「持続可能」のその先へ。LUSHが渡り鳥を追いかける理由とは?

LUSHが大事にする「リジェネラティブ(再生)」という考え方について話を聞いた。
LUSH新宿店に並ぶカラフルな入浴剤「バスボム」
LUSH新宿店に並ぶカラフルな入浴剤「バスボム」

イギリス生まれのフレッシュコスメブランド「LUSH(ラッシュ)」。創立以来、新鮮で原料にこだわった、手作りの商品を提供している。そしてこの6月、彼らはアジア最大規模を誇る「LUSH新宿店」をオープンした。

入り口には、LUSHとして初の販売となるオーガニックフラワーが並び、4階に広がる店内には、パッケージを最小限に抑えたコスメやカラフルな石鹸が並び、フレッシュな香りが漂っている。

そんな「ナチュラル」なイメージが強い同社だが、実はSDGsの考え方が生まれるはるか昔から、人、動物、環境に配慮したビジネスを展開している。化粧品の動物実験廃止や、容器のリサイクル、ゴミ削減に向けた、容器や包装を必要としない固形商品の開発など、ビジネスを通して社会問題の解決を目指し、様々な取り組みを実践している。

パッケージなしで、裸で売られている固形シャンプー
パッケージなしで、裸で売られている固形シャンプー

「NO!動物実験」と書かれたレジ紙袋や、容器をまとわず裸で店頭に並ぶ石鹸やコスメはインパクトがあり、私たち消費者にも分かりやすいメッセージを放つ。しかし、目に見えにくいところにも、大事な取り組みや考え方が隠れている。製品や原料、その途中にあるプロセスなど、ビジネス全体で「リジェネラティブ(再生)」、自然の再生を促すことを実践している。

「リジェネラティブ」という考え方

「いまや、『サステナブル:持続可能』という思想は1人歩きしています。私たち消費者がずっと消費できればいい、というような「持続可能」、そしてそれは不十分です。本来は、自然や動物たちが持続していかなければいけません」そう語るのは、LUSHバイイングチームの黒澤千絵美さんだ。

LUSHバイイングチームの黒澤千絵美さん
LUSHバイイングチームの黒澤千絵美さん

そこでLUSHが辿り着いたのが、サステナブルの先を行く、「リジェネラティブ(再生)」という考え方だという。「例えばパーム油。これは、オランウータンなどの生息地である森林を焼き、アブラヤシを植林して生産されます。これは持続可能でしょうか?」この問題に対し、同社では商品からできるだけパーム油を取り除き、同時にその問題に焦点を当てたキャンペーンを行なった。「私たちは、ビジネスを通じて自然や社会の再生の手助けになりたいと思っています」と黒澤さんは話す。

黒澤さんが担当しているのが「リジェネラティブ・バイング(再生的購買)」。ただ原材料を購買するのではなく、それによって新たなものを創り出す、「再生」する購買だ。「ただなんとなく環境に良いっていうだけでなく、お客様が手に取る商品が、どう自然の再生に繋がっているのか知ってほしい...」黒澤さんはそう言うと、渡り鳥の話を始めた。

渡り鳥のルートを追う、LUSH独自の原料調達法

ブランドの信念に「Freedom of Movement(移動の自由)」を掲げるラッシュ。人間が決めた国境にとらわれずに世界中を飛び渡る「渡り鳥」はブランドの象徴的存在だという。LUSHは渡り鳥のルートを追い、その先々で再生可能な原材料を探す、独特のユニークな購買活動を行なっている。

イヌワシ(イメージ写真)
イヌワシ(イメージ写真)
H_Yasui via Getty Images

群馬県みなかみ町。ここに、イヌワシという鳥が生息している。(ちなみにイヌワシは渡り鳥でないが、これは担当者がプロジェクト着手後に知ったという...)今、日本では残り約500頭しかおらず、絶滅が危惧されている。人工林の不適切な管理により木が密集し、イヌワシが上空から獲物(野ウサギやヘビ)を探すことができず、生存を困難にしているからだ。そしてその人工林の状態は、太陽光を入りづらくし、植物が育ちにくく他の動植物も生きづらく、木もやせ細ってしまうという。

