「結婚の平等は他人事じゃない」同僚の変化に、名古屋のカップルが4年の裁判で感じたこと

2019年に提訴してから4年。社会が変化していると感じている名古屋地裁の原告2人が、判決を前に思いを語りました。

法律上の性別が同じカップルが異性カップル同様に婚姻制度を使えないのは憲法に反するとして、30人以上の性的マイノリティ当事者が国を訴えている「結婚の自由をすべての人に」裁判。

全国6つの地裁・高裁で進む同訴訟の4つ目となる判決が、5月30日に名古屋地裁で言い渡される。

名古屋訴訟原告の大野利政さんと鷹見彰一さん(いずれも仮名)は2019年に提訴した時「同性婚はそんなにおかしなことでしょうか?」とハフポスト日本版の取材で問いかけた

それから4年の間に、日本ではパートナーシップ制度のカバー率が6割を超え、世界ではアジア初となる台湾を含め、結婚の平等を達成した国はさらに増えた。

判決を前に、ふたりは裁判や国に対してどんな思いを抱いているのか。5月16日に開かれた記者会見で気持ちを語った。

大野利政さんと鷹見彰一さん(2023年5月16日)
大野利政さんと鷹見彰一さん(2023年5月16日)
原告弁護団提供

公正証書を作っても消えない不安

鷹見さんと大野さんは提訴前の2019年に婚姻届を提出したが、受理されることはなかった。

法律婚が認められないふたりは、2017年に公正証書を作っている。少しでも結婚に近い形をとりたいという気持ちに加え、家の購入や病院でお互いを家族として扱ってもらえるようにするための「武器」としての公正証書だった。

実際、公正証書を提示することで、異性カップルと同じように、保険などのサービスをふたりで受けられるなどの利点もあった。

しかし、企業によっては公正証書があっても利用を断られたこともある上、家族として扱われないのではないか、という不安がなくなるわけでもない。

それを改めて突きつけられたのが、「結婚の自由をすべての人に」東京1次訴訟の原告・佐藤郁夫さんの死だ。佐藤さんが倒れて意識を失った時、パートナーは病院で家族として扱ってもらえなかった。

鷹見さんは「1分1秒を争うような時に、公正証書をわざわざ取りにいって『こういう関係なんです』と説明しなければいけない。その間に亡くなってしまうこともありえます」と不安を語った。

また、異性カップルと同じように働き、納税し、ふうふとして何も変わらない関係を築いているにも関わらず、公正証書を作っても法律上ふたりは他人同士だ。

配偶者控除の適用や、体調を崩した時にどちらかの扶養に入るといった、婚姻制度によって生じる選択肢はふたりにはない。

提訴から4年で起きた変化

大野さんと鷹見さんは、そういった不平等さや不安を裁判を通して訴えてきた。提訴した当初は、自分たちのために裁判をしているという感覚が強かったが、その気持ちは次第に変化したという。

鷹見さんは「回を重ねるごとに、自分たちだけではなく、今悩みを抱えているLGBTQ当事者の若者や、パートナーが息を引き取ってしまうような状況で不安を抱える年上の世代の人たちのための裁判でもあるという思いが強くなりました」と話す。

また、ふたりは自分たちだけではなく、社会や身近な人たちの変化も感じている。

裁判を続けてきた4年の間に、社会の中でLGBTQの人たちに対する理解が進み、公正証書がなくても同性カップルを家族として扱う企業が増えた。

選挙があれば、メディアが候補者に同性婚の賛否について尋ねるようになった。

裁判の傍聴に来た人の中には、結婚の平等を「自分ごと」と捉えるようになった人たちもいるという。

裁判では鷹見さんの叔母が証人尋問に答え「愛情を込めて育ててきた子どもが、男女のカップルと同じように結婚できていないというのは親として悲しいし、ショックで不安だ」と訴えた。

鷹見さんは後日、この尋問を聞いていた同僚から「これまでも(結婚の平等には)賛成派だったけれど、どこか第三者として捉えていた。だけど尋問を聞いて、今の日本の法律のままでは、自分の子どもが性的マイノリティだった時に差別されることになる、これは他人事じゃないと気づいた」と言われたという。

