ちょっと時間が足らないような気がしました(東京地方裁判所立川支部平成25年7月11日)。

個人的には、裁判をして、評議、刑を決める段階での時間としては、個人的にはもう1日欲しかったなという気がしました。実際、裁判を受けて、今日でこれ最後、結審ですという話になって、じゃ、明日から評議に入りますと言われたときに、2日か3日ぐらいしかなかったので、もうちょっと欲しかったなと。あと、もう1つ、裁判のときの証人尋問のときも、一応スケジュールでぽんぽんぽんと終わって、その中の質問じゃなくて、じゃ、そこで終わって、改めて証人を呼ぶことは大変なんでしょうけど、改めて何か聞くとこありませんかという予備日の日が何かあったらいいのかなという感じはしました(東京地方裁判所立川支部平成25年7月11日)。

それからあと、後からもう一回聞けないじゃないですか、証人に。あれ聞いときたかったというのがもう一回聞けないんですね。3人目の証人の話を聞いてから、あの1人目の証人に聞いとけばよかったというポイントが出てきちゃったりとかするので、そこですよね(東京地方裁判所平成27年4月23日)。

ここの証人の発言にもう一回質問したいなということがそのうち出てくるんですけど、そのときには既に時遅しみたいな感じなんですね(東京地方裁判所平成27年5月29日)。

3 具体的な提案

訴訟進行においても裁判員の意見を反映させる余地をつくるために、公判前整理手続であらかじめ審理スケジュールの中に予備時間を設けておくことを提案します。事前に設けておいた予備時間を使用するか否かは、検察官と弁護人の意見を聞き、裁判員の意見を尊重して裁判官が判断することになります。予備時間は、事件によって異なりますが、公判日1日につき1時間から2時間程度が適切だと考えます。

予備時間を含めると審理時間が増えることになり、その分裁判員の負担が増える側面もあります。しかし、市民が刑事裁判に関わる以上、責任をもって十分な審理を行うことがなによりも大切であると考えます。

※1 2013年12月19日朝日新聞

裁判員制度「市民からの提言2018」

1.市民の司法リテラシーの向上に関する提言

<提言①>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を理解できるような法教育を行うこと

<提言②>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を遵守するように、公開の法廷で、説示を行うこと

2.裁判所の情報提供に関する提言

<提言③>裁判員裁判及びその控訴審・上告審の実施日程を各地方裁判所の窓口及びインターネットで公表すること

<提言④>裁判員だけではなく、裁判員裁判を担当した裁判官も判決後の記者会見を行うこと

3.裁判員候補者に関する提言

<提言⑤>裁判員候補者であることの公表禁止を見直すこと

<提言⑥>裁判員候補者名簿掲載通知・呼出状の中に、裁判を傍聴できる旨を案内し、問い合わせ窓口を各地方裁判所に用意すること

<提言⑦>裁判員候補者のうち希望する人に「裁判員事前ガイダンス」を実施すること

<提言⑧>思想良心による辞退事由を明記して代替義務を設けること

4.裁判員・裁判員経験者に関する提言

<提言⑨>予備時間を設けることで審理日程を柔軟にして、訴訟進行においても裁判員の意見を反映させる余地をつくること

<提言⑩>裁判員の心のケアのために裁判員裁判を実施する各裁判所に臨床心理士等を配置すること

<提言⑪>守秘義務を緩和すること

5.裁判員制度をより公正なものにするための提言

<提言⑫>裁判員裁判の通訳に関して、資格制度を設けて一定の質を確保するとともに、複数の通訳が担当することで通訳の正確性を担保すること

<提言⑬>裁判員裁判の控訴審にも市民参加する「控訴審裁判員」の仕組みを導入すること

<提言⑭>市民の視点から裁判員制度を継続的に検証する組織を設置し、制度見直しを3年毎に行うこと

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