サイボウズ式:男は、家事もできる動物である

テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる、「techな人が家事、子育てをすると」というテーマのエッセイです。

【サイボウズ式より】

テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる、「techな人が家事、子育てをすると」というテーマのエッセイです。

文・写真:小寺 信良

妻と上の娘との別居が始まって、およそ2年が過ぎようとしている。すでにそれ以前から、妻から自分へグラデーション的に家事の移行が始まっていたのだが、本格的かつ全面的に、家事全般と当時小学2年生の娘の育児を、仕事をしながら一人でやることになったわけである。

おそらく、できるだろうという見込みはあった。僕のようなモノカキ業は、たまには取材や講演で出かけることもあるが、大半は家で原稿を書いている。しかも、家ではパソコンにかじりつきで仕事しているわけでもない。そんなに長時間集中力が持続するわけはないので、一段落したところで掃除したりお茶を飲んだり昼寝したりそのへんをわけもなく走り回ったりしている。そういう時間を有効に使えば、現在の仕事のペースを落とすことなくやっていけるはずだ。

ただ、僕だってヒマなわけではない。なにせ僕が月間に執筆する原稿は、15本にも上る(さらにこの連載が月に2本始まるので、現在は月間17本になった)。加えてインターネットユーザー協会 (MIAU)の代表理事としての活動もしなければならないし、地元の自治会や子ども会の手伝いもある。

これをこなしながらということは、家事全般を大幅に最適化・省力化する必要がある。そして実際、この環境でまもなく2年が経過するが、特に支障なく回していけるようになっている。もしかしたら娘のメンタル面では、母親がいないことの影響はあるかもしれないが、それはもう仕方がないこととして、父子で受け入れるほかない。その代わり、家庭に女手がないことの物理的デメリットは感じさせないよう、注意してきたつもりである。

働きながら家事をやるとは、実際どういうことなのか。これはほとんどの人について回る問題ではないだろうか。最近は、男性も積極的に家事や育児に参加する人も増えている。その背景には、妻を専業主婦として抱えられるほど、安定した右肩上がりの収入が得られる時代でもなくなったということもある。

妻が外で仕事を持つのは当たり前の時代、従来女性の労働力に依存してきた家事全般を、いい歳したおっさんの視点で最適化するとどうなるのか。本連載は、そのような研究と実証の過程を報告するものである。もちろん、皆さんからのアイデアやアドバイスも積極的に取り入れて、ご紹介していきたいと思っている。

スタートライン

元々家事というタスクに、完了はない。起きて活動している限り、あるいは生きてる限り永遠に完成しないのである。だからそもそも、これは仕事ではない。もちろんお金持ちのお屋敷にはメイドさんやお手伝いさんがいて、実際にお給料を払って家事全般を賄ってもらうケースもあるだろうが、その水準で家事を賃金換算するのは愚行だ。本当に賃金に置き換えてしまえば、一般家庭の収支など簡単に破綻する。

同時に、どこまでやれば完璧という線もない。各家庭それぞれのレベルで、下は「破綻」の、上は「理想」のスレッショルドがあるだけで、その間に「普通」のエリアがある。普通のエリアには相当な幅があり、いかにそこを維持していくかが問題だ。

そもそも家事には、日常的なタスクと、定期的なタスクの2種類がある。料理、洗濯、掃除の類は日常的なもの、衣替えやふとん干し、シーツ交換といったものは定期的タスクだ。まず当面の問題は、日常的なタスクを毎日遅滞なくこなす工夫が必要になる。

このサイトをご覧の理系あるいは技術系の方からすれば意外かもしれないが、まず男が家事をやる際に必要なのは、メンタル面の強化としての自己暗示である。自分は料理が大好きだ、前々から掃除には興味があった、洗濯をもっと科学していきたい、そういう風に考え、それを信じることが重要である。なぜならば、辛い、なんでオレがこんなことを、などと思い始めたら、全く前に進めなくなってしまうからである。

僕は独身時代にはそこそこ自炊もしたが、結婚してからほとんど料理には無縁であった。昼に誰もいないなら仕方なくラーメンを茹でる程度である。だからまず最初に必要だったのは、「オレお料理大好き!」と自己暗示をかけることであった。

スポーツでもなんでも、科学的にはメンタル面での強さが身体能力に大きな影響を与えていることはすでに証明されている。心が強くなってこそ、初めて男が家事をこなすというスタートラインに立てるのだ。(了)

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(サイボウズ式 2013年10月10日の掲載記事「男は、家事もできる動物である──コデラ総研 家庭部(1)」より転載しました)