先見性のない経営者のもとで働く人へ──フローレンス駒崎代表による"草の根ロビー活動"のススメ

ともにモーレツな昭和型仕事人間から、育児・家事にも積極的に携わるイクメンへ脱皮を遂げた経験を持つ、認定NPO法人フローレンス駒崎弘樹代表とサイボウズ青野慶久社長による「イクメン経営者ズ」対談。

ともにモーレツな昭和型仕事人間から、育児・家事にも積極的に携わるイクメンへ脱皮を遂げた経験を持つ、認定NPO法人フローレンス駒崎弘樹代表とサイボウズ青野慶久社長による「イクメン経営者ズ」対談。後編では、では具体的にどうやって「働き方革命」を起こしていくかに話が進みます。「工作員となって職場でゲリラ戦に挑め!」と、なにやら物騒な言葉が飛び交う展開に。そして駒崎さんの新幹線の中でのつぶやきに端を発した、あのTwitter上でのホリエモン炎上事件にも言及してしまいます!

ロールモデルを生み出しつつ伝道者を増やす

青野:働き方を変えないと、これから先、個人としても、日本という国としても厳しい、という話になりました。じゃあどうやったら変えられるかなんですよね。

正直、意識の高い人はものすごく先進的なんですよ。話をしていると「今すぐ日本は変わるんじゃないか?」と思うくらい。でも、そうじゃない人は逆にものすごく遅れている。「何十年前の考え方をしているんだ?」みたいな。

駒崎:僕は1つ、"ロールモデル戦略"というのがあると思っているんです。

青野:ほう。それはどういう戦略ですか?

駒崎:まず自分たちでやってみて、小さくてもいいから成功体験を生み出す。それを「我々にできたんだから皆さんにもできるでしょ?」と言って展開していくんです。自分たちがロールモデルになるわけですね。自分たちができていないのに、変えよう、と言っても誰も納得しませんから。

例えば、僕は自分が育休を2回取ったので、周りの友人知人にも「育休取りなよ」と言いまくってきました。そうしたらNPO経営者仲間が「俺も取ろうと思うんだけど」と相談を持ちかけてきて、実際に取ったんです。それによって彼は育児に開眼し、「本当に育休を取ってよかった」と喜んでいたので、「じゃあ君の使命は、その思いを伝道していくことだよ」とお願いした。このようにロールモデルを生み出しつつ伝道者を増やしていけばいいんじゃないかと。

青野:確かに身近にいる人がやっていれば、「自分にもできるんじゃないか?」と思いますもんね。

駒崎:言葉は悪いですけど、青野さんのいらっしゃるIT業界って、7Kとか言われるじゃないですか?

青野:はいはい。休暇取れない、結婚できない、化粧がのらない、とかいろいろ言われます(笑)

駒崎:そんな中でも、サイボウズさんのように、新しい働き方を取り入れるのに熱心な会社があることは、同業界の会社にとって大きな希望になると思うんです。

青野:サイボウズができるんだからウチの会社もやってみよう、となってほしいですよね。ただですね...。僕が育休を取ってからもう2年経つんですが、あとに続く経営者は思ったほどいないんです。だから未だに、「イクメンについてコラムを書いてくれ」という依頼が僕に来るし、"イクメン社長"というキーワードで検索をかけると僕が一番上に来る。

でも、最近、地方自治体の首長では、子どもができたら育児休暇を取るのが当たり前になりつつありますよね。

駒崎:それはメディアが好意的に取り上げたのが大きかったですね。「取ったほうがおいしいんじゃない?」となったので。

青野:たった4人ほどの首長が育休を取っただけで、取るのが当たり前みたいな雰囲気になりました。

駒崎:先日、フィンランドに行った時に印象に残った話があって。フィンランドってイクメン大国なんですよ。父親が育児をするのは当たり前、みたいな。それについて政府の人に「すごいですね」と言ったら、「いやいや、我が国も30年前までは全然そんなことなくて、本当にこういうふうになったのは15年くらい前からなんです」という答えが返ってきた。

