NEWS
2019年06月26日 14時39分 JST | 更新 2019年06月27日 12時02分 JST

岡口基一裁判官、弾劾裁判への訴え検討の訴追委を批判 「軽々に裁判官を呼び出すのは三権分立に反する」

「白ブリーフ」は、お笑い芸人ザコシショウの影響だった

Twitterへの投稿について最高裁から異例の戒告処分を受けた岡口基一裁判官(53)をめぐる動きが慌ただしくなってきた。

裁判官の罷免(辞めさせる)を判断する弾劾裁判に対し、国会の裁判官訴追委員会が岡口裁判官を訴える(訴追)かどうかを決める調査が進んでいるからだ。

国会が6月26日に会期末を迎えるため、いったん結論は先送りされる見通しだが、予断を許さない情勢は続く。渦中の岡口さんに今の心境などを聞いた。

━━ 春に仙台高裁に転勤されましたね。東京高裁にいた頃に、厳重注意処分や分限裁判を受けたわけですが、それらが影響して、いわゆる「左遷」されたのですか。それとも定期的な異動だったんでしょうか。

実は次の任地が仙台だということは分限裁判の前から言われていたんですね。高裁の長官との面談で「仙台はいいところだよ」という話が出まして、「ああ、仙台なんだな」と思いました。

まあ、そのときはすでに厳重注意処分は受けていましたけど、私も長官も何事もなかったかのようにニコニコしてですね(笑)。

なので処分や分限裁判などがもろに影響したとは思いません。ただ、自分の年次ですと、どこかの部長になってもいい時期なんですが、実際には高裁の陪席判事(3人の裁判官が担当する合議体事件のうち、裁判長以外の2人のこと)でした。

東京高裁でも陪席だったので、陪席から陪席への異動ということで。

━━ 処分がなければ、例えば仙台でも地裁の部長などがあり得たということですよね。しかも東京から仙台という格下の裁判所です。

部長には出さないぞという当局の意思を感じますよね。処分なども受けてしまっているので仕方がないんでしょうけど。

要するに、かつて組織犯罪対策法の反対集会に参加したことが問題視され、分限裁判をへて懲戒処分を受けた寺西和史判事と同じパターンなんですよね。

寺西さんは司法修習43期なので、とっくに部長になってもいいんですが、まだ高裁の陪席に据え置かれています。

ただ、私の場合、地方の高裁の中では東京に一番近く、留守宅にも近い仙台なので、そういう意味での配慮はあったんだと思います。

国会の介入、「あってはならない」

━━ 異動直前の今年3月、国会の裁判官訴追委員会から聴取を受けましたね。訴追委の判断はどうなるのでしょうか。

想像ですが、結論が出るのはかなり遅くなりそうですね。夏の参議院選挙後に訴追委のメンバーが入れ替わりますから、また新しい委員によって小委員会での検討、全大会での協議と、順を追って手続きを進める必要があるからです。

しかも今年の3月に、放置された犬をめぐる事件(※1)の当事者の代理人弁護士が、新たに私に対する訴追(弾劾裁判所に訴えること)の申し立てをしました。その方に対する事情聴取などもされたようですので、その結果も含めて今後、訴追委での検討が続きそうです。

 ※1 岡口氏が2018年、拾われた犬の所有権が元の飼い主と拾った人のどちらにあるかが争われた裁判をめぐって、「公園に放置された犬を保護したら、元の飼い主が名乗り出て『返してください』え?あなた?この犬を捨てたんでしょ?3か月も放置しながら」などと投稿した。東京高裁はこれを問題視。「揶揄(やゆ)するような表現で当事者を一方的に批判し、傷つけた」となどとして最高裁に懲戒を申し立てた。分限裁判の中で、岡口氏は表現の自由を侵害し、裁判官の独立を脅かすことなどを主張して反論したが、最高裁は戒告処分を決定した。
 

━━ 裁判官は憲法で身分が保障されています。弾劾手続きは慎重であるべきですが、とはいえ分限裁判での判断などを見ると予断は許さないとみています。ご自身はどう思いますか。