大野さん、鷹見さん提供写真
大野さん、鷹見さん提供写真
2017年12月に公正証書を結ぶ形で結婚した

念願だった里親に

また、この4年で起きた大きな変化の一つが、養育里親になったことだ。

裁判を始める前から里親になりたいと思っていた大野さんと鷹見さんは、2020年に養育里親に登録。

他の里親が休息を取る時などに、子どもを一時的に他の里親や施設に預かってもらう「レスパイトケア」などで子どもを受け入れている。

また、2022年11月には「子育てとLGBT」というテーマで、里親会で講師をする機会があり、この時にはたくさんの子どもや里親が参加した。

鷹見さんは、その時に参加した小学生の感想がすごく印象に残ったと振り返った。

「その子に『学校でもLGBTの授業があったけど、先生から聞くのと本人たちから聞くのと違うな。なんか感覚わかった気がする!』という感想をもらいました。提訴前には、当事者やその周りの近しい人に理解者はいても、全く知らない人でも理解してくれていると感じたことはなかったので、そこが大きく変わったことだったなと思います」

ただ、里親をする中でも、結婚が認められていないことによる障壁が立ちはだかっている。

法律婚していない大野さんと鷹見さんは、特別養子縁組を前提として子どもを預かる「養子縁組里親」になることはできない。

またふたりは家庭ではなく、それぞれ個人として養育里親に登録している。

現在、何らかの理由で親と暮らすことのできない子どもは4万人以上おり、温かい家庭環境を提供できる里親のなり手が求められている。

鷹見さんは「婚姻を認めてもらえることで、里親を必要としている子どもたちにも選択肢が広がるのに」と話す。

4年間で一番心に残っていること

2019年の提訴から、様々な変化があった4年間。その中でも一番鷹見さんの心に残っているのは、2021年の札幌地裁と2022年の大阪地裁判決だという。

「結婚の自由をすべてに訴訟」最初の判決となった札幌地裁は、同性同士の結婚が認められないのは「違憲」とする判決を言い渡した。

鷹見さんは、自分たちの居住地で訴訟を起こした愛知も含め、地方の裁判所で良い結果が出るのは難しいのではないかと思っていたという。そのため、札幌の判決は嬉しい驚きであり、社会の空気を変えるきっかけになったかもしれないと思っている。

一方で、大阪地裁は一転して「合憲」を言い渡した。

鷹見さんはこの判決を聞いて「国が動いてくれないから司法に任せたのに、結局国に味方するのか」「自分たちは存在しちゃいけないのだろうか」「生まれる国を間違えたのかな」と、裁判をやめたくなるほどの苦痛を感じたという。

大野さんが一番印象に残っているのは「国の対応の酷さ」だ。

大野さんたちは裁判を通して、婚姻制度から除外されているつらさや不安を伝え、「憲法では平等が保障されているのに、私たちが置かれている状況は平等といえるのか」と訴えてきた。

それにも関わらず、国は「憲法は同性婚を想定していない」「結婚は子を産み育てるための制度なので同性カップルには保障しなくてもよい」という主張を繰り返してきた。

大野さんは「国というのは、人権をこんなに意識しないものなのか。人権を大事にすると言っているのはポーズに過ぎないのかと感じた」と話す。

そんな国の人権問題を、2人はいまも問い続けている。

鷹見さん「同性同士の結婚を認めるのにあたり、多くの費用が発生したり、システムを大きく変えたりする必要はありません。消費税などは反対派が多くいてもすぐに上げるのに、この人権問題は少数派だからということで放置されている。それはとてもおかしいことだと思うので、立法府として少しでも早く結婚の平等実現のための行動をしてほしい」

大野さん「私たちは、労力を割いて裁判をしています。ただ同じ主張を繰り返すのではなく、よくこの問題を調べ真摯に対応してほしい。人権問題に丁寧に対応しますというなら、まず行動で示せと強く思っています」

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