水溜りボンドはスーパースターになったって、今日もスマホの中でバカをやる

仕事を終えて、家に帰って21時。あ、そういえば更新されてるはず。気づけば、水溜りボンドは私の日常の一部になっていた。

YouTuber「水溜りボンド」のファンになったのは、2016年夏頃のことである。

2015年に新卒として大企業に入社した。初期配属でゆかりのない地方都市の営業所に転勤になった。
東京生まれ・東京育ち、23年間実家を出たことのない世間知らずの小娘だった私にとって、親類も友人もゼロの土地で、3年間の転勤独り暮らし生活は、たいへんな苦痛を伴うものだった(今振り返ると、本当にいい人生経験をさせてもらったと思う)。

そんな中、私にとって唯一の心の支えが、「水溜りボンド」だった。

観始めたきっかけは、もはや覚えていない。そのくらい、ふとした瞬間だった。たぶん、HIKAKINかはじめしゃちょーの動画を、なんとなしに観ていて、その流れで観たんだと思う。
小学生男子が好きそうな実験や、中学生が男女問わず好きそうな都市伝説など、なんだかなんでも一生懸命に、まじめに面白がる様子がかわいらしかった。

最初は何とも思っていなかった。毎日更新するなんて、がんばってるな~、くらいの気持ち。
仕事を終えて、ご飯を食べて、家に帰って21時。あ、そういえば更新されてるはず(当時、水溜りボンドは毎日20時更新だった)。で、なんとなくベッドに寝転がって、スマホをつけて、7~8分の動画を観て、お風呂に入って、寝る。
そうしているうちに、気づけば、彼らは私の日常の一部になっていた。

半年ほどのち、私は仕事ができなくて、死にたくなっていた。
「できて当たり前」のことが上手にできない。取引先とのコミュニケーションがうまくいかない。できない自分を受け入れるのが怖くて、先輩からのアドバイスを、素直に聞き入れられない。
で、怒られて、委縮して、またうまくできなくて…の負のスパイラル。
歩いていると、自然と涙が出てくる。
線路を見ると、飛び込みたくなる。
大げさでなく、そういう状態が続いていた。

ある日、家に帰って、スーツも脱がずにどさっとベッドに寝転がって、いつものようにスマホをつけて、いつものようにYouTubeを開いて、そしていつものようにその日更新されている動画を再生した。
なんか、一人が家に帰ってきた瞬間に、もう一人が、玄関の近くにある階段の上からスーパーボールを大量に落としていた。

絵も色とりどりできれいだし、BGMの使い方も面白いし、何よりそんなくだらないことを心から楽しそうにやって、爆笑しているトミーも、突然スーパーボールを落とされて心底困惑しているカンタも、とんでもなく面白かった。
くだらねー。こいつら、何やってんだろ。そう思いながら、一人でベッドの上で爆笑した。

気づくとそれを3回くらい繰り返し見て、気づくと私は、ぼろぼろ泣いていた。

自分が泣いていることに気づいて、なんでだろう、と思ったけど、
なんかよくわからないまま、そのままうわんうわん泣いた。
枕がびしょびしょになって、体中の水分がなくなるほど泣き叫んだ。
なんで泣いたのかは、今考えてもわからない。

けどたぶん、安心したんだと思う。

毎日しんどくて、家に帰って、家族も友達も誰もいなくても、スマホをつけると、そこでバカやってる2人に会える。毎日、なんか違うバカをやってる。そこには、難しいことも、悪意も、透けて見える打算もない。
(打算くらいは、もしかしたらあるかもしれないけど)

その安心感を、落ちてくる大量のスーパーボールや、わるそうに笑うトミーや、困惑するカンタに改めて感じて、また安心して。
ずっと抑えていたものがあふれだしてしまったんだと思う。

水溜りボンドが、2月23日発売の雑誌「クイック・ジャパン」の表紙を飾っている。

本人たちは、「ずっと出たかった」と公言している。
すごい、よかったね。
私は、カメラに向かって喜びを伝える二人を、スマホ越しに見つめて声をかける。

YouTuberが好きで、いつも見てるというと、まだ、バカにする大人たちもたくさんいる。
えー、小学生みたい。やめなよ。
YouTuberって、フリーターみたいなもんでしょ。
俺もあんなふうにニートみたいに楽しくやってすごしたいよな。
くだらない、何が面白いの?

確かに、彼らが楽しいことで、好きなことで生きていっているのは事実だ。
でも、楽しいことを仕事にするために、毎日朝から晩まで、寝る間も惜しんで企画して、撮影して、編集して、SNSチェックをしているのも事実だ。
そして、そんな彼らが、その努力を毎日こつこつと続けてくれていることで、こうして世界の端っこで救われて、今も元気に働けているひとりの会社員がいるのも事実だ。

彼らの存在がどんどんマスメディアに認められて、
彼らの露出が増えていって、
そして、バカにしている大人たちに、そうした「事実」がどんどん伝わっていってほしい。

新しい時代でも、ポスト平成でもなく、
「いま」現在のスターは、こうしてスマホの画面の中で、毎日バカやってるんだから。

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