デフレ下でもマクロ経済スライドをやるべしという厚労省の審議会の案がまとまった。年金財政を考えれば、これはやらざるを得ない。しかし、昨日の自民党の社会保障に関する特命委員会は、意味不明の理由でこれをお蔵入りにしてしまった。

2004年に行われた年金改革は、年金保険料を一定のところで頭打ちにして、その代り、その保険料の範囲で支払える年金の額までじりじりと年金を下げていくという改革になっている。

この改革では国民の年金に対する不信を拭い去ることはできず、抜本改革が必要であるが、もし、この制度をしばらく続けるというならば(厚労省は、いや、政府はしばらく続けようとしているが)、きちんと2004年改正のメカニズムを発動させなければならない。

それがこの4月から始まるマクロ経済スライドである。

マクロ経済スライドに関しては

を参照のこと。

マクロ経済スライドの最大の問題は、デフレ下では発動しないことになっていて、ここしばらくデフレが続いたために年金の支給額の削減(厳密にはインフレ時の年金増額を抑える)ができず、実力以上を給付し続けたために、世代間格差が広がり、また、年金財政が悪化したことだ。

この4月にようやくマクロ経済スライドが発動されることを受けて、デフレ下でもマクロ経済スライドをやるべしという厚労省の審議会の案がまとまった。

年金財政を考えれば、これはやらざるを得ない。

しかし、昨日の自民党の社会保障に関する特命委員会は、意味不明の理由でこれをお蔵入りにしてしまった。

その代り、デフレ下でできなかった調整(年金の名目金額をマイナスにしない)は、翌年以降に持ち越すという折衷案を採用することになった。

厚労省は、デフレの年の翌年が、それなりのインフレになり2年分の調整率を差し引けるかのポンチ絵を出してきたが、そうなるとは限らない。

調整率が差し引かれず、どんどんと翌年送りになってしまう可能性も大いにある。

そうなれば、世代間格差はさらに広がり、年金財政も悪化し続ける。

マクロ経済スライドで年金の支給額が負担に見合うところまでの調整が、世代間格差の是正と年金の財政の維持のためには必要だということを、世の中にきちんと説明し続けるのが政治の仕事ではないか。

さらに中途半端にマクロ経済スライドを持ち越すと、消費税増税によって物価が上昇したときに、持ち越されていたスライド調整が一括して行われることになる。

増税と持ち越されたスライド調整がどんと同じときに来れば、それはかなり大きな負担だ。

消費税が上がり、物価が上がっても、賃金の上昇がそれ以下であれば裁定済みの年金の改定も賃金上昇率で行われる。

その場合は、持ち越されたスライド調整ができずに、さらにまた持越しされる可能性が大きくなる。その場合は格差も年金財政も悪化してしまう。

マクロ経済スライドを発動しても名目年金額が上がれば不満は出ないから、年金の名目金額を下げるなという意味不明の政治判断だけが、この中途半端な折衷案の根拠であり、この折衷案では世代閣格差の是正や年金財政の健全化にブレーキがかかる。

政治は逃げずに決断し、説明すべきだ。

マスコミも、マクロ経済スライドを入れるべきなのか、年金の名目金額を維持すべきなのか、立場をはっきりさせ、論陣を張るべきだ。

やるといえば年金が下がって痛いと言い、やらないといえば年金財政が悪化すると言い、蝙蝠みたいなことをやるから世の中が混乱する。

政治もマスコミも責任を果たすべきだ。

(2015年2月26日「河野太郎公式ブログ ごまめの歯ぎしり」より転載)

注目記事