24時間営業やめた大阪のセブンイレブン、メディアに取り上げられるまでに本部と何があったのか?

セブン―イレブン東大阪南上小阪店のオーナー、松本実敏さんは人手不足を理由に営業時間の短縮に踏み切った。時短を本部に掛け合い、メディアに取り上げられるまでのてんまつを語った。
営業時間の短縮に踏み切ったセブン―イレブン東大阪南上小阪店のオーナー、松本実敏さん=大阪府東大阪市
営業時間の短縮に踏み切ったセブン―イレブン東大阪南上小阪店のオーナー、松本実敏さん=大阪府東大阪市
Kazuhiro Sekine

コンビニエンスストア最大手のセブン―イレブンに、たった1人で「反旗」を翻したオーナーがいる。大阪府東大阪市の松本実敏さん(57)。

人手不足で過酷な勤務状態が続いたため、24時間営業をあきらめて「時短」へと踏み切った。

これに対し、本部側は猛反対、問題は解決されていない。

「私たちは命を脅かされている」。怒りの声を上げる松本さんのもとに、各地のコンビニ経営者から賛同の声が続々と寄せられている。

24時間営業「もう無理や」

近畿大(東大阪市)がある住宅密集地。幹線道路を出入りする車が行き交う狭い道路沿いに、松本さんがオーナーを務める「セブン―イレブン東大阪南上小阪店」がある。

「しばらくの間、営業時間を6時から25時までに短縮させていただきます」

そんな文言が書かれた紙が、店の入り口にはられている。

「お客さんは最初こそ『え、何?夜閉まるの?』って言ってましたけど、今は文句を言われることもないですよ。そんな人はもう来なくなっていると思いますし」

松本さんは淡々と話す。

松本さんが24時間営業をやめ、19時間営業(午前6時~翌日の午前1時)に変えたのは2019年2月のこと。原因は人手不足だった。

収入の安定を求め、家業の工務店をたたんで妻とコンビニ経営に乗り出したのは2012年。懸命に働き、オープン時に本部から借り入れた資金も4年で返済した。

だが、2018年にアルバイトの「主力」だった大学生5人が就職のため同時にやめた。その直後、妻もがんで亡くなった。

残されたアルバイトたちは仕事がうまくできず、厳しく指導すると相次いでやめた。昼間にパートタイムで入っていた人たちも時給が上がらないことを理由に次々と店を去った。

「もう回らん。これは無理や」

そう思って本部に営業時間の短縮を相談したが、担当者からは「ダメです。24時間営業がブランドです」の一点張りだった。

営業時間の短縮を知らせる張り紙
営業時間の短縮を知らせる張り紙
Kazuhiro Sekine

寝不足と過労で疲れ果て、精神的にも追い詰められた。神奈川県で一人暮らしをしていた大学生の長男に急きょ戻ってもらった。店の手伝いを頼みつつも、こう打ち明けた。

「夜の営業をやめるしかない。でも店取られるかも」

長男は冷静だった。「父さん、正しいことするんやろ」

「自分が正しければ世の中に広がるだろうし、間違っていれば自分がつぶされるだけ。でも、自分と同じ思いをしている人は必ずいる」

そう確信した松本さんは24時間営業をやめることを決めた。

時短営業に踏み切った当日。本部の担当者が早速店にやってきた。

「あなた、本当に閉めましたね。契約違反になります」。そう言って担当者は「通知書」を松本さんに手渡した。

そこには、24時間営業に戻さなければ契約解除になること、10日以内に返事をすることなどが書かれていた。

1週間後。松本さんは大阪にある店舗を担当する本部側の拠点を訪れた。

「助けてもらえるなら、24時間やります」

松本さんはすがったが、担当者からは「助けることはできません。7日続けて店を閉めたので、契約解除です。違約金1700万円かかります」と突き放された。

だが、メディアが事態を報じると本部側は態度を一変させた。

西日本を統括するという担当者が松本さんを訪問し、「本部から助けを出すので24時間営業に戻してください。違約金も請求しません。時短にしたことによる契約解除もありません」と述べた。

手のひらを返すような本部に不信感を抱いた松本さんは「どのくらいの期間ヘルプしてくれるんですか。うちよりももっとひどい店がある。そこもヘルプしてくれるんですか」と問いただした。

