本命チョコの金額が、1月分の食費になる。「国境なき子どもたち」が支援を呼びかけ

貧困などの困難な状況にある子どもたちの教育支援を行う「国境なき子どもたち」(KnK)が、クラウドファンディングに取り組んでいる。
現地の子どもたちと心を通じ合わせる友情のレポーター(カンボジア)
現地の子どもたちと心を通じ合わせる友情のレポーター(カンボジア)

貧困などの困難な状況にある子どもたちの教育支援を行う「国境なき子どもたち」(KnK)が、クラウドファンディングによる「+1(プラスワン)」キャンペーンに取り組んでいる。バレンタインやホワイトデーに本命チョコやプレゼントをやりとりするタイミングに合わせて、「誰かを思いやる気持ちを+1して、バングラデシュの子どもたちに食べ物を届けてほしい」とメッセージを送る。

支援が届きにくい、10代後半の子どもたち

乗船客に飲料水を売りにでかける少年(バングラデシュ)
乗船客に飲料水を売りにでかける少年(バングラデシュ)

海外には、貧困などの困難な状況にある子どもたちが数多く存在する。

「特に支援が行き届きにくいのが10代後半の子どもたちです。彼らは年齢的に養護施設で保護されることもなく、ストリートチルドレンとして路上で生活する子も多い。子どもでも大人でもない存在として、頼る場所もなく、孤独や貧困と戦っています」

そう語るのは、KnK理事で広報を担当する清水匡さんだ。

途上国では、ストリートチルドレンを保護する施設はたくさんあるが、その多くが年齢の低い子どもを優先する。15、6歳になると施設を出なければならないケースが少なくない。

こうした背景を受けてKnKではカンボジアで15歳以上の青少年を受け入れる自立支援施設「若者の家」を運営している。

ストリートチルドレンを支援する施設を開設

ほほえみドロップインセンターで食事をとる子どもたち(バングラデシュ)
ほほえみドロップインセンターで食事をとる子どもたち(バングラデシュ)

バングラデシュでは2011年に首都ダッカでストリートチルドレンが昼間立ち寄れる「ほほえみドロップインセンター」を開設した。これまでに延べ約70,000人の子どもたちがセンターを利用している。

「経済成長が進むバングラデシュでは、都市と農村の経済格差が拡大しています。そういう中で家庭での虐待、親との死別、貧困などさまざまな事情で都市に流れ着き、路上生活をよぎなくされた子どもたちが、ストリートチルドレンとなっているのです」(清水さん)

センターでは朝と昼、1日2回の食事を子どもたちに提供している。今回のクラウドファンディングでは、子どもたちに栄養のある食事を、年間通して届けるのが目標だ。

「1日にやってくる子は平均で40人ほど。中には毎日やってくる子もいます。路上で厳しい生活をしている子どもたちにとって、まず一番大事なのは空腹を満たして、健康に成長できる食事ができること。

ほかにも、文字の読み書きや計算、遠足やスポーツ大会の実施や、怪我や病気の手当、カウンセリングなども行っています。大人から不当に搾取されることも多いので、子どもの権利などについても伝えるようにしています」

ダッカにはほかにも子ども向けのデイケアセンターがあるが、「本の読み聞かせをしてくれるなど、スタッフが愛情を持って接してくれるから」と、10年近く通い続けている子どももいる。

愛情を知らず、誰にも頼れずに生きてきた子どもたちにとって、ほほえみドロップインセンターはこころの拠り所となっているのだ。

はじまりは「国境なき医師団日本」だった

イラク難民の子どもたちにビデオ制作を指導する清水さん(ヨルダン)
イラク難民の子どもたちにビデオ制作を指導する清水さん(ヨルダン)

団体の名前からもわかるように、「国境なき子どもたち」は世界的NGO「国境なき医師団」と深い関係がある。そもそもは、国境なき医師団日本が、国際貢献を体験してもらおうと日本の子どもたちをレポーターとして海外に派遣し、彼らの取材を通して現地の子どもたちへの教育支援の必要性を感じ、「国境なき子どもたち」が設立された。

