こだわりの会社理念より「流れに身を任せる」経営が強い理由

【カリスマホストの裏読書術 #8】山崎亮 『ふるさとを元気にする仕事 』
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何が起こるかわからない時代には、すぐ古びる理念より、変化を受け入れるリーダーの方が必要だ。

猛スピードで変わり続ける新宿・歌舞伎町で、ホストクラブ経営者として部下200人を率いる手塚マキさん。最近は歌舞伎町商店街振興組合の理事として、歌舞伎町の街をよくするプロジェクトに関わっている。

「経営も街づくりも、ビジョンやコンセプトを何も考えていません」と手塚さんは言う。「だって、未来や社会の変化なんてコントロールできないですよ。コンセプトにこだわるより、流れに身を任せて、"来るもの拒まず"の方が面白いです」。

コンセプトなしで突き進む手塚さんに語ってもらった。

Kaori Nishida

ホストがゴミを拾う理由

僕は毎月2〜3回、仲間のホストや街の人たちと一緒に、歌舞伎町でゴミ拾いをしています。

ホストクラブの社員に社会性を身につけてもらえたら...と思って気軽に始めただけなんですが、「ホストがゴミ拾い」というのが珍しいのか、世間から注目され始めました。

「どうして、やってるんですか?」「歌舞伎町をどんな街にしていきたいんですか?」。歌舞伎町商店街振興組合の理事をやっていることもあって、たくさん質問を受けるのですが、正直、困ってしまいます。

僕の中には、歌舞伎町の明確なビジョンなんてない。それに、街が複雑すぎて、一個人では何も語れないですよ。

でも、色々聞かれるので、勉強した方がいいのかなと思い、山崎亮さんが書いた『ふるさとを元気にする仕事』を読みました。山崎さんは、全国の地方のまちづくりや商店街の活性化に取り組んでいる有名な人です。

いま、日本各地で人口が減って、商店街では空き店舗が増えています。山崎さんは、そんな元気がない街に入り込み、ワークショップを開いて住民を巻き込みながら、空き店舗を再生したり、離島をおしゃれな観光スポットに変えたりしています。

山崎さんによると、役所が仕切って街をデザインするのではなく、「住民」が当事者意識を持って、みんなでアイデアやコンセプトを一緒に考えながら街を良くしていくとうまくいくそうです。

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コンセプトがないのが、コンセプト。

みんなで街のコンセプトを決めると、街に特徴や強みが生まれます。

税金を使って、意味のないイベントや大きな建物をつくるより、コンセプトをみんなで考えて地域経済が潤う山崎さんの取り組みは、可能性を感じますね。日本各地のふるさとがそうなってくれたら良いなと思います。

ただ、歌舞伎町のコミュニティづくりはちょっと違うかもしれません。20年間ここで働いて、多少なりとも街づくりに関わっている身からすると、歌舞伎町って、どこまでいっても、「コンセプトがないのがコンセプト」という街なんです。

そこら辺の20代のホストに「お前にとって、歌舞伎町の有名人って誰?」って聞いてみたら、僕が全く知らないような人の名前ばかり挙がってきます。イメージもビジョンもバラバラ。そういえば最近、若いホストと話したら、歌舞伎町は「こたつに座ってゲームのWiiをやる場所」だそうです。

僕も知らなかったんですが、歌舞伎町には「Wii」やカラオケがあるバーが人気を呼んでいて、若い男の子たちが少年みたいに遊んでるそうです。冬はあったかいこたつに足を突っ込んで、みんなで酒を飲み交わしてる。ドラマや漫画に出てくる"危険な歌舞伎町"のイメージと違って、アットホーム過ぎます。変な街ですよね(笑)。

アメーバみたいに、像を結ばない街。それが面白い。

Kaori Nishida

外と繋がる歌舞伎町。

昔と比べると、今の歌舞伎町は、一般社会と「共存」して、開かれた街になっているように感じます。1992年に「暴力団対策法」が制定されたことや、2000年代初頭に当時の石原慎太郎都知事が「繁華街の浄化作戦」として風俗店の取り締まりを強化したことで、歌舞伎町は「クリーンな街」に近づきました。防犯カメラも増えました。