するとその担当者は「ヘルプは1回だけです。1週間のうちに働ける人を探してください。ヘルプを出すのは松本さんのところだけです」と話した。

「それなら24時間はできません」

松本さんはきっぱりと断った。

レジ打ちする松本さん
レジ打ちする松本さん
Kazuhiro Sekine

賛同の手紙や電話が続々

3月に入り、本部は一部の直営店で時短の実験を始めると発表した。

4月中旬には松本さんも実験に参加するよう提案されたが、メディアへの公開を拒否されたため、信用できずに断った。

その後、本部側から目立った動きがない一方、松本さんのもとには全国各地のコンビニのオーナーたちから励ましと賛同の手紙や電話が相次いでいる。

オーナーが1日に20時間以上働いていたり、オーナーの夫が働いている最中に亡くなったりしたケースなどが報告された。

「やってよかった」。松本さんはそう思った。

松本さんは言う。

「コンビニは社会にとって必要やと思います。しかし、誰かの犠牲のもとに一部の人が大もうけするシステムではあかんと思います。金をもっとくれとか言ってるんではないんです。死人が出るほどまでになっている、今の24時間営業のやり方ではあかんと思いますし、このままだと今後も命が脅かされる人がいっぱい出るでしょう」

松本さんが各地のコンビニ店主から受け取った激励や賛同の手紙
松本さんが各地のコンビニ店主から受け取った激励や賛同の手紙
Kazuhiro Sekine

「命の問題」

松本さんとの主なやりとりは次の通り。

━━ 一オーナーにとって、セブン―イレブンの本部は巨大な組織。なぜ1人で立ち向かおうと思ったのですか。

命に関わる問題だからですよ。24時間営業を現場に強いる今のセブン―イレブン本部のやり方によって、命が脅かされている人がいっぱいいます。

実際、私が声をあげてから、全国のコンビニのオーナーさんたちからたくさんの手紙や電話をいただきました。合計で100件ぐらいかな。

その中には、息子さんが自殺したとか、夫が働いている最中に息を引き取ったとか、店の過酷な労働実態が明かされていました。

そりゃね、こんだけ犠牲にしたら(本部も)もうかりますわ。誰かの犠牲の上に、一部の人たちが大もうけする仕組みではあかんのですよ。

コンビニは社会にとって必要だとは思っています。

問題は今のようなシステムです。本部自体に変革を期待しても無理だと思っています。だから一度、今の体制はつぶさんとあかんと思っています。

公正取引委員会も問題とみているとの報道も出てきました。

オーナー側が24時間営業の見直しを求めているのに、本部が一方的に拒んで不利益が生じたら独占禁止法が禁じている優越的な地位の乱用にあたると。

状況は今、変わってきています。実は今までも同じように声をあげたオーナーがいたんですが、当時はまだ、「働き方改革」なんて言葉もなかったし、世の中も後押しする状況ではなかった。

10年前に時短営業を求めたけど、結局本部側につぶされた人からは「あんたは運がよかった」と言われました。

だからこそ、私が今、倒れるわけにはいかないんです。

取材に応じる松本さん
取材に応じる松本さん
Kazuhiro Sekine

━━ 本部側も直営店を対象に短縮営業の実験を始めました。

私も誘われましたよ。でも、マスコミに公開することは認めないと言われたんで参加を拒否しました。本部の支配下での実験なんて、不都合なことが隠されかねないですから。

でも世の中の人はこういう動きに対して、「松本さんの言葉が通じましたね」とか、「変えましたね」とか言うんですが、1つも変わってませんよ。

本部側のパフォーマンスみたいなもんで、世論を沈める方便としてやっているだけです。

そして時が過ぎるのを待ち、「もう終わった問題ですよね」ってしたいんだと思います。

でも、そうはいきません。この問題は何も変わっていないし、相変わらず、私たちオーナーの命は脅かされている。

オーナー自身も強くなる必要があります。本部の機嫌を一生懸命取りながらヒヤヒヤしながら店を続けていくのか。それとも、今ここで立ち上がるのか。

時短営業すれば確かに本部への「上納金」は減るけど、自分とこの利益は上がります。でも、みんな、勇気でないんでしょうね。

コンビニ関連のユニオンがデモやるようですけど、デモやるよりは実際に店を時短にして閉めたほうが効果があります。

松本さんがあるコンビニ店主から受け取った手紙には、「19〜23時間勤務はザラ」などと書かれていた
松本さんがあるコンビニ店主から受け取った手紙には、「19〜23時間勤務はザラ」などと書かれていた
Kazuhiro Sekine

