常勝軍団・鹿島アントラーズ、SNSに秘められた戦略

「SNSにおける露出価値を図る方程式が存在する」

鹿島アントラーズが「Twitter」「Facebook」といったSNSをスタートさせたのは2015年の2月だった。他のJリーグクラブと比較すると遅いスタートだったが、すでにTwitterで15万人のフォロワー、Facebookで3万5,000人の「いいね!」を集めている。

今回、アントラーズ広報の春日洋平氏に導入の経緯や目的、そして今後の展開など、アントラーズのSNS戦略について話を聞いた。

「SNSの最終目標は、クラブを強くするための収益をあげること。‐すべては勝利のために‐ デジタルであろうとアナログであろうと、アントラーズの事業コンセプトは変わりません」と春日氏。

ただし、他クラブが次々と公式SNSをスタートする中で、アントラーズは2015年2月と遅い開設となった。春日氏はその経緯について、「アントラーズは決して新しいことにチャレンジをためらうクラブではないが、投資としてSNSを見たとき、2014年シーズン以前はまだ時期ではないと判断していた」と話す。

「まず大前提として、我々は自分たちを"ビッグクラブ"とは定義していない」。Jリーグでは最多、17のメジャータイトルを誇るクラブにも関わらず、自らをビッグクラブではないとする理由は、アントラーズの商圏の大きさにあるという。

「ホームタウン5市(鹿嶋市、神栖市、潮来市、鉾田市、行方市)の人口は28万人。スタジアムから30キロ圏内の人口を見ても78万人と、同条件で1000万人を優に超える大都市圏のクラブとは比較にならない」と言う春日氏は、自分たちを「危機感を原動力とする地方クラブ」と表現している。

周辺人口は観客動員に大きく影響し、また入場料収入という単純な要素だけでなく、スポンサーシップやアカデミーなど、様々な側面にその影響は及んでいるという。実際、アントラーズの年間強化費用は平均的にJ1中堅クラブ並みで、潤沢な強化費に恵まれているとは言えない。

「強化費だけでなく事業面に関しても、限られた予算でクラブ運営を行っており、お金、人、時間をかける投資に対してきちんと成果を出す必要がある。その中で2014年以前はSNSにおいて投資に対してどのようなリターンを求めるか、新しいメディアであるが故に明確な図式と戦略を描くことが困難だった」と春日氏はいう。

しかし近年、SNSを含めたデジタルのプラットフォームは、メディアとして急速に発展。2014年5月、UEFAチャンピオンズリーグ決勝のマーケティング効果検証において、印刷媒体におけるスポンサーの露出価値をデジタルにおけるそれが逆転するというデータが発表された。

アントラーズはこの結果を受けて、「SNSにおける露出価値を図る方程式が存在する」と判断。半年に及ぶ準備期間を設け、SNS活用の目標策定やプレイブック(設計図)を固め、2015年2月19日、Jリーグ2015シーズン開幕イベント開催の日にFacebook・Twitterの公式アカウントをスタートした。

前述のとおり、アントラーズはSNSの目指す最終目標を、クラブの強化につながる収益を上げることと定めている。ただし、現在はまだファンの母数が少なく、「我々のSNSが直接収益を生み出すに至るまでは時間が必要」と春日氏は認識している。

そこで、アントラーズが重要視したのはKPI(重要業績評価指標)の設定だった。「現状、SNSの目的はファンとのタッチポイントを増やすこと。クラブやブランド、所属選手に触れてもらい、公式サイトに来てもらえるように興味を引く、と言う段階にある」。

「その中で、フォロワーやいいね!の数を最も重要な評価基準にしてしまうと、それを増やすだけの施策となってしまう。今、実際にJリーグクラブがデジタルで稼いでいるのは公式サイト。まずはチケットやグッズの購入、ファンクラブへの加入もできる、公式サイトへの送客を一番に考えた」。

その結果、SNS開始前後のシーズンで比較すると、公式サイトのページビューは131%、ユニークユーザーは123%アップしている。SNS経由の流入数増加が貢献していることは、公式サイトへの流入元データを見ても明らかに証明されていた。

今後のステップについて伺うと、春日氏はこう答えてくれた。「やはり、SNSのマネタイズを考えると母数を伸ばすことは重要。長期的な目標は100万人だが、まだまだ遠い」。

「ただ、100万人規模のプラットフォームに成長すれば、それはつまり、クラブにとって直接的に収益を生む媒体になることを意味する。フォロワーやいいね!を広告で増やす方法もあるが、エンゲージメント率が落ち、ファンの質も落ちる。母数を単純に増やしても、クラブを強くするための収益は生み出せない」と話す。

フォロワーやいいね!の中身にまでこだわってその数を増やすのは困難な作業であり、さらに100万ともなると、日本のファンだけで到達することは難しい。

「多言語、特に英語アカウントのファンを増やしたい。ただ、それにはフックが必要で、クラブワールドカップに出場するなど、一定の条件が満たされるタイミングでパワーをかけたい。何かのきっかけで爆発する資質を持つのがSNS。そのフックをどう活かすか。いかに速く、効率的に母数を増やせるかがこれからの課題」と春日氏は語る。

#kashimaantlers #柴崎岳

鹿島アントラーズ公式さん(@kashima.antlers)が投稿した写真 -

その戦略の一つとして、クラブ創設25周年を記念し、10月1日に「Instagram」公式アカウントの運用を開始した。印象的な画像でアントラーズの情報やイメージを訴求し、国内外を問わず、今まで他の公式SNSでもリーチできていなかったウルトラライト層に興味を持ってもらうことを目標としているという。

Jリーグで最も強い「勝利の遺伝子」を持つ「鹿島アントラーズ」。SNSの戦略においても、「クラブが強くなるため」を前提に考え、戦略的なアクションプランが続けられている。

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