そもそも、3月に訴追委に呼び出されて聴取されたこと自体、司法権の独立、三権分立の観点から考えるとやってはいけないことだと思います。

憲法学者からもそういう指摘があります。戦後の混乱期などであればまだしも、司法の独立や三権分立が知られている現在において今回の訴追委の動きは言語道断であると。

時事通信社
岡口基一・東京高裁判事(当時)に出頭を求めた国会の裁判官訴追委員会=3月4日、東京・永田町の衆議院第2議員会館

━━ 訴追委が過去、裁判官を呼び出すことはあったのでしょうか。

かつて吹田黙祷事件(※2)というのがありまして、その時、訴追委が裁判官を呼ぼうとしたんですけども、その裁判官はやっぱりそういう事はやってはいけないんだということで拒否したんですね。

大学の法学部の学生なら知っている事件です。憲法の授業で出てきますね。

一方で、訴追委が訴追したケースというのは完全に犯罪行為なんですね。だからもう、呼ぶまでもなくだめなんですよ。

痴漢行為とかストーカーをしたとかですね。そういうのは呼ぶまでもなく、罷免ということになるわけです。

訴追は、こういった明らかに問題となるケースだけであり、それ以外のことについては、司法権の独立とか三権分立とかがあるので、軽々には訴追委は扱わないんです。

国民からの訴追請求は毎年800件ぐらいありますが、論外のものばかりで、そういったものは書類審査によって却下されます。なぜそういう運用になっているかというと、三権がお互いを尊重する立場を採ってきたからなんですね。

裁判官を軽々しく呼び出して、国会で話を聞くようなことはしない、そういう当然のルールがあったんです。それが今回、適用されなかったというのが非常に心外ですね。

 ※2 大阪府吹田市などで1952年、朝鮮戦争の休戦などを訴える集会に参加した学生や在日コリアンらが警察官らと衝突したとして起訴された裁判をめぐる出来事。被告人らが法廷で、戦争の犠牲者らに対する黙祷を申し出たところ、裁判長を務めた判事は黙認。これを問題視した訴追委から呼び出しを受けたが、判事は拒否した。
 

━━ とはいえ、岡口さんは呼び出しに応じましたね。なぜですか。拒否する選択肢もあったと思いますが。

確かに吹田黙祷事件のように、出頭拒否という選択肢もあったのですが、訴追委がどういう観点で質問するのかということに、私自身も興味があったんです。本当は行くべきではなかったのかもしれませんね。

━━ 呼び出しの日は岡口さん自身、事件を抱えていましたよね。そちらへの影響はなかったのですか。

あの日は月曜日で、午後2時まで事件が入っていたんですね。でも日程を変えることはできませんでした。

訴追委の方は午後3時だったので、それまでに終わらせて行きました。国会は高裁から近いので間に合いました。

━━ 呼び出しに応じたことで、裁判所にとってはよからぬ「前例」を作ってしまったかなという感じでしょうか。

最高裁自身、訴追委の呼び出し前に、分限裁判を開いて私を処分したわけですが、それは本来、国会からの介入を避けようとしたのだろうと思うんですね。

そういう流れからすると最高裁が処分したのに、訴追委がさらに呼び出しをするというのでは、裁判当局としてはめんつをつぶされた格好なんですよね。

そこで私がのこのこ行くべきではなかったのかもしれません。

━━ 訴追委は何を聞きたがっていたのですか。

いずれもTwitterの投稿についてで、朝日新聞が運営するペットの情報サイト「sippo」の記事と、強盗殺人・強盗強姦未遂事件の判決をめぐるTwitterの投稿についてですね。

呼出状に書かれていて、分限裁判について記録したブログにアップしています。

ただ、私の件は訴追委でも長いこと扱っている上、最高裁が分限決定を出したこともあって、メンバーたちも自ら真実を知りたかったようです。

時事通信社
衆院議員会館に入る裁判官訴追委員会に向かう岡口基一裁判官(右)=3月4日、東京都千代田区

━━ 分限裁判についてうかがいます。Twitterでの投稿によって裁判当事者の感情を傷つけたとして東京高裁が申し立て、それを受けた最高裁は岡口さんを戒告処分にすることを決めました。何が問題だと思いますか。改めてお話しください。

