無名の私が2年で雑誌の表紙に載ってわかったこと

やる気さえあれば誰でも何でもある程度まではできるのではないかと正直思います。

Facebookで回ってきた『僕がサンフランシスコで起業した理由』がバツグンに熱くて面白かったです。

Ramen Heroというデリバリーラーメンベンチャーをやっている彼がKiyoさんというメンターからもらっているアドバイスが実に本質的で琴線に触れる。 私は起業家ではないけれど、自分のビジネスを持ってから数年で気づいたことを少し違った角度からまとめておこうと思います。 これを読んだ誰かの背中を押せれば嬉しいです。

以前から書いていますが、私が「もはやMBAの世界ではない」と気づいたのがMBA真っ最中の2004年、ビジネス系からクリエイティブ系に転換したのが2011年、フリーランサーとして他事務所のために働く形態から自分のビジネスとしてプロジェクトを請け始めたのは2015年です。

デザイン事務所なのでポートフォリオのひとつとして改装した自宅が去年後半から英米メディアに出始めて今月(4月)には英雑誌2誌の表紙になりました(写真はうち一誌の表紙)。 その月刊誌の中で12ページと最も大きな誌面を割いて特集され、来月には業界では英最大購読者数を誇る雑誌が撮影・取材に来るらしいです。

Yoko Kloeden Design

さすがに問い合わせは本当に増えました。 1年前は閑古鳥が鳴いていたのが嘘のようで、生活の質(クオリティオブライフ)が高いからヨーロッパにやってきたのに毎晩夜中まで仕事をするワーカホリックになっています。 独立してからやった沢山の間違いや失敗についてはこちらにまとめているので、それ以外の気づきを書いておきます。

1. 短所は長所の裏返しである

デザインの学校に行き始めた頃、日本で著名な本の著者にお会いする機会がありました。 その本にはすごく影響を受けたのでロンドンに来られるということを聞きつけた時に無理を言ってお願いし時間をつくってもらいました(会う機会をつくってくれたTくんと会って頂いたUさんに感謝しています)。 その方にキャリアチェンジするのでデザイン学校に通っていることを話した時に、

デザインのバックグラウンドがあるの?

と聞かれました。 そして「ありません」と答えた私にその人は、

「はい、新しいことを学びましょう」と言って机に座って学習できるタイプなんだねえ。

と言うような趣旨のことを言われました。

普通のコメントなのですが私にはやけに印象に残りました。 そうだった、私は昔から学校の勉強が得意だった、参考書も問題集もあって教えられた通りに解ければ、覚えればいいだけなのだから。

公立中学・高校の勉強なんて教科書の内容を全部マスターすればできるし、体育も美術もあるレベルまでは要領よく器用にこなせました。

そしてそれは長い間、私のコンプレックスでした(人間は、本当にしょうもないことでコンプレックスを感じるものだ、という話はこちら)。 こういう表層的な優等生タイプはとりあえず要領よく何でもこなせるので、よっぽど本人に強い意志がなければ世間的に評価が高い方向へ流されてしまうのです。 そしてハーバード卒のトライリンガル24時間働きマンと最も競争率の激しい業界でガチンコ勝負になって初めて、それが自分が真に求めていたものでないことに気づくのです(という話はこちら)。

一方、世間がデザイナーに対して持つイメージは前も書きましたが、こういうフリーハンドスケッチを描けて、

Frank Gehry

こうなるまでビジュアライズして実現できる人でした。

Guggenheim Museum

自慢じゃありませんが、私は絵が描けません。 テクニカルな設計図は描けるのですが、フリーハンドの絵は描けない。 子ども時代のお絵描きと学校の授業以外で絵を描くことはほとんどなかったので当然と言えば当然です。 デザイナーというのは生まれ持った才能なしにはなれないという世間の、そして自分の思い込みが一番のハードルでした。

