駆け落ち?誘拐?インドネシア・ロンボク島特有の伝統的結婚スタイルを追う!

インドネシア・ロンボク島の人々の結婚にまつわる、とっても興味深い文化のお話です。
参列した結婚式で、新郎新婦と
参列した結婚式で、新郎新婦と
岸野彩花

こんにちは、岸野彩花です。

今回は、いまだかつてないセンセーショナルなタイトルですね。

駆け落ち、誘拐、どういうこと!? とお感じのことと思いますが、落ち着いてください。物騒な話ではありません。

インドネシア・ロンボク島の人々の結婚にまつわる、とっても興味深い文化のお話です。

「彼氏いないの?じゃあロンボク人にさらわれたい?」

岸野彩花

海外に暮らす日本人女性あるあるかもしれませんが、ロンボク島で生活していると初対面の人からも「彼氏いるの?結婚してる?」とほぼ100%の確率で聞かれます。そこで、「いないよ~」と答えようものなら、「え! ここの人と結婚したい?」と真剣な顔で聞かれます(笑)。

この一連の流れには私も慣れていたのですが、ロンボクに来て驚いたのは、頻繁に「じゃあ、ぬすまれたい?」と聞かれることです。最初は、「何事か! 結婚適齢期の未婚女性はさらわれるのか」と怯えましたが、どうもそうではないようで......。なんと、「女性をさらって結婚する」というのはロンボク島土着「ササッ人」の伝統スタイルのようなのです。

まだその全貌は掴みきれていませんが、親しいササッ人の方々から聞いたお話と、実際に地元の結婚の儀式に参加した実感に基づいて、この伝統的な結婚スタイルをご紹介します。

花嫁をさらえ!

結婚行列「ニョンコラン」のため、新婦の家の付近まで移動。トラックの荷台に少年たちが乗っています
結婚行列「ニョンコラン」のため、新婦の家の付近まで移動。トラックの荷台に少年たちが乗っています
岸野彩花

誤解のないように述べておくと、もちろんすべてのロンボク人がさらわれて結婚するわけではありませんし、知らない人に無理やり誘拐されるわけでもありません。男性は、女性側の家族に結婚を反対された時、女性をさらいます。

ササッ人は、そのほとんどがイスラム教徒なのですが、一部の家族にだけ特別な名前(LaluやBaiqなど)が与えられていて、その家庭に生まれた人は同じようにその特別な名前をもつ相手でなければ家族から結婚を認めてもらえないことがあるそうです。このように結婚を認めてもらえない時、男性は女性の同意を得て彼女を家からさらいます。

この「家から」というのがポイントだそうで。ロンボク伝統の駆け落ち婚には、形式化された決まり事が多くあり、それらに則ることで結婚が正式に認められるそうです。

まず、トレンディードラマの駆け落ちのように駅で待ち合わせてはいけません。約束の時間を予め決めておき、家族が寝静まった夜に、男性は女性の家まで来て女性を連れ出します。そして、自宅あるいは親族の家まで連れて行き、数日間かくまいます。その後、女性の親に娘を結婚のためにさらった旨を伝え、結婚式の日程など諸々の相談をするそうです。

結婚式当日、新郎新婦は正装をして新郎の家から新婦の家まで練り歩きます。新郎の親族が総出で伝統衣装を身にまとって歩く行列は「ニョンコラン」と呼ばれ、ロンボク伝統の音楽を演奏する楽団や踊り子も交えて大名行列のような華やかさです(大名行列は見たことがありませんが)。女性はこのニョンコランの日、初めて実家に帰ることができます。

「格式高い」駆け落ち婚

この楽団はgendang beleと呼ばれ、ロンボク伝統音楽を演奏する。高校にも必ずこの部活があります
この楽団はgendang beleと呼ばれ、ロンボク伝統音楽を演奏する。高校にも必ずこの部活があります
岸野彩花