手続き保障がされなかったこと、つまり手続き的な正義がまったく実現されなかったということが一番気になりますね。

そもそも高裁の申立書にも、何がいけないのかということが書いていないんですね。単に私がツイートをして、当事者を傷つけたとしか書いてなくて。

どういう理由で傷つけたとか、それがどういう理由で懲戒事案に当たるとか、まったく説明がないんです。

申し立ては、被申立人である私に不利益処分を与えようとするものなので、本来は私に十分、防御させないといけないんです。

十分に防御させた上で、それでも最高裁としては懲戒相当ですと、そう判断するんならいいんですけど、そうはさせずに不利益処分を出すというのは、手続き的な正義がまったく実現されていないですね。

━━ 申立書の中で、懲戒事案に当たる理由などが書かれていなかったにもかかわらず、最高裁は決定の中で独自に書いています。これについてはどう思いますか。

理由が明記されていない申立書を受け取った最高裁は本来、手続き的な正義が実現していないことを高裁に対して指摘しなければならないと思うんです。

どういう理由であのツイートが懲戒にあたるのか、論点を明確にした上で、それぞれに意見を戦わせる。それを踏まえて最高裁が判断するという構図を取らないと。

こっちとしては論点が隠された中で当てずっぽうのように防御するしかなかったです。しかも審理は1回で終わり。

蓋を開けたらよくわからない理由になっていて。これが問題だったんですと。でも、そこでわかってももう遅いんですね。

私は高裁の判事なので、分限裁判は最高裁が担当するので、その決定に不服申し立てができないんです。1回こっきりで確定してしまうわけで。

それがわかっていながら、何が問題かを全部隠して決定を出してしまって。これを最高裁がやるっていうのが信じられないし、しかも反対意見が1人も出なかったというのが深刻な状況だと思います。

━━ 申し立ての段階、あるいはその前に高裁から厳重注意を受けていたその時から、こうなることのシナリオは高裁と最高裁の間であったのではないかと勘ぐってしまいます。裁判当局の威厳を保つためか、あるいは組織防衛のためか。岡口さんはどう見ますか。

それは当然だと思うんですね。司法行政としては最高裁がトップで、その下部組織として東京高裁があるわけで。

司法行政上の措置(処分)をどうするかについて、その両者が協議をするというのはそれほどおかしな話ではないと思います。

ただ、分限裁判というのは面白い制度で、内部の職員を処分するために裁判という体裁を取るんですね。

だから、分限裁判になった時には、最高裁判事は司法行政官としてではなく、裁判官としての役回りになるんですね。

時事通信社
不適切なツイートをしたとして懲戒を申し立てられ、最高裁判所での分限裁判に臨む岡口基一裁判官(手前)と弁護団=2018年9月、東京都千代田区

━━ 制度論についてこの場で深入りするつもりはないのですが、裁判官に対する内部の処分について、裁判という形式を取ることにそもそも無理があるのではとも思うのですが、それはやむを得ないのでしょうか。

やっぱり裁判官の独立ということを考えると、本当に内部的な処分手続きにしてしまうと、好き勝手やられてしまうわけですよね。だからそれよりはまだいいのかなと。

より裁判官の独立を保つため、裁判という制度を使うわけですね。確かに無理があるんですけど、ただ、自由勝手に処分されてしまうよりはまだましという感じですね。

━━分限裁判の原因になったTwitterの投稿をめぐり、東京高裁長官から呼び出されて、「Twitterをやめなければ分限裁判にかける」「裁判官を辞めることになってもいいのか」と言われたそうですね。裁判官は10年ごとに再任するかどうかについて当局から判断を受け、拒否もあり得ます。職を失う可能性を考えたことはありますか。

再任まであと5年ぐらいなんですが、再任拒否はないと思うんですよね。寺西判事の時も日本弁護士連合会が動いて、絶対に再任拒否をしないようにと最高裁に要請したんですね。

最高裁も日弁連に対し、「拒否しません」と答えました。そしてその後も寺西判事は再任拒否はなく今に至っています。

だから、裁判所としては、何が何でも辞めさせようということではなくて、何か事態が起きているので手を打たなければ、ということだと思うんです。やっぱり、最高裁は国会の方を見てると思うんですよね。

