口元が見えるマスクに称賛の声 口の動きや表情が重要な手話通訳に新兵器

透明マスクを着けた通訳者が登場した会見の映像を見た聴覚障がい者からは「着けてくれてありがとう」などと予想以上の反応があったという。
左から江原こう平さん、酒井智子さん
左から江原こう平さん、酒井智子さん
福祉新聞

猛威を振るう新型コロナウイルスに対抗するかのように、鼻と口を透明なシートで覆うマスクが登場した。手話通訳士の江原こう平さん(44)が4月15日、小池百合子東京都知事の記者会見で透明マスクを着けて通訳をしたところ、称賛の声が続出。従来、マスクを着けた手話通訳士を見かけることはあまりなかったが、今後、透明マスクが普及する可能性が出てきた。

「透明マスクを着けると曇るし圧迫感もある」と話す江原さんは東京手話通訳等派遣センターの職員で、手話通訳の経験は豊富。着け心地は良くはないと感じたが、会見の映像を見た聴覚障害者からは「違和感はない」「着けてくれてありがとう」と予想以上の反応があったという。

手話は手だけでなく口の動きや表情でも相手に伝えるが、一般的なマスクを着けると相手からは見えない。

江原さんによると、手話通訳士が聴覚障害のある依頼主の受診に同伴する場面で病院側からマスク着用を求められても、これまでは依頼主に口が見えるようマスクをアゴまで下げることが多かった。

「最近は依頼主から『マスクを下げないで』と言われる。記者会見でマスクを着けずに通訳する私たちの姿を見た人から『なぜ?』と指摘されることも増えた」と江原さん。

無症状者でも保菌の可能性があると指摘される中、飛沫感染への危機感が広がっていると感じていた矢先に知人から透明マスクを譲り受け、小池知事の会見で初めて使った。

感染を防ぐことと、口を見せることを両立させる透明マスクだが、江原さんによると、10年前に新型インフルエンザが流行して企業が生産したものの、普及には至らず現在は市販されていない。

それでも今般の感染拡大を受けて需要が膨らんでいるため、手作り品が登場した。

兵庫県伊丹市は10日、「手作り透明マスクができた」と記者発表した。市内の手話通訳士が同市に持ち込んだ試作品を、地元の聴覚障害者協会有志が改良したという。

特徴は、口元を見えやすくするためビニールにくもり止めをしたほか、息苦しさを軽減するため立体的にしたこと。手作りのため大量生産はできないが、「譲ってほしい」といった問い合わせが全国から殺到した。

同市障害福祉課職員で手話通訳士の酒井智子さん(47)は「近いうちに作り方を動画に収め、誰でも閲覧できるようにしたい。これを機に手話という言語や手話通訳士のことを多くの人に知ってほしい」と話している。

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