それを聞いて思ったんです。「なんだ、その気になれば15年くらいで変えられちゃうんだ」と。ならば上の世代の昭和マインドの人たちに関わっているより、僕らの世代で「お先っス!」って変えちゃえばいい。

青野:自治体首長の育休のケースを考えると、15年かからないかもしれないですね。

駒崎:そうなんですよ! 「イクメン」という言葉が出てきたのは、2010年からなんです。僕は厚労省のイクメンプロジェクトの座長だから知っているんですけど。で、2010年の段階では、イクメンという言葉の国民認知率は14%だった。それが2013年では90%以上になったんです。

青野:たったの3年で、国民のほとんどが知っている言葉になった。

駒崎:ええ。たかが言葉、と言われるかもしれないけれども、言葉が広がれば認識も広がる。例えば、僕は「イクメンの星プロジェクト」というのにも関わっているんです。我こそはイクメンであるという人にエピソードを書いて応募してもらい、それを表彰するものです。これについても最初は正直、手を挙げてくれる人がいるのかな? なんて思っていたんですが、蓋を開けてみるとガンガン応募が来て。それで表彰すると、地方紙などの記事になるんです。「我が県からイクメンの星が出た!」と。

青野:一気にヒーローになっちゃう。流れが来ていますね。

駒崎:でも、ここまで来るまでには、いろいろなハレーションや炎上騒ぎもあったんですよ。僕もイクメンに関するコラムを書いたりすると、すごくディスられたりして。しかも、文句をつけてくるのは女性が多いんです。

青野:意外ですね。どんな文句をつけてくるんですか?

駒崎:「育児をやったぐらいで何ドヤ顔してるんだ! 家事もやれ!」とか。「やっとるわ!」って叫びたくなるんですけど(笑)。あとは年配の女性から「自分の時はそうじゃなかった」とか。

青野:きっと辛かったんでしょうね。でもその辛さを次世代に引き継いじゃダメですよね。

「草の根ロビー活動」を始めよう

青野:働き方が大きく変わるまで、もうひと息ですよね。僕はいつも講演で若い人に、「育児休暇を取れるなら取っておけ。これまで会社に取った人がいなかったなら、気がひけるかもしれないけどむしろ絶対に取れ」と言うんです。なぜかというと、"会社で初めて育休を取った男"というレッテルがつけば、10年後、必ず人事部長になれるから。

これは冗談で言っているのではないんです。今、世の中の経営者のマインドも大きく変わりつつある。だって、たかだか社員400名くらいの会社の経営者である僕に、数千名・数万名を超える大会社の経営者が直々に連絡をくれて、「我が社も新しい働き方を取り入れたいんだけどどうすればいいかな?」と相談してくるんですよ。家庭や育児を大事にした働き方をする人が評価される時代は、もうすぐそこまで来ているんです。

駒崎:そこまで先見性のある経営者のもとで働いていない人も多いかと思いますが、そういう人にはぜひ工作員となって、ゲリラ戦を挑んでほしいんです。

青野:ゲ、ゲリラ戦ですか。

駒崎:そうです。ゲリラ戦の例を1つお話ししましょう。

米国にインターフェイス社というカーペット会社があります。その会社は今でこそ世界で一番エコな会社として知られていますが、もとはといえば汚染物質を流しまくり、環境負荷をめちゃくちゃかけていた会社でした。

そんな中、ある日、その会社の女性マネージャーが、自分の娘から手紙を受け取ったんです。その手紙には「ママの会社は環境にダメージを与えているろくでもない会社だ」と書いてあった。当然、落ち込むわけですよ。さらにその時、手紙と一緒に『サステナビリティ革命』という本を渡されたんです。「この本をママの会社の社長に読んでもらってほしい」と。

青野:へえ~っ。

駒崎:社長に読ませるなんて無理と思ったけれど、とりあえずその本を社長室の机の上に置いておいた。そうしたらたまたま社長がその本を手に取り、猛烈に感動したそうで。「俺はこれまで世の中にいいことをしていたと思ったけれど、罪を犯していたのかもしれない」と改心し、「ウチの会社はエコな会社になる」と宣言したんです。

青野:おお、いきなり!