問題を放置していたら国会から色々と介入されてしまうと。その前に自分たちで手を打たなければと。分限決定で、一応裁判所として決着をつけたので、それ以上の「深追い」はしないと思います。

━━ 裁判所はなぜ国会をそれほど気にするのでしょうか。

本にも書いたんですが、裁判所は本当に権力がなくて弱いところなので、いかに権力者たちに介入されないようにするかということで、必死に頑張ってるわけですね。

そういう一環なんだろうなと、善意に解釈しています。

Twitter凍結の謎

━━ となると、高裁長官が「裁判官を辞めることになる」と厳しく言ったのも感情的な発言であって、本気で追い詰めてやろうということではなかったと?

あの発言はとにかく、Twitterをやめさせるためであれば、いかなる脅しもする、ということですよね。その後、なぜだか私のTwitterが凍結されてしまったので、もうそれ以上脅す必要がなくなったんじゃないんですかね。

ただ、あの時、高裁長官はあそこまで言ってでもやめさせようと必死でしたね。

━━ Twitterが凍結されたのはなぜですか。

それがわからないんです。私の投稿の中に「ヘイトまたはそれに準ずるような表現」があったらしいんですけど、どの表現が問題とされたのかわからないんです。

というか私はむしろ、ヘイトスピーチはよくないとTwitterでいつも言っているので、本当によくわからないです。

凍結された時期がまた微妙でして。私の分限裁判の申し立ての直前なんですね。裁判当局とTwitter社の間に何かあるのか、私にはわかりませんが(笑)。

凍結の異議申し立てをTwitter社にしていて、今回3回目の申請をしている状況です。

━━ 今、Twitterには、岡口さんのFacebookの情報を転載しているアカウントがあるのですが、これは岡口さんと関係があるのでしょうか。

あれは全くわからないですね。どうもTwitterアフィリエイトをやってるんじゃないかなと思いますね。すごく嫌なんですけどね。

私がFacebookに投稿した順番通りに転載してくれればいいんですが、そうではなくて、過去の投稿であっても、Amazonとかのリンクをはっているものを上に持ってきちゃうんですね。

それはやっぱりアフィリエイトの関係かなと思うんですよね。だから私の最新の投稿を見たくても、それを先に見せられてしまっていますね。

━━ Facebookは続けてらっしゃるんですよね。

これは続けてます。FacebookはTwitterとまったく同じように発信しています。

ちなみに今回問題となっているTwitterの投稿は、まったく同じ内容をFacebookにも投稿して今でも残っていますが、当事者も含めていっさい削除依頼はなかったですね。Facebook側も今のところ問題視しているわけではありません。

━━ 確かにこの内容のツイートをもって、分限決定までなされるのはおかしいと思いました。ただ、Twitterに慣れていなければ、あの投稿を岡口さん自身の発言や考えと受け取る人もいるかもしれません。

この裁判では、元の飼い主が犬を「遺棄」したと言えるかどうか、という法律上の興味深い論点があり、それを提供したかっただけなのです。投稿が記事の要約だと読めると思うんですが……。

中身はすべて記事にあるんですけどね。3カ月も放置したとか、「捨てた」という部分は「所有権を放棄した」という元の文言を直して書いただけなんですが。

ただ、おっしゃられたようにTwitterに不慣れな人も読むことがあるので。

━━ これを受けて、今後Twitterをする上での反省点はありますか。まだ凍結されてますが、解除された時に。例えば、発言のあとにかっこをつけて、誰の主張か明示するとか。

Facebookで私のことを支持してくれる弁護士の方からそれを指摘されました。その後も私がかっこをつけないでfacebookに投稿していたら、そのたびに「これがいけないんだ」と言われて。