実は、このような形式化された段取りを経て結婚する人の中には、両家が結婚に賛成している場合もあります。では、どうしてわざわざこんな面倒くさ......間違えました、時間もお金もかかる方法で結婚するのでしょうか。

話をいろいろ聞いてみると、どうやら「女性の両親に結婚を申し込むよりも、女性を連れ去るほうが潔い」という考え方をもつ人もいる、ということが分かってきました。

ぬすむほうが正々堂々としている、なんて一見矛盾した話ですね。でも、この分からなさが異文化の興味深いところだと思います。

時間もお金もかかるからこそ、愛の深さを形で示すことができるということなのでしょうか。先述した特別な苗字をもつ家柄の人々は、このスタイルで結婚することが多いそうです。

伝統的スタイルも多様化

友人の結婚式参列の折、私も現地スタイルのお化粧をしてもらいました
友人の結婚式参列の折、私も現地スタイルのお化粧をしてもらいました
岸野彩花

もちろん、日本でもインドネシアでも、結婚の状況やスタイルは人それぞれ、千差万別です。

私の派遣先の高校でお世話になっている先生は、特別な苗字をもたない男性との結婚を反対されたため、誘拐される形で結婚することにしましたが、ニョンコランはしなかったそうです。

また、私が参加した西ロンボクでの結婚式では、実際には両家の親族はすでに顔を合わせているけれども、新郎の家で行われた結婚式には新婦の両親は参加せず、ロンボク中部にある新婦の実家までニョンコランで行った後に、改めて顔合わせの儀式が行われました。この時、新郎の家から新婦の家までは到底練り歩ける距離ではなかったので、数百人の参列者がバスやトラックに分乗して新婦の家の近くまで移動しました(笑)。

駆け落ち婚本来の意味や段取りは少しずつ変化してきているのかも知れません。それでも、この形式での結婚がいまだに行われているというのは、ロンボク固有の文化を大切にしようという意識があってのことなのではないでしょうか。

おわりに

伝統文化が色濃く残る南ロンボクは、数々の絶景で観光客を魅了するリゾート地でもあります
伝統文化が色濃く残る南ロンボクは、数々の絶景で観光客を魅了するリゾート地でもあります
岸野彩花

今回は、「誘拐婚」「駆け落ち婚」などと呼んでも、完全にはしっくりこないロンボク島特有の結婚スタイルをご紹介しました。

伝統的な結婚パレードであるニョンコランは、土曜日や日曜日に行われることが多く、ロンボク島の南のリゾート地クタの付近では結構な確率で遭遇します(※岸野調べ)。ロンボク島の地方で車が渋滞していたら、「なんだよ......!」と迂回せずに、少し待ってみてください。美しい伝統衣装で練り歩く花嫁と、独特な楽器を楽しそうに演奏する少年たちを見ることができるかもしれません。

あぁ、私もさらわれたい......!

Ambassadorのプロフィール

岸野彩花

岸野彩花

宮城県出身。東京外国語大学インドネシア語専攻。東南アジアの活気と多様性、とにかくおいしい食べ物に魅了され、東南アジアに渡る度に一回り大きくなって帰国する。弱い立場におかれやすい子どもへの支援に関心をもち、府中市やインドネシアでボランティア活動に携わる。

伝統文化が色濃く残る南ロンボクは、数々の絶景で観光客を魅了するリゾート地でもあります

今回は、「誘拐婚」「駆け落ち婚」などと呼んでも、完全にはしっくりこないロンボク島特有の結婚スタイルをご紹介しました。

伝統的な結婚パレードであるニョンコランは、土曜日や日曜日に行われることが多く、ロンボク島の南のリゾート地クタの付近では結構な確率で遭遇します(※岸野調べ)。ロンボク島の地方で車が渋滞していたら、「なんだよ......!」と迂回せずに、少し待ってみてください。美しい伝統衣装で練り歩く花嫁と、独特な楽器を楽しそうに演奏する少年たちを見ることができるかもしれません。

あぁ、私もさらわれたい......!

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