駒崎:そこで、プロジェクトチームをつくって作業工程を全て見直し、加工の過程で使う薬剤の量なども劇的に減らした。そうしたら利益率まで向上したんだそうです。ならば、ということでさらに改善を進め、どんどんエコな会社になっていった。

この話だって、始まりはいちマネージャーが娘から本を渡されたという小さな出来事からです。湖に小石を投げ込むと、それが大きな波紋を生むことだってあるわけです。

青野:ゲリラ戦としては大成功モデルですね。世の中、結構そんなものかもしれない。

駒崎:この話の"環境負荷低減と利益率向上を両立した"みたいに、上の人が何を実現できたら喜ぶかを分析しつつ、ゲリラ戦を戦うのもいいかもしれません。そういう草の根ロビー活動を、ぜひ皆さんの職場でも展開してほしいですね。

僕も草の根ロビー活動をやっているんです。最近だと特定養子縁組に関わる話で。つい最近まで、特定養子縁組で養子をとった親は、育休を取れなかったんですよ。実子じゃないということで給付金がおりなくて。それはおかしいだろうと思い、厚労省の人に、2週間に1回くらいのペースで、しつこくメールを送り続けていたんです。そうしたらさすがにインプットされたのか、担当部署に掛けあってくれ、4ヶ月後には養子でも育休が取れることになったんです。その間、僕はただメールを数通送っただけ。トータルで1時間も使っていませんよ。小さな力でも、見えないボタンを押すと、物事が大きく動くことはあるんです。

青野:素晴らしい話ですね。

長引く不景気の根本要因は、少子化を招く「働き方」にある

青野:僕はバブル崩壊直後の、1994年に就職しました。それから20年たちますが、その間、日本はずっと不景気なんですよ。いろんな政治家がいろんな策を打ったにも関わらず。それは結局、それらの政策が本質をついていなかったからだと思う。本質的な問題は何かというと、少子化ですよ。それにより国内市場がシュリンクしているわけだから。では少子化の原因って何? となると、働き方の問題に行きつくんです。

駒崎:ワークライフバランスに関する有識者会議で、ある議員が、夫の休日の家事育児への協力と2人目出生率の相関関係のグラフを出したんです。夫が休日に家事育児に協力いる家庭では、2人目出生率は圧倒的に高いんですよ。それまで税制がどうのとか高尚な議論をしていたのに、たったそれだけのこと? となった時のあの雰囲気(笑)。そう、世の男性がみんな、家事育児に協力すればいいだけなんです。

青野:そのとおりです。

駒崎:先日、NHKの番組に出た際に、IMF理事のクリスティーナ・ラガルドという女性と話したのですが、彼女は「日本は信じられない」と言っていました。「日本は先進国の中で、女性が働いている率が一番低い。その結果、最近20年の経済成長率の平均は0.9%。女性が他の先進国並みに働けば4%は成長できる。なぜわかっているのにやらないのか?」と。それはいろいろな理由で、女性が働きづらい環境にあるからなのですが。

複雑に考えずに、1人ひとりが動けばいい。「世の中を抜本的に変えます!」なんていう政治家には期待しないで、僕たち自身が変わっていけばいいと思います。

青野:我々の世代で変えたいですよね。

ホリエモン炎上事件の背景にあるもの

青野:少子化の話が出たところで...。タイムリーな話題でもあるので、先日の、駒崎さんのつぶやきに端を発したホリエモンの炎上事件についても訊いておきたいのですが(笑)

駒崎:ああ、それいっちゃいますか(笑)

青野:面白かったですよね。駒崎さんが乗っていた新幹線の中で赤ちゃんが泣いたら、隣に座っていた女性が「うるせえんだよ」と言って舌打ちをした。それについて駒崎さんがTwitterで苦言を呈したら、堀江貴文さんが「舌打ちぐらいするだろ」みたいな感じで絡んできて。最終的には、子どもに睡眠薬を飲ませる、飲ませないみたいな議論になって大炎上しました。「おいおい、そんな話にまでなっちゃうの?」と思ったんですが。