最近はそうやって毎回弁護士の先生方からコメントがあるので、自然と付けるようになりました。Twitterが復活しても、かっこはきちんと付けようと思っています。

━━ Twitterを再開したら、投稿内容が変わる可能性はありますか。かっこをつけることは別にして。

今回のような一対一の民事事件については、もうつぶやかないと思います。結局、私がプライベートで好き勝手やってると思っていたんですけど、実際にはそうはならないので。

私の場合、匿名でやっても同じなんですよ。どっとフォロワーが増えて、結局皆さん気づいちゃうので。

そんな中、発信するとしたら、今までもそうでしたけど「こういう有益な書籍が出ました」とか、「登記法が改正されました」とか、そういう話ですね。

フォロワーも法律家や法学部の学生がほとんどなんです。だから同じような雰囲気じゃないんですかね。

Kazuhiro Sekine
インタビューに応じる岡口氏

「私はけんかを売られた」

━━ 組織からTwitterをやめるようこれだけ「圧力」をかけられても、それに屈しないでいられるのはなぜですか。

最初から言っているとおり、大したことをやってるわけではないんですよ。プライベートのアカウントで裁判例を紹介しただけなんです。

ところが、それに対してものすごい攻撃が来た。だから私はけんかを売られている方なんです。こちらから組織を変えようとかいう大それた話ではないんです。

でもね、そこで「はい、ごめんなさい」とは言えません。だって、プライベートで事件を紹介しているだけですよ。やはり、それに対しては「そんなことないでしょう」と反論しますよ。

ただ、組織人としては私の生き方は上手ではないですよね。昔の法律家には割とそういう人が多かったんですけどね。

組織の論理とかを気にせず、変わった方も多かったんですけど。非常に個性があって。今はみんな、なんとなく「サラリーマン化」してる気がしますね。

━━ 岡口さんは「要件事実マニュアル」シリーズを書くなど、法曹界では有名です。今回の一件でそういった名声に傷がついたり、組織内での出世が失われたりする可能性について不安感はありますか。

うーん、そうですね。私に限らずなんですけど、裁判官というのはあまり出世欲ってないんですよね。

それにある程度のところまではみんなやることは一緒なんですよ。例えば東京高裁の部長とかになっても、やってることは一緒で、つまり裁判なんですよね。

出世しないと新しいことができないというわけではないので、それが出世欲がわかない理由の1つのかもしれませんね。

━━会見では、裁判官を辞めたくないということをおっしゃっていました。それは裁判官という仕事が好きだからですか。

辞めさせられたら、その時考えるんですかね。やっぱり安定した地位を失うというのは、一般的には恐怖だと思いますよ。辞めたらどうにかなるのかもしれませんけどね、わかんないけどね(笑)

でもね、弁護士さんからは裁判官でいて欲しいと言われますね。弁護士になっちゃうと、色々言っても社会的影響力はないんですね。

実は弁護士の先生は、裁判所からとんでもない判決をたくさん受けているんですね。私も今回、初めて自分で受けてみてわかったんですけど、先生方は昔から知っている。

最高裁に限らず、色んな裁判官からとんでもない目に遭っている。でも、弁護士だとそれを社会に訴えても何の影響力もないと。全く相手にしてもらえない。

裁判所というのは「当たり外れ」があって、外れちゃうととんでもないことになると。業界ではみんな知ってるんだけど、社会の人たちは何故か知らないと。

だからこそ、裁判官が発信していくことにそれなりの意味があると言われましてね。

━━ それにしても、ソーシャルメディアが全盛のこの時代において、Twitterそのものをやめさせたいという裁判当局の論理とは、どういうものなのでしょうか。

これはうち(裁判所)だけではないと思うんですね。検察庁でも誰もやっていませんし。発信させてしまうことで、何か問題が起きてしまうのを未然に防ぎたいのでしょう。

もう最初からさせないという方法で。うちに限らない話で、国家公務員は基本的にはやってないですよね。

Kazuhiro Sekine
岡口氏

裁判官の威厳保つため

━━ 対処方法としては楽かもしれませんね。ただ、本当に悪意があれば、公務員であっても内部の秘密情報をTwitterに投稿することは技術的には可能ですよね。その危険があるからといってそもそも禁止するというのは、例えば火が火事の原因になるからといって、火を使うこと自体を禁ずるという論理に似ています。釈然としないのですが、岡口さんはどう考えますか。

裁判当局は今までもそうやってきてるわけですね。先日、年金事務所かどっかの人がTwitterにヘイトスピーチを投稿してしまう出来事がありましたけど、発信を許してしまうと、そういう人間が少なからず出てきてしまう。