気づいたら借金1000万円

━━ コンビニ経営に乗り出す前、店の労働実態について知っていましたか。

知りませんよ。うちは元々、父親と一緒に工務店をやっていました。

父が亡くなり、その後景気が悪くなって、仕事があったりなかったり。収入が安定しませんでした。

「もっと安定したい」と家内が言うので、ほんなら仕事が365日24時間あって、安定しているコンビニでも検討しようかと考えたのが始まりです。

本部側の話を聞きに行ったら、まあ言葉巧みに言われましたね。「オーナーさんはいつでもヘルプ制度を使えますよ。

中には8日も10日も海外旅行に行っている人もいます」などと言われて。それで始めたんです。

そして、気づいたら借金1000万円。うちは土地も建物もないオーナーのケースで、開店にあたり、フランチャイズの権利代や備品代、店の資本、両替用のお金など数百万円を本部側に払いました。

オープンアカウントと言って、まあ、借金ですよ。で、その後も売上総利益の60%ぐらいが本部に入り、残り40%がオーナー側の取り分。

ここからオープンアカウントの「返済」や、アルバイトの人件費、廃棄商品分の費用などを払っていきます。

こういう仕組みで本部がもうからないわけがないでしょう。私たちにとっては体のいい高利貸しですよ。

本部はそうやって拡大していって、ドミナント戦略と言って、ある地域に複数店舗、集中的に出店させるわけです。

認知度を高めたり、配送効率を上げたりするためなんですが、本部側にとってはメリットになっても、オーナーにとっては利益が減ってデメリットですよ。オーナーは1店舗ずつ違うんでね。

あと、コンビニは防犯上もいいとか言うでしょ。24時間明るくて人がいて。でもそうでもなくて、コンビニが営業しているから、かえって警察が動かなあかん事案やパトロール先が増えるってこともあるわけです。

防犯とか、地域のためのか、社会インフラのためとか、本部はそういう言葉を見つけるのがめちゃくちゃうまいですよね。

そのくせ、実際に担うのは私たち現場の人間。そんなに大事なら、本部から社員を送り込んでやらせればいいんですよ。

レジに立つ松本さん
レジに立つ松本さん
Kazuhiro Sekine

━━ ご自身のお店が人手不足になったのはなぜですか。

去年の春、長いことアルバイトをやってくれた5人の大学生が卒業と就職のタイミングで同時に辞めたんです。

その後、開業から一緒に店を切り盛りしてきた家内ががんで亡くなりました。

家内はその2年前にすい臓がんが発覚し、手術を受けました。退院した後、抗がん剤治療を受けながら仕事をしていました。

去年の3月に急にやつれ始め、「医師にもってあと2カ月」と宣告されました。そして5月末、亡くなりました。

時給を上げて新しいアルバイトを募集したんですがうまく集まらず、新しく入ってくれた人もすぐ辞めてしまって。

昼のパートさんたちもなかなか集まらなかったんです。この辺は工業地帯で、工場の方が時給が高いんですね。

神奈川で一人暮らししていた大学生の息子にも急きょ帰ってきてもらって、店を手伝ってもらいました。

もう夜閉めるしかないと思いつめていた時、息子に相談したら「父さん、正しいことするんやろ」って。背中を押してくれましたね。

家内も天国で応援してくれてると思います。「あんたが決心せんかったら、その間にも亡くなる人いっぱいいるんよ」って。

━━ 松本さんはいつまで今の姿勢を貫くつもりですか。

あちこちのオーナーから「もう不満はなくなった」という声が出てくるまでです。

本部は改善したとか言うんでしょうが、オーナーたちの不満の声がある限り、信用できません。

◇ ◇ ◇

松本さんが時短を続けていることについて、セブン―イレブン本部広報センターの担当者はハフポストの取材に応じた。

違約金の支払いについては、「要求していません」と松本さんの説明を否定した。ヘルプを出す提案についても「1回だけとは言っていません。一定期間と提案しました」と回答した。

その上で、松本さんとは「現在も話し合いを続けています」と答えた。

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