清潔で安全になった歌舞伎町には、外の人がうわっと中に入って来るようになりました。昔と比べて、明るくなった気がします。

ここ数年は、SNSの影響も大きいですね。

ホストもキャバ嬢もアイドル化していて、どんどん自分の顔写真や日常の歌舞伎町の風景をアップしています。「インスタを見て会いにきました」というお客さんが増えているので、外への発信が売り上げに直結するんです。歌舞伎町がどんどんオープンになっています。

「給料袋」をなくした。

「キレイすぎる歌舞伎町は歌舞伎町ではない」「ダークな印象があった街の方が魅力的だ」。そう言う人もいますが、僕は、歌舞伎町の「外の人」と「中の人」が入り乱れて、人や文化が変わっていくのが好きなんです。

街だけじゃない、会社もそう。あらゆるコミュニティが、自分たちのコンセプトに固執しないで、どんどん交わった方がいいんじゃない?と思います。別に歌舞伎町はダークさだけが良かったわけでもないし、オープンでキレイな歌舞伎町も、歌舞伎町なんだと思います。だから、僕は変化に抵抗しません。

自分の店では、歌舞伎町の「外の常識」を導入することにこだわってきました。

ホストクラブ業界では当たり前のサービス料(会計に30〜40%を掛けた金額)を撤廃しましたし、メニュー表に記載した通りに会計することを徹底しました。

お客様は、自分がいくら払うのかを予測しやすいので安心して楽しめるし、納得してお金を払うことができる。

みなさんにとっては、当たり前のことかもしれませんが、以前は歌舞伎町の料金システムはわざと分かりにくくしていましたからね。

pixabay

それから、社員の給料は現金の手渡しをやめて全て振り込みにしました。

売れっ子ホストの給料袋に札束をたくさん入れて、給料日にみんなの前で配ることで、ライバル同士の競争心を煽るという、水商売的儀式を捨てました。

それよりも、銀行を通してお金をやりとりすることで、社員に企業意識、社会人意識を持ってもらうことを選びました。

色々可視化すると、"やましいお金"が作れないんですね。同業者や社員からも相当な反発がありましたけど、僕は変化を貫き通しました。

来る者を拒まず去る者を追わず。

僕は正義感や理念があって、こうした改革をやったわけではありません。なんというか「変化」を恐れないのが"真の歌舞伎町らしさ"なんじゃないかなって思うんですよ。東京都の政策によって、歌舞伎町がどんどん浄化され、世の中がネットによってどんどんオープンになっていくんだったら、深く考えず、そっちについていけば良いんじゃない、って思います。

歌舞伎町の景気は、この20年の中で、今が断然いちばんいい気がします。

「ITバブル」のように、いきなり大金を手にする人が増えると歌舞伎町の景気が上向くというのはこれまでも見て来ました。でも、今の活況はそれ以上ですね。SNSの普及で、外界とフラットに繋がったことが要因でお客さんが増えて、人やお金がどんどん流れ込んでいる。

歌舞伎町やゴールデン街といえば、昔は「スネに傷がある」ような人の溜まり場だったけど、今は明るい人がたくさん来ています。

「来る者を拒まず去る者を追わず」な歌舞伎町は、常に「あたらしい人々」を受け入れて「あたらしい歌舞伎町」になっていく。

この先、景気はまた悪くなるかもしれないけど、それもまた変化として受け入れるのが歌舞伎町ですね。景気が悪くなって今来ているようなお客さんが減って、ダークな街に戻っても、それはそれで、この街なのだと思う。

誰かによって意図的に作られるコンセプトの街より、色んな人や価値観が混じり合って自然に、形にならない形になっていくほうが、生身の街っぽいじゃないですか。

とりあえず変化を受け入れて、アップデートし続ける。そうやって20年歌舞伎町で生きて来ましたし、これから20年も流れに身を任せて行くんだと思います。

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"本好き"のカリスマホストとして知られる手塚マキさん。新宿・歌舞伎町に書店「歌舞伎町ブックセンター」をオープンしました。

Twitterのハッシュタグ「 #ホストと読みたい本 」で、みなさんのオススメの本を募集します。集まったタイトルの一部は、手塚マキさんが経営する「歌舞伎町ブックセンター」に並ぶ予定です。

連載「カリスマホストの裏読書術」は原則、2週間に1回、日曜日に公開していきます。

過去の連載は下にまとめています。ぜひ読んでみてください。

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