だったらさせないのが一番、ということなんでしょう。

それと裁判官のイメージを保ちたいということですよね。裁判官を秘密のベールに包んでおいて、威厳を高めるんですよね。

そういう手法で国民からの司法への信頼を勝ち取ってきましたから、表立って裁判官が出てこられると困るんですよね。

━━ 所属する組織の思惑をそこまでわかっていながら、それでも岡口さんが発信したいというのはなぜでしょう。

私のアカウントは裁判官と名乗っているわけではないんですね。完全にプライベートでやっていただけですし。

分限裁判で問題とされた投稿でも、単に記事になった裁判を紹介しただけなんですよ。

何か強い意思や目的を持ってTwitterをやっているわけではなく、普通にプライベートでつぶやいてるだけで。それ以上でもそれ以下でもなかったんですけどね。

━━ 当局が懸念する情報漏洩に当たるような内容を、ソーシャルメディアで発信することはないという自信がありますか。

情報発信はずいぶん前からやってますから、その辺はまったく問題ありません。

それこそ、ホームページを作っていたことろから合わせるとかれこれ15年以上になります。

━━ 分限決定が出た時の記者会見で、岡口さんはほかの裁判官もソーシャルメディアをやったらいいという趣旨のことを発言されたかと思います。それは、裁判官であれば情報漏洩の心配がないということなのか、それとも、もっと開かれた裁判所になるべきだという考えからなのでしょうか。

それこそ諸外国では裁判官と名乗って色んな発言をし、それによって信頼を得ている人もいるわけです。 

海外のある憲法学者が言っているのですが、日本の裁判官はもっと積極的に顔を出した方がいいと。そうすることで信頼を勝ち得る方法があると。それはそれでありなんだろうなと思いますね。

まあ、私自身は、裁判官と書かずに個人的にやっていただけで、そんな大したものではないのですけどね。

━━分限裁判の前にも裁判当局から問題視されたツイートがありましたね。その1つが、強盗殺人・強盗強姦未遂事件の判決を紹介したケースでした。ただ、これは東京高裁が公式サイトで公開しており、そもそも最高裁の判例は公開情報です。個人名も伏せられています。当局が厳重注意処分までするというのは、行きすぎだとの声があります。

それについては、実は訴追委の調査で色々とわかったことがあります。遺族が東京高裁に苦情を申し出たとき、私は東京高裁当局から「岡口さんは自分で交渉しないでください。こちらでやりますから」と言われたんですね。

でも実は、東京高裁が間に入っていながら、何も仲介的なことはしていなかったことが、訴追委の調査で分かったんです。

投稿をしたのは、この事件の判例には重要な法律上の論点があったからなんです。具体的に言うと、死体を姦淫(かんいん)したら、死体損壊罪に当たるのかどうかという点です。

そうした私のツイートの意図を高裁当局は遺族に伝えていなかったんですね。

一方で高裁は、遺族は「首を絞められて無残に殺された女性」という文言に傷ついたとして、私を厳重注意処分にしたんですね。

ところがそれも違っていて、遺族は私がリンクをはってあの判決を拡散したことに傷ついたということだったんです。 

それも訴追委の調査で分かったことでした。実際、遺族の方はTwitterに投稿されていまして、盛んにこのことを言ってるので間違いないでしょう。

そうすると話が違ってきます。しかもそもそもあの判例をネットで公開したのは東京高裁なんです。本当は載せてはいけない判決だったのに載せて。

そして世間から批判されたのは東京高裁ではなく私という。

━━ 載せてはいけないのに高裁はなぜ載せたのですか。

わいせつ犯に関する裁判の判例は載せないという内規があるんです。この判決はそれに該当します。内規が周知徹底されていなかったんでしょう。

当時はほかにももっと載せていましたから。私もその内規は知りませんでしたが、高裁がそのような法律上の論点があるということで公開していたので、私も皆さんに伝えようと思ってツイートしただけなのです。