そこでLUSHは、環境保護団体が行なっている、人工林を伐採することで森の豊かさを復元し、生物の多様性を取り戻す「赤谷プロジェクト」に出会う。そして、この問題解決に貢献し、環境と経済の循環をリジェネラティブにするイヌワシプロジェクトを開始した。同社は、伐採されて地元で利用される木々の木屑を原料にしたペーパーを作り、それをギフトラッピングとして使っている。その上、地元の綺麗な水は化粧水の原料としても利用。鳥を追った結果、環境にもLUSHにも恩恵が生まれるシステムが構築された。

サシバ(イメージ写真)
サシバ(イメージ写真)
Education Images via Getty Images

このようなバイイングはイヌワシだけではない。他にもサシバという絶滅危惧種の渡り鳥を守るために、生息地である里山を再生する為、田んぼから米や米ぬかを購入し、製品に活かしている。

そしてこれらの取り組みは、鳥の生息地の再生だけでなく、原発事故の影響に苦しむ福島などでも行われている。その分野の専門家である地元の環境保護団体と組み、同社だけでなく周りを巻き込みながら「再生」を目指している。

イヌワシ保護の為に伐採され加工された木の木屑からできたギフトペーパーと、その土地の水が使われた化粧水"Breath of Fresh Air"(左のボトル2本)。サシバの保護の為に再生された田んぼからの米が使われたマスク"Don't Look At Me"(中央の青のペースト)と洗顔料"Herbalism"(右の緑の石鹸)
イヌワシ保護の為に伐採され加工された木の木屑からできたギフトペーパーと、その土地の水が使われた化粧水"Breath of Fresh Air"(左のボトル2本)。サシバの保護の為に再生された田んぼからの米が使われたマスク"Don't Look At Me"(中央の青のペースト)と洗顔料"Herbalism"(右の緑の石鹸)

今後も、特定のエリアや生物に限らず、地域地域にあった自然の再生方法を専門家と共に話し合いながら、その自然活用に取り組み、必要に応じて広げていく予定だという。

LUSHが花を売り始めた理由

最後に、今回ラッシュとして初のオーガニックフラワーの販売について聞いた。「創立者のマークは、花が大好きなんです。そして私たちの商品は、フレッシュでハンドメイド、そして限りなくオーガニックにこだわっています。フレッシュな花は、まさに1番シンプルに『フレッシュ』を象徴するもの...そこで販売に至りました」と黒澤さん。

LUSH新宿店の入り口で販売される野花やオーガニックフラワー
LUSH新宿店の入り口で販売される野花やオーガニックフラワー

また、この花にもこだわりがあるという。

「ここで販売する花は、オーガニックにこだわっています。オーガニックの花の生産は国内で約1%と言われていますが、彼らは人々の健康や社会へのインパクトなどを考え、その選択をしています。また、オーガニックフラワーに加え、再生に携わっている里山の野花も販売し、それらの花を花束にした『リジェネラティブ・ブーケ』も作っています。その花束を見て、日本の四季や、環境の事を思ってもらえたら嬉しいです」

オーガニックフラワーと野花をアレンジした「リジェネラティブ・ブーケ」
オーガニックフラワーと野花をアレンジした「リジェネラティブ・ブーケ」

原料をただ買うだけでなく、それによって自然やコミュニティの再生に貢献する。今や「持続可能」では間に合わなくなったという自然を、今日もLUSHは「リジェネレイト(再生)」している。

健康な地球で、みんなが平等に平和に生きる。

2030年に、それを実現するための目標がSDGs(持続可能な開発目標)です。
ハフポスト「はじめてのSDGs 」では、日本をはじめ世界中の問題や取り組みを紹介。

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