「教育プロジェクトが動き出すと、そもそも分野の違う医療援助と教育支援は分けるべきだということになりました。KnKは医師団から独立し、子どもたちへの教育支援に特化したNGOとして運営しています」

清水さん自身も、当初は国境なき医師団日本の映像カメラマンとして参加していた。さまざまな紛争地や途上国に飛び、活動現場を記録したり、組織の運営にも関わったりしてきた。

子どもたちが交流し、お互いに成長し合う

ゴミ山で働く13歳の少女に話を聞く友情のレポーター(カンボジア)
ゴミ山で働く13歳の少女に話を聞く友情のレポーター(カンボジア)

そんな清水さんが、子どもたちの教育支援の活動に惹かれるようになったのは、2000年に日本の子どもたちの海外派遣「友情のレポーター」を担当したことがきっかけだ。

「現地の子どもたちの厳しい状況を目の当たりにしたというのはもちろん、日本から連れて行った子どもたちが、その出会いをきっかけに大きく成長する姿に感動。子どもたちを支えるプロジェクトをもっと発展させたい、という思いが募るようになりました。

医師団在籍中は医療支援と子どもたちの教育支援を二足のわらじでやっていましたが、KnKの独立に伴い、これからは子どもたちとのかかわりを大切にしていきたいと決意しました」と、KnKへの想いを語る。

清水さんと「友情のレポーター」として参加した子どもたちとの交流は、今でも続いている。

「音楽療法で世界の子どもたちを支援する活動をしている子や、海外取材を機にフォトジャーナリストとして活躍している安田菜津紀さんもその一人です。子どもたちとの長い交流の中で、KnKのプロジェクトがそれぞれの未来に大きな影響を与えたことには、喜びを感じます」

現地の子どもたちも、日本の子どもと交流することで、「もっと英語でコミュニケーションをしたい」と、ほかの勉強にも意欲を示したりしているという。

堀潤さん「共感を覚えました」

ストリートチルドレンに取材する友情のレポーター(フィリピン)
ストリートチルドレンに取材する友情のレポーター(フィリピン)

KnKでは、「友情のレポーター」プロジェクトに加えて、カンボジア、バングラデシュ、フィリピン、パレスチナ、ヨルダン、パキスタン、そして日本で、子どもたちの教育支援を拡大。支援のあり方も現地の状況に合わせて、さまざまに広がっている。

ジャーナリストの堀潤さんは3年前の取材をきっかけにKnKとの関わりが始まったという。今年3月公開の映画「わたしは分断を許さない」でも、KnKの活動を紹介。ヨルダンに避難したシリア人たちが暮らす「ザータリ難民キャンプ」におけるKnKの現地駐在、松永晴子さんの活動を通じて、「分断」を手当てする取り組みや内戦の不条理を描いた。

「子どもたちの未来をつくるKnKの取り組みに共感を覚えました。『友情のレポーター』の審査員も毎年務め、積極的にイベントなどにも参加しています。

清水さんは優しさと冷静さを兼ね備えたジャーナリスト。フィールドも重なり、連帯して発信を続けています。 粛々と実行を続ける直向きさに刺激を受けています」(堀さん)

チョコの金額が1カ月分の食費に

今回のクラウドファンディングは、KnKの「ほほえみドロップインセンター」で、子どもたちに栄養のある食事を年間通して届けるのが目標だ。

バレンタインに送る本命チョコの相場は2814円――。明治が発表しているこんなデータがある。これは「ほほえみドロップインセンター」で、子ども1人に約1カ月分の朝食と昼食を提供するのと、ほぼ同じ金額だという。

「厳しい環境の中、毎日を生き延びている子どもたちには、継続的な支援が必要です。食事や健康管理という生きる基本はもちろん、愛情や将来への意欲も大切なこと。そのためにも、自立へのスキルを得る教育支援は欠かせません。彼らが明るい未来を描けるように、これからも支援を続けていくことが重要です。

また、日本の子どもたちにも、自分たちとは違う境遇の子どもたちと交流を深めることで、世界について考えたり、自分の将来を描いたりするきっかけにしてもらいたいですね」(清水さん)

クラウドファンディングでは、3月14日まで支援を受け付けている。詳細はこちら。

(取材・執筆 工藤千秋)

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