電力小売自由化で東電が狩場に?

電力小売全面自由化による顧客流出を防ごうと東電が苦労しているようです。

電力小売全面自由化による顧客流出を防ごうと東電が苦労しているようです。

東電は、顧客の狩場として狙うには恰好のターゲットになってきます。理由は、もちろん関東が電力市場としてはもっとも大きいということもありますが、加えて、東電には激しい顧客争奪戦を競い合う足腰が弱く、狙いやすい企業だからです。

東電は日本でもっとも良質な地域市場を抑えていた独占企業なので、殿様商売をやっていても業績はあがり、しかも総括原価方式で守られていたので、「営業」する必要がなかったのです。もっといえばマーケティングを考える必要もなかったのです。

「営業」の名刺を持つ人がいても、実際にやっている仕事はきっと「受付」業務だと思われます。顧客をつくり、維持し、拡大することを仕事にしている「営業」と、手続きを円滑化したり、調整をする「受付」では仕事内容がまったく違います。

「ガイアの夜明け」が東電の内部事情に迫った番組をやっていましたが、営業が不足し、技術者を営業に出すのですが、大変苦労しているようです。

そもそも営業の修羅場を経験したこともなく、営業がなにかもわかっているとはとうてい思えない上司から、他部門から回されてきて、なにをして良いのかもわからなず戸惑っている人たちが突撃命令の激を飛ばされても、それはそれで、また別の意味で修羅場となってきます。

東電には「お客さま」という視点すら、恐ろしいほど欠如した体質だということは、福島第一原発事故後の記者会見で露呈したことです。

東電が営業を必要としなかったのは、東電には強いライバルがいなかったことも影響しているのだと思います。

しかし福島第一原発事故を契機に、東京ガスとのエネルギーをめぐる競争のパワーバランスが変わりました。

そこにさらに電力小売の自由化で新規参入が起こり、その影響も無視できないとしても、どちらも顧客とのなんらかの接点を持っている電力会社VSガス会社の競争がまずは焦点になってきます。

さらに、これまでは大口電力に限られていた電力会社間の競争をも解き放ち、地域を超えた電力会社間の競争も起こってきます。

業界と地域をまたいだ、ねじれのような提携が、東京ガスと電力第2位の関電の間で結ばれたニュースが先月ありましたが、いよいよエネルギーの戦国時代のはじまりを伺わせます。

関電と東京ガスはまずLNGの調達で提携する。夏に電力需要、冬にガス需要が増える季節差に合わせて融通し合い、緊急時にも譲ることを想定。関電が持つ火力発電所の運転や保守のノウハウを東京ガスと共有する。今夏から関電の社員向け研修に東京ガス社員が参加する。

「電力小売自由化」の経済効果が目に見えて生まれてくるのは、時間を要するかもしれませんが、ようやくまともな競争が起こり、切磋琢磨することで電力会社の体質転換も起こってくるものと思います。

規制は日本の企業体質を弱体化させ、また新しい産業が生まれてくることを阻害してきましたが、エネルギーのインフラが自由化された意味は大きいと思います。電力小売全面自由化は、やがては安倍内閣の最大の功績になってくるかもしれません。電力小売り自由化で、どんどん健全な競争や新しい産業が生まれてくることに期待したいものです。

(2016年05月02日 「大西宏のマーケティング・エッセンス」より転載)

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