心の拠り所にしていたのは、村上隆さんなど才能に奢らず、ロジカルに戦略的に考え尽くした結果、世界的に活躍している人のストーリーでした。

今回、たくさんのメディアに取り上げてもらって一番よかったのは、私は長い間自分のことを「器用貧乏」だと思っていたけれど、素直に与えられたことを吸収できるというのは、それを裏返せば長所になるということがわかったことでした。

また、私のところに問い合わせてくるクライアントは「サービスやプロセスが明確で信頼できそう」、「限られた予算と時間の中で最大を尽くすことへのこだわりが誰よりもすごい」など狭義の意味での見た目のデザインとは関係ない点が決め手だったと言ってくれます。

以前、ロンドンからポルトガルのリスボンに移住して起業した友達が「お昼に2時間休憩する文化の中ではお昼にオープンしているだけで競争優位になる」と言っていましたが、同じこと。 デザインコンセプトとかインスピレーションとかふわふわした語りを得意とする人が多い業界では、(あくまでデザイナー基準で)「数字に強い」という以前いた投資業界ではみな当たり前にできることが長所になるのでした。

2. マニュアル人間万歳

大好きな渡辺千賀さんのブログに『マニュアル人間万歳』というのがあります。

最近、メディアへの露出がすごいねえ

と言われるのですが、私は上記の通り、ゴールへのやり方が示されていたらそのマニュアル通りにするのは大得意なのです。

あるジャーナリストが開催していた『プレスリリースの書き方』、『メディアでカバーされる方法』というワークショップに通ってその通りにしたら本当に次から次へとメディアにカバーされました(メディア露出はこちらに随時アップデートしています)。

これだけ全てのノウハウが公開されている世の中、やる気さえあれば誰でも何でもある程度まではできるのではないかと正直思います。

冒頭ブログ中のKiyoさんが言う通り、

起業家が事業を諦める瞬間は、金が無くなったときではなく心が折れたとき。

なので、心が折れないための何かを自分の内側に持つことの方が才能より大事なのだと思います。

3. やることが自分の価値観と合っていることが大事

冒頭ブログにもある通り、トレンド(時流)や「儲かるから」という始める事業は長続きしません。

私はPRのために雑誌の表紙に載ったりしていますが、できれば早くそういうのからは消えてしまいたいです。 今の仕事の中でデザインコンセプトを考えている時はもちろん楽しいですが、一番楽しいのは工事現場です。 ヘルメットをかぶって汚れてもいい格好をして工事現場でビルダーと話しながら、絵に描いたデザインが形になっていくのを見るのが一番楽しい。 仕事柄、ラグジュアリーメーカーの新作発表会など華やかな機会に呼ばれるのですが、着飾ってそういう場に出かけるのは全然好きではなく、同じダイヤやマーブル(大理石)ならば採石場を見たい、加工工程が見たい。

そして、もちろん嬉しそうなクライアントの顔を見た時は苦労が報われます。 今週はクライアントへの大事なプレゼンがあってクライアントがほぼ全てのデザインを気に入ってくれました。 その話を帰って夫にしていた時、

Your job makes people happy! キミの仕事は人を幸せにするんだね。

と言ってくれました。

そうだった、元々「空間は中にいる人の感情や生活の質に大きな影響を及ぼす」という実体験から経た信念で始めたのでした。 動機がトレンドなど自分の外側にあるのではなく自分の内側にあれば、どんなに心が折れそうなことがあって心の中の火が小さくなっても火種を絶やさずにまた立ち上がれるのではないかと思います。

雑誌の編集長という業界のプロに評価されたのはマイルストーンではありますが、上記の通り雑誌くらいは真面目に取り組めば掲載されるので、多くの人に知ってもらってこれからが本番です。 心の火を絶やさないように、毎日コツコツと続けるのみです。

P.S. 雑誌の表紙になっている自宅キッチンのデザインプロセスをあぶそるーとロンドンの連載で公開しています。

最近、ブログを書く時間はほとんど取れないのですが、個人FBページInstagram仕事FBページは比較的マメに更新しています。 Twitterも最近はつぶやいていませんが、ブログ更新通知はしています。

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