━━ 一身に責任を背負わされた感じですね。

遺族との交渉を高裁に任せていたら実はそんなことになっていて。遺族の方が傷ついている本当の理由を、私は直接確認できなかったんですね。

結局、ツイートの文言に傷ついていると、当局がそこばかりマスコミに情報提供して。それがけしからんということになってしまった。

━━ 高裁が仲介に入ったことで岡口さんも遺族もそれぞれが本当のことを知ることができなかったと。高裁に対して失望していますか。

高裁は元々、仲介する気はなかったんでしょうね。高裁当局としては2つの目的しかなくて、1つは私を厳重注意処分するための格好の材料を手に入れること。

もう1つは、自分たちのミスを目立たないようにすること。その上、「白ブリーフ判事」というイメージもあったので、その影に自分たちがうまく隠れるんじゃないかと。今となってはそう思いますね。

白ブリーフはザコシショウの影響

━━ 白ブリーフと言えば、白いブリーフ姿のご自身の写真をTwitterに投稿し、それがメディアで話題になりましたね。これについても裁判当局は問題と考えていたのですか。

いいえ。これについては何も言われてないです。

━━ 著書によると、白ブリーフはお笑い芸人で黒いブリーフがトレードマークのハリウッドザコシショウさんに影響を受けたとか。

そうです。深夜番組やYouTubeなどで知り、Twitterでフォローしてたんですよね。なんかよくわからないんだけど面白いところがよくって(笑)。

裁判官を名乗ってやってたらまずいと思いますけど、まったくのプライベートでやってるだけなんで。でもまあ、あんまり深く考えてないんですけどね。

白ブリーフはあくまでネタだったんですよね(笑)。

ほかにはガラケーしか持っていないというネタもあります(笑)。ほら、今日もガラケーしか持ってきてないですよ。これでスマホをディスるというのが私の定番のネタで、3週間に1回位やってますね(笑)。

ザコシショウさんのYouTubeチャンネル

 

━━ 話は戻ります。職員がソーシャルメディアで発信することを過度に嫌がる裁判所に対しては、異常なまでの閉鎖性を感じます。ホームページを開設して、書記官の試験勉強のために有益な情報を提供していた時でさえ、やめるよう言われたわけですよね。

とにかくTwitterをやめさせたかったんですよね。そのためには何でもよくて、クレームが来るのを狙っていたんでしょう。

フォロワーが4万人ぐらいに増えてしまったし。それが200人ぐらいの、誰も知らないようなアカウントだったらそんなに目くじら立てられることもなかったのかもしれませんね。

いや、でも昔もほとんど閲覧者がいないようなブログでも、裁判所の関係者がやっていることがわかればことごとく呼び出されてやめさせられましたね。そういう脈々としたものはありますね。

やっぱりあるべき姿ではないとは思いますね。ただほかの官公庁も同じような感じではあるんですよね。検察官でやっている人は1人もいないですし。

組織の上のほうになると、自分の組織で問題が起きないようにと、そんな心理状況にどうしてもなっちゃうんですかね。

今やSNS全盛の時代ですが、当局者の意識が変わっていくかどうかはまだまだこれからでしょう。まあ、変わって欲しいなと思いますね。

━━ 組織の上の人たちが執拗に統制しようとするのはなぜでしょうか。組織全体のことを考えているからでしょうか。それとも何か問題が起きたら、自分たちの責任が問われるからでしょうか。

組織のことを考えてのことだと思いますけどね。私利私欲というよりは。管理したがる系の人たちは「けしからん」と思っちゃうんでしょうね。

ある意味の義務感かもしれませんね。管理職にいる自分が何とかしなければならないという。

後編に続く)

プロフィール

岡口基一(おかぐち・きいち) 東京大法学部を卒業後、1994年に裁判官に任官。水戸地裁判事や大阪高裁判事や東京高裁判事をへて2019年4月から仙台高裁判事。東京高裁判事のころ、Twitterなどで判例情報などを紹介し、注目を集めるが、投稿をめぐって2回、厳重注意処分を受けたほか、2018年には分限裁判をへて最高裁から戒告処分を受けた。法曹界では、民事事件のバイブルとも言える「要件事実マニュアル」シリーズの著者として有名。近著に「最高裁に告ぐ」「裁判官は劣化しているのか」。