ランペドゥーザ島の海綿

同じ貧栄養環境であるランペドゥーザ島(や、その他の地中海沿岸地域)に棲む海綿とバイカル湖に棲む海綿との間に、何か共通点はないか気になるところである。
dc1975 via Getty Images

昨夜、NHKで放送されていた『地球イチバン「世界一透明すぎる海の秘密~イタリア・ランペドゥーザ島~」』という番組を見て以来、ずっと海綿のことを考えている。

ランペドゥーザ島は、イタリアの南の端、アフリカにとても近いところにある。海が透明すぎて舟も浮かんで見える、という絶景で有名なところだ。

番組では、この海に特別な透明さをもたらした原因を3つほど考察していた。

1つめは、遠浅で深海からの栄養分が運ばれてこず、また川も流れ込まないため、海水中の栄養分が少なく、プランクトンも少ない環境であること。

2つめは、海底の砂が、近くの石灰質の岩が削り取られてできた真っ白な砂で、しかも比重が重いため、まきあげられてもすぐに沈んで海水の透明さが保たれること。

そして3つめは、この海にたくさん棲んでいる海綿が、海を浄化しているのではないかということ。

その海綿がどんなやつなのか、何をしているのかが、どうにも気になってしかたない。

貧栄養環境の海に適応した動物といえば、サンゴ(造礁サンゴ)である。

色とりどりのサンゴが棲息する熱帯の浅い海には、魚などの生き物もたくさん棲んでいるが、実は栄養分(栄養塩)が少ない。栄養塩に乏しい海でサンゴが大繁殖できるしくみについてはまだ謎が多いらしい(田中泰章,海の研究(OceanographyinJapan),21(4),101-117,2012)。もっとも、サンゴと褐虫藻の共生関係が重要であることはよく知られている。

サンゴと褐虫藻は、海水中の少ない栄養塩を上手に協力しあって利用しつつ、サンゴは褐虫藻にすみかを提供し、褐虫藻は光合成で作った有機物(炭素源)をサンゴに提供している。サンゴの呼吸等によって、その炭素源は海水中にも放出され、それをまわりの生き物が利用する。

こうして、透明なサンゴ礁の海は、栄養塩に乏しいにもかかわらず、ゆたかな生き物に満ちているのだ。

一方、テレビで見た限り、ランペドゥーザ島(のあの有名な透明な海)にはサンゴは見当たらなかった。調べた限りでも、サンゴ礁はないようである。地中海の石灰岩はほとんどサンゴ礁由来だと聞いたことがあるから、石灰質の岩でできたランペドゥーザ島も、ずっと昔はサンゴ礁だったのだろう。今のランペドゥーザはサンゴ(造礁サンゴ)の棲息に適した環境ではないのかもしれない。

でも、海綿は棲んでいる(それほど多くはないようだったが、海綿のまわりを泳ぐ魚たちの映像も映っていた)。もしかして、この海綿たちがサンゴの代わりのような存在なのだろうか。

同じ地中海のギリシャも海綿が有名だが、このあたりの海綿はみんな似たようなやつらなのだろうか。そして、かつてサンゴ礁を形成したサンゴたちが、海綿に取って代わられたりしたのだろうか。

海綿にも共生微生物がいることはよく知られているが、ランペドゥーザ島や他の地中海沿岸の海綿の共生微生物が、サンゴにおける褐虫藻みたいな役割も果たしているとしても不思議ではない。

そういうことって誰か研究してないのかな、と調べているうちに、東大の山室真澄先生のブログで、バイカル湖の海綿について書かれている記事に行き当たった。

「この海綿達こそが、貧栄養なバイカル湖でなぜ魚類などがの動物がたくさん住んでいられるかの鍵を握っているのではないかと思います。」

同じ貧栄養環境であるランペドゥーザ島(や、その他の地中海沿岸地域)に棲む海綿とバイカル湖に棲む海綿との間に、何か共通点はないか気になるところである。これらの海綿が、貧栄養環境でないと生きていけないものなのか、富栄養環境でも生きていけるものなのかも気になる。

このあたりのことには詳しくないので、これまでにどんなことが明らかになっているのか、詳しい方がいらしたら教えてくださると嬉しいです。

(2015年「科学と生活のイーハトーヴ」より転載)

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