駒崎

堀江さんとはテレビ番組などでお会いしたことがあり、フレンドリーな感じだったのに。いきなり尖った感じで絡まれたのでびっくりしましたよ(笑)

僕は、子どもの声をノイズとしてしか受け取らない社会こそ変えたいと思っていて。子ども持っていてもストレスなく公共交通機関で出かけられる、いい雰囲気の社会をつくりたいなと思ってつぶやいてみたんですが。

青野:会社の中でも似たような問題って起こるんですよ。サイボウズだと、女性が働きやすくするために育休を長くするなどいろいろな制度を導入しているのですが、そうすると逆に、「なんで子どもを持っている人だけが優遇されるんだ」と文句が出たことがあった。

それに対して、僕はこう答えたんです。「子どもを育てるという仕事は、普通の仕事より優先順位が高い。なぜなら、この少子化の日本で、次世代の購買者を育ててくれているんだから」と。サイボウズだって将来、ユーザーライセンスを買ってくれる人がいなくなったら困るわけですよ。「子育てしている人は偉い」という価値観を、経営トップが発信することが必要。そうすれば新幹線の中で泣いている子どもがいても、「未来のために子育て頑張ってください」と思えるはずです。

駒崎:全くおっしゃるとおりですね。僕は、子育てしながら働いている人が働きやすい職場は、子どもがいない人にとっても働きやすい職場になると思うんです。例えば、ウチのNPOも、時短勤務や在宅勤務などの子育て支援の制度を設けていますが、それは親を介護しなくてはならない人にとってもありがたい仕組みとして機能している。また、在宅勤務の仕組みをつくりあげていたことで、東日本大震災の際に交通機関に大幅な乱れが出ても、出社せずに支障なく業務をこなせました。

みんなが働きやすい職場は、実はタフな組織になる。何か不測の事態が起きた際も、バックアッププロセスをつくっているため吸収できますから。

青野:東日本大震災の際、地震やそれに続く原発事故で社員が出社に不安を感じていた中、サイボウズは地震の数日後に決算発表をしなくてはならなかったんです。それも在宅勤務の仕組みを整えていたから、誰も出社せず在宅でやれてしまった。確かに変化に強い組織ができますよね。

駒崎:やはり誰かが声を上げることが重要だと思っていて。例えば、30年前まで、脳性麻痺の人って市バスに乗れなかったんですよ。車椅子でバスの乗降口を塞いでしまうからということで。それを変えたのは「全国青い芝の会」というNPO。彼らが何をやったかというと、ちょっと過激ですが、バスジャックをしたんですよ。脳性麻痺の人たちと一緒にバスに乗り込んだまま動かない。それをマスコミが報道した結果、それはおかしいだろうとなって、市バスに乗れるようになったんです。

青野:それもゲリラ戦大成功の事例ですね。

駒崎:マイノリティって迷惑に見られがちだけど、「いや、我々も社会の構成員なんです」と声を上げることが大事。そこから変わることは絶対ありますから。

少子化の今の日本で、子育てをしている人はマイノリティなんです。だからって縮こまるんじゃなく、「我々にも公共交通機関に乗る権利はある。共存してほしい」と声を上げるべき。そういうことを伝えたいと思ったから、あのつぶやきになったんです。

青野:完全に同感です。マイノリティが共存できる組織をつくることは僕のテーマでもあって。それは、そういう人こそが、イノベーティブな視点を組織に持ち込んでくれるからです。その点、日本の大企業は、みんな同じ年で入社し、30歳くらいで結婚し、40歳くらいで課長になってと、全員が同じ道を歩む。これは非常に危険だと考えています。組織の中にマイノリティを入れると、新しい視点が生まれ、いろんな改善ができる、だから実は得だ、というふうになればと思いますね。本日はありがとうございました!

駒崎:こちらこそ刺激になりました!

撮影:谷川真紀子、執筆:荒濱一、編集:渡辺清美

前編:

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