『#採用やめよう』全面広告で物申す ランサーズ社長「正社員だけが前提になっている」

経団連が定める新卒採用の「選考解禁日」に合わせて、日経新聞に全面広告を掲載しました。

「#採用やめよう」ーー。インパクトのあるキャッチフレーズが6月1日、日経新聞の紙面に踊った。

フリーランスで働く人たちのプラットフォーム『Lancers』(ランサーズ)が、経団連が定める新卒採用の「選考解禁日」に合わせて、掲げた全面広告だ。

「採用やめよう」全面広告、“逆転の発想”を体現して、上下逆さまで掲載されている。
「採用やめよう」全面広告、“逆転の発想”を体現して、上下逆さまで掲載されている。
Rio Hamada / Huffpost Japan

説明文では、ネットの普及などで場所や時間にとらわれずに働くことが可能になったのに、昔ながらの労働観が根強く、柔軟な働き方や多様な人材を活かしきれていないと指摘している。

画一的な採用をやめることが、人材不足という難題の解決策になるとして、こう訴えている。

「フリーランスでも、正社員に負けじと、出会った企業のビジネスに本気で貢献したい、と燃える人が多くいる。彼ら彼女らの力を活かすことこそが日本の未来をつくると信じてやみません」

人手不足に対して「採用やめよう」を呼びかけるという、“逆転の発想”を体現して、全面広告は上下逆さまに掲載している。

この広告に対して、ネット上では「優秀な人=正社員でなくなってきている」「働き方の多様性がもっと広がるといい」と反響が広がった。

いろいろな雇用形態が混ざり合う世界

人材不足なのに「採用やめよう」。一見すると矛盾するメッセージに、どんな意図があるのか。

ランサーズの秋好陽介社長は、「正社員だけを前提に、働くことや採用を考えるのはやめよう、ということを考え議論するきっかけになれば」と語る。

ここ最近、従来の雇用のあり方や採用ルールに変化の兆しが見えている。

トヨタ自動車の豊田章男社長や経団連の中西宏明会長が、終身雇用の見直しについて言及したほか、終身雇用を前提とする新卒一括採用に関する現行の「就活ルール」も今回で廃止される。

みずほ総研の推計によると、現在6600万人ほどの労働人口は、30〜40年後には4000万人ほどに落ち込む見通しとなっている。

いまの有効求人倍率も1.6倍と高い水準を保っており、現在の労働力不足が、今後さらに加速する可能性もある。

こうした社会背景を踏まえて、秋好社長は次のように指摘する。

「企業は採用したくても『採用できない』という状態になっています。一方で、フリーランスには優秀な方が多いですし、社員と同じか、それ以上に仕事にコミットする人もいるのですが、企業側が『人を採用したい』という時に正社員が前提となっている。そこに矛盾があるのでないかと思います」

人手不足で悩む企業側と、正社員とは違う形で会社に貢献したいと考える人材との間のミスマッチを、解消していきたいと考えているという。

「採用や正社員、就活がダメだと言っているわけではありません」

「いろいろな雇用形態が混ざり合う世界をつくっていきたいです。1つの会社で正社員するのももちろんいいですし、正社員をしながら業務委託や、2つの会社で正社員、副業やフリーランスでもいい。一つだけに絞ることが、個人にも企業にとっても選択肢の幅を狭くしてしまいます」

秋好社長はまた、招待されたランサーズ利用者の結婚式での出来事が、キャンペーンのきっかけの一つになっていると明かす。

「式には、その人のフリーランス仲間や仕事をもらっているクライアントもたくさん来ていて、仕事関係を超えた完全にパートナー。 クライアント企業の人と話すと、『我が社にはなくてはならない、社員以上の関係です』と言っていて、これが未来の仕事の関係だなと感じました」

秋好陽介社長
秋好陽介社長
Rio Hamada / Huffpost Japan

大手と中小企業の二極化

すでに形骸化していた終身雇用制度は、“見直し宣言”で新しい働き方や雇用制度への移行の一歩となる一方で、企業の人員削減の動きを加速、後押しするのではないかという見方も広がっている。

「もちろん人員を削減しやすくなるかもしれないリスクがあることは重々承知しています。そのリスクに対しては、そうならないよう法律なりで守らないといけない」

人が集まり、将来に向けてビジネス構築を進めようとする大企業とは対照的に、中小企業では人材不足が深刻化し、2極化が進んでいる。

「(中小企業にとっては)むしろ人がいないことの方が課題で、そもそも採用ができない。労働人口も少なくなっていく中で、人員削減という流れにはならないのではないでしょうか」

秋好陽介社長
秋好陽介社長
Rio Hamada / Huffpost Japan

「年齢や経験がプラスに働く」

「終身雇用の正社員」という働き方を前提とした入社が多い50代社員にとっては、雇用のあり方の見直しで、決断を迫られる形になる。

賃金の高い中高年の社員は希望退職の対象となりやすく、東京商工リサーチによると、2019年に希望・早期退職者を募った上場企業のうち、応募条件を「45歳以上」とした社が最も多かったという。

そうした世代にとって、フリーランスという働き方は解決策の一つとなるのか。秋好社長は言う。

「会社の中にいると、年齢を重ねるとやもすればマイナスの対象に見られがちですが、スキルや経験がものを言うフリーランスの世界だと、歳をとったり経験がある方がプラスに働きます」

ランサーズの登録者の中には、フリーランスで活躍する80代の翻訳家もいるという。

「社外でも発揮できるスキルを持っている人は多いと思うので、副業といった働き方を実践していれば、例えば65歳で定年になっても第2のキャリアをしやすくなります」

一方で、フリーランスは、労災保険に入れないなど社会保障上の不安があるほか、報酬をめぐるトラブルに個人で対応しなければならない。会社員と比べて立場が弱く、社会的な信用も高いとは言えない。

ランサーズはそうした課題に対して、フリーランスで働く人の業務負担の軽減やトラブル回避のため、会社機能を付与するサービスなどを提供し、働きやすい環境の整備を進めている。

「自由だから何でもいいということではない。自由な働き方を進めるには、安心・守りの部分もしっかりと提供しないといけないと思います」

「自分らしい選択肢を選べるように」

ランサーズに登録する人の中には、大学時代に習得したスキルを活かして『新卒フリーランス』として働く人もいるという。これから社会に出ようとする人たちに向けて、秋好社長はこう呼びかける。

「その選択だけがいいとは思っていなくて、新卒で会社で働く以外にも色々な可能性があって、人それぞれが選べる社会になりつつあることを知ってほしいです」

「選択肢が少ないと勘違いして、万が一自分が選択肢と合っていなかった時に、あたかも外に外れたように見えたとしても、実際はそんなことは全然ないと思います」

「新卒で会社に入ったなら、もちろん頑張って欲しいですが、仮にミスマッチがあったとしても、違う会社や働き方もある。自分らしい選択肢を選べるように支援したいですね」

『採用やめよう』を通じて、企業やフリーランスの人、企業勤めの会社員、これから社会に出る人たちに、あらゆる可能性や選択肢を示すことを目指している。

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