夫も実家も頼れない。ワンオペ育児だからこそ「みんな」で子育てできました。

夫が海外赴任、実家は遠方。池原真佐子さんの #家族のかたち

「人に頼ることは負けだと思っていた。でも素直に『助けてください』と言えるようになったらすごく楽になった」

育キャリカレッジ」を運営するMANABICIA代表の池原真佐子さんは、産前産後の自身の変化をそう振り返る。

MANABICIA代表の池原真佐子さん
Kaori Sasagawa
MANABICIA代表の池原真佐子さん

子育て世帯のうち共働き世帯は6割を超えているが、仕事と育児をほぼひとりで担わざるを得ないワンオペ育児状態のママは少なくない。

臨月のときに夫が海外赴任し、実家は遠方でワンオペ育児を経験した池原さん。各種サービスをフル活用しつつ、「みんな」の力を借りて仕事と子育てと向き合ってきた生き方は、子育て中の人の参考になるアイデアがたくさん詰まっていた。

ワンオペだからこそ「みんな」で子どもを育てよう

――パートナーは海外赴任、実家は遠方。臨月から息子さんが2歳5カ月になるまで、ほぼひとりで育児を担ってきたそうですが、効率化にはどんな工夫を?

ご近所のシルバー人材センターの方に週何回か、ローテーションで家事のお手伝いに来てもらっています。お二人の方に固定でお願いしているのですが、どちらも子育て経験がとても豊富で頼りになるんですね。家事をやっていただくだけではなく、育児の相談や子どもとの関わり方のアドバイスをもらっています。

義父から「たくさんの人の手を通ってきた子は、優しくなる」と言われたことがあって。そういうふうに実家で親と同居していなくても、「みんなで育てる」ことはできるのかなと感じています。

人の手だけじゃなくて、たとえば「honestbee」(オネストビー)という買い物代行コンシェルジュも利用しています。自宅近くのスーパーで買い物をしてくれる代行サービスのアプリなんですが、すごく便利ですよ。多忙なワーママにおすすめです。

臨月から出産日まで女友達と同居

雨の朝 . #rainyday #rain #子育て #育児 #2歳1ヶ月 #男の子

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――昔から人に頼ったりすることは得意でしたか。

いえ、むしろ逆でずっと苦手でしたね。頼ることは負けであって、自分の弱さを人にさらけ出したら「あの人はできない」って思われるんじゃないか、という恐怖心がずっとありました。

妊娠も最初のうちは人に隠していたんです。起業してすぐの時期だったし、マイナスに思われるんじゃないかという気持ちがあって。女性にとって出産することはキャリアのハンデになるだろう、って。

でも、ある人に「『できなくなる』って言わないと、余計につらくなるよ」と言われて、妊娠8カ月を過ぎて初めて妊娠していることをオープンにしたんです。そこからすごく楽になった。「これができないから助けてください」と人生で初めて言えるようになったんですね。

「助けてください」と言えるようになったおかげで、夫が海外に行ってしまった後も、友人を家に呼び寄せて2カ月間ほど一緒に住んでいました。

――妊娠中にご友人と同居していた?

はい。当時、神戸に住んでいた大学時代から仲良しの先輩がいるんですが、彼女が都内の専門学校に通いたいと言っていたのを思い出して、「うちに住んで通えばいいじゃないですか?」って誘ったら「行く!ラッキー!」って。

私自身、やっぱり妊娠中は夜ひとりだと心細かったので、誰かに家にいてほしかったんです。妊娠後期から出産日までの2カ月ほど一緒に暮らしました。破水したときも彼女とふたりで病院に行きました。

産むその日まで彼女が一緒にいてくれたおかげで、すごく助けられましたね。誰かがそばにいてくれる安心感って大きい。そんな感じで、「とにかくたくさんの人を巻き込もう」ということは意識していました。産後しばらくも、未婚の友人にお願いして手伝ってもらう場面が多かったです。

――意外です。同じような境遇のママ友のほうが頼りやすい気がしますが。

私の場合は、違う立場の人のほうがお願いしやすいですね。以前に住んでいたマンションでは、隣りの部屋のおばあちゃんに、実家から送られてきたブドウとかをよくおすそ分けしてたんです。そういう間柄だったので、産後も「一人なので、何かあったときは頼らせてください」ってお願いしていましたね。

その後に引っ越したマンションはファミリーばかりで、逆に頼めなかったんです。皆さん、自分の子どもの面倒をまず見なきゃいけないから。ママ友同士ってできること、できないことが似てくるんですね。

お願いするときは「断る権利」もセットで

――とはいえ、ヘルプをお願いすることは相手の時間を奪うことになります。押し付けにならないように気をつけていた部分はありますか。

友人やご近所さんに「助けてください」とお願いするときは、「でも無理だったら遠慮なく断ってくださいね」と言い添えるようにしています。お願いはするけれど、相手が断る権利も必ずセットにする。断りやすい頼み方も意識していました。

日本人ってつい「いいよ、いいよ」って無理して言っちゃいがちじゃないですか。そうじゃないときでも。だから、今回私からお願いさせてもらうけど、あなたには断る権利がもちろんあるから、その上で選んでね、ということを伝えないと、相手を困らせてしまうなと思っています。

「断る権利」をセットでお願いすると、相手も無理なときは断りやすいし、私も「そうか、都合悪かったのね」とフラットに受け止められるんですよ。

たとえば、妊娠中に同居していた友人はその後、近所に引っ越してきたんですけど、産後に私がぎっくり腰になったとき、「助けてもらえませんか。でも難しかったら、遠慮なく断ってもらえると私も気持ちが楽です!」と連絡したら、「ごめんね! 申し訳ないけど今日は無理」と返事があって、私も「わかりました!」で済むんですね。

私も一断られても落ち込んだりしなくて済む。じゃあ次の機会にまた頼もう、と思えるようになるので、すごく楽です。

――最初から「無理だろう」と決めつけず、まずは誰かに声をかけてみる。

関係性を築いておくと、逆に相手側からも私に対して別のことをお願いしやすくなる気がしますね。遠慮しあうと頼みづらくなるし、頼みづらいと関係の持続性がなくなりますよね。

手伝ってもらえたときには、相手が負担にならないように、でも何かしらお返しをあげられるように心がけています。「ワインもらったんだけど授乳中で飲めないからいらない?」とか、「(九州の)実家からどっさり送られてきた"うまかっちゃん"あげるよ」とか(笑)。

人の縁って、やっぱり財産だと思うんです。だからこそ、いただいたご縁を豊かにしていくことは常に心がけています。「利用しよう」という気持ちじゃなくて、素直に「助けてください」と言い合える関係性を築いていきたい。都市部に暮らしている人ほど、そういったご縁を意識して作っていくほうがより楽しく生きていけるのかなと思います。

※続編は近日中に掲載予定です。

(取材・文:阿部花恵、編集・撮影:笹川かおり)