「当たり前にあるものが僕たちにはない」同性婚裁判、原告が語った悲しみと悔しさ【第7回審理】

「男女のカップルであれば当たり前にあるものが、なぜ僕たちには与えられないのでしょうか?平等の権利を得たからといって、他の誰かを傷つけることも、誰かの権利を奪うこともないのに」
1月に亡くなった佐藤郁夫さんの遺影とともに入廷する原告ら=2021年6月30日撮影
1月に亡くなった佐藤郁夫さんの遺影とともに入廷する原告ら=2021年6月30日撮影
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

国に対し、法律上の性別が同じふたりの結婚を認めるよう求める裁判の7回目の審理が6月30日、東京地裁で開かれた(池原桃子裁判長)。

この裁判は「結婚の自由をすべての人に」訴訟として知られ、全国5つの地裁と高裁で進んでいる。

3月には札幌地裁で「同性カップルに結婚を認めない現在の法律は憲法14条1項に反する」という判決が言い渡されて注目を集めた。

その判決から東京地裁の審理としては初となったこの日、原告の小野春さんとただしさんが意見陳述に立ち、家族として扱われないことで同性カップルが直面している苦しみを語った。

ただしさん「なぜ僕たちには結婚の権利が与えられないのか」

ただしさんは佐藤郁夫さんの遺影とともに意見陳述をした
ただしさんは佐藤郁夫さんの遺影とともに意見陳述をした
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

東京訴訟では2021年1月、原告のひとり佐藤郁夫さんが亡くなった。

ただしさんはこの日、佐藤さんの遺影を証言台に置いて陳述。昨夜寝る前に、佐藤さんの笑顔が浮かび、「きっと佐藤さんが一緒にいるんだ」と思い写真を持ってくることを決めたという。

佐藤さんが脳出血で倒れて病院に搬送された時、佐藤さんの長年のパートナーだったよしさんは、搬送先の病院で家族として扱われなかった

ただしさんは「その扱いが、どれだけよしさんの心を傷つけ、尊厳を踏みにじったことだろう」と悲しみと悔しさを語った。

ただしさんも、9年前に出会ったパートナーのかつさんと暮らしている。

朝起きて家事を分担し、パートナーの帰りを待つ日常は男女カップルと何も変わらない。しかし結婚して法的な家族になれないことで、病院で家族として扱われないなど、様々な不安を感じている。

「男女のカップルであれば当たり前にあるものが、なぜ僕たちには与えられないのでしょうか?平等の権利を得たからといって、他の誰かを傷つけることも、誰かの権利を奪うこともないのにです」と述べ、同性カップルにも異性カップルと同じように、結婚の権利を認めるよう訴えた。

小野春さん「尊厳を傷つけられてきた」

原告の小野春さん
原告の小野春さん
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

小野春さんも結婚が認められないことで何度も困難に直面し、尊厳を傷つけられてきた。

小野春さんとパートナーの西川さんは16年間、ともに3人の子どもの子育てをしてきた。

PTAやサッカーチームにも参加してきたが、子どもの通う学校では自分たちが同性カップルであることをカミングアウトできず、「子どもたちが周りに家族の話ができなかったことに胸が痛む」と語った。

また、子どもの一人が急遽入院しなければならなくなった時には、法的な家族関係のない西川さんは入院手続きをさせてもらえず、「離婚しているお父さんでもいいので、血縁の親を呼んできてください」と言われたこともある。

この時小野さんは、「私たちの関係を証明できるものは何もない」と痛感したという。

陳述の最後に「うちの子どもたちのような思いを、これから生まれる子どもたちにはさせたくない」と述べ、同性婚の実現を訴えた。

国の主張に反論

弁護団の松田亘平弁護士(左)と寺原真希子弁護士
弁護団の松田亘平弁護士(左)と寺原真希子弁護士
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

同性カップルに結婚を認めないの理由の一つとして、国側は「結婚は子どもを産み育てる夫婦に、法的保護を与える制度だから」という主張をしている。

しかし異性カップルの中にも、様々な理由から子どもをもうけられないケースもあれば、養子など自然生殖によらない形で子どもを育てる場合もある。

また同性カップルの中にも小野さんや西川さんたちのように、子どもを育てている人たちもいる。

弁護団の寺原真希子弁護士は「結婚は子どもを産み育てるためのもの」という国側の主張を「同性カップルを切り捨てるだけでなく、ふたりの間の子どもを産み育てていない異性カップルをも切り捨てる」ものだと批判。

「社会の実態とも、国民の意識とも乖離している」と指摘した。

さらに国側は、「婚姻は両性の合意のみに基いて成立し」と定めた憲法24条1項の「両性」が「男女」という意味のため、同性婚は認められないと主張している。

これに対して松田亘平弁護士は「性が多様であることや、性のあり方で差別することは許されないという認識が21世紀から形成されてきた。それを考えれば、『両性』は『男女』ではなく『婚姻の当事者』という意味に解釈するべきだ」と反論した。

次は本人尋問で訴える

閉廷後、取材に応じた原告ら
閉廷後、取材に応じた原告ら
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

今回で7回目となった東京訴訟は、大詰めを迎えつつある。

同訴訟でこれまで争点の一つとなってきたのは、「本人尋問」をするかどうかだ。

本人尋問では、裁判官や弁護士が原告に直接質問する。裁判官の判断に大きな影響を与えることもあり、実際に本人尋問が行われた札幌地裁では、裁判官が原告に「性的指向は変えられるのか」という重要な質問をした。

東京訴訟では、裁判所側が消極的な姿勢を示してきたが、原告らが本人尋問を求める1万8000筆以上の署名を集め、2月に裁判所に提出

その後裁判長が変わったことなどもあり、10月に本人尋問が行われることが決まった。

小野さんは本人尋問について「2019年2月14日に提訴して山場がここなんだなと思って、身が引き締まるような気持ちでいっぱいです。私たちは特別なものじゃなくてごく当たり前のものを求めているだけだと思う。平等に婚姻ができるよう求めていきたい」と述べた。

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