人口減少のなかで、いかに地域が元気であり続けられるか──移住フェス for 公務員

「移住のリアルな声から考える、私たちのまちとは」をテーマに、移住・UIターンの担当をされている行政職員の方を対象とした「移住フェス for 公務員」が開催されました。

回を重ねるごとに注目度が高まる「移住フェス」。今回は番外編として、"移住のリアルな声から考える、私たちのまちとは" をテーマに、移住・UIターンの担当をされている行政職員の方を対象とした「移住フェス for 公務員」が開催されました。

「まる寺プロジェクト」が繋ぐお寺との縁

会場となったのは、浅草にあるお寺「寿仙院」。

移住フェスを主宰する「エリアル」が生まれたベストチーム・オブ・ザ・イヤー実行委員会が主催する「第2期 社会を変えるチームを創造するフューチャーセッション」から生まれた新たなチーム「まる寺プロジェクト」が橋渡し役となり、今回の会場としてご提供いただく運びとなりました。

寿仙院のご住職 﨑津 寛光(さきつ かんこう)さんに、お話を伺いました。

「お寺は敷居の高い印象をお持ちだと思いますが、歴史的に見ると、寺子屋があったり、街の治療院や檀家さんの仲裁に入る裁判官をするような時代もありました」

「本来、お寺というのは、町や地域、世界のみなさんに開かれた場所でないといけません。お祈りやお経をあげるのは難しくても、こうした場を提供することで、普段の暮らしのなかでも、いろんなご縁を持っていただいて、みなさんに上向きなお気持ちを持っていただければと思っています」

様々な形で「移住」と向き合う人々のリアル

"移住のリアルな情報を届けたい、地域の人たちと出会える場所を作りたい"と、エリアのリアルを伝えるべく活動を続ける「エリアル」。

チーム発起人の東 信史さんは、「『エリアル』は、生きたい場所で生きるために、地方で暮らすことのリアルを実践者に聞く場をつくることを目的に活動しています。今回は、移住を受け入れる側として、公務員の方がどう考えていて、どんな課題を持っているかを伺いたい」と話し、イベントはスタートしました。

まずは、軽く参加者全員で自己紹介を行い、ゲストによるプレゼンテーションに移ります。

信岡 良亮さん:移住経験者

人口約2,300人の隠岐諸島に浮かぶ小さな島「島根県隠岐郡海士町(あまちょう)」に移住し、株式会社巡の環を営む信岡さん。公務員の給料を30%ずつカットして、そのお金で移住・定住の住宅を建てたり、産業を作ったりすることで、人口の2割以上が"よそ者"になったという、海士町の取り組みについて、お話いただきました。

大徳 孝幸さん:移住経験者

今年の4月から佐賀県庁へ入庁し、U・J・Iターンを担当している大徳さん。それまで交流・移住担当として勤めていた長野県小布施町は、20代の若者が近隣の市町村に流れてしまうという問題を抱えていました。そこで行った「若者が挑戦できる地域」としてブランドを確立するために、"行きは観光、帰りは町民"という「第二町民制度」や、都会から100人の若者を集めるイベント「小布施若者会議」などの施策について、お話いただきました。

奈良 織恵さん:移住メディアの運営

首都圏と地方のご縁を結ぶ移住・交流プロジェクト「ココロココ」の編集長を務める奈良さん。父の移住をきっかけに地方へ興味を持ち始めた奈良さんは、Webマガジンを運営しながら各地でイベントを行い、移住・交流で迷う人のための情報提供をされています。「いろんなメディアがあるので、自治体の方も特性によって、うまく活用してもらえたら」と呼びかけました。

遠山 浩司さん:移住希望者

東京で公共施設の運営をして働きながら、茨城県石岡市八郷地区で「やかまし村」を運営している遠山さんは、東京と茨城を往復する生活を続けています。移住希望者が移住を決断できない理由について分析し、「自分で仕事を作れる人に5人きてもらいたいのか、農業をしてくれる人に100人来てもらいたいのかでは、まったく違う。移住者の性質をちゃんと掴んで、選ばれる地域になっていますか?」と参加公務員に投げかけ、自治体の施策とミスマッチが起きている現状を伝えました。

加生 健太郎さん:移住失敗者

東日本大震災をきっかけに、急なUターンで故郷の九州に家族で帰った加生さん。同じ目線の仲間が見つからなかったり、事業承継がスムーズにいかなかったり。結局、理想の働き方が追求できず、2年前に東京に戻ってきた加生さんは、この経験をもとに、これから移住を考えている人の役に立ちたいと言い、"できるだけ多様な依存先を作ること"が移住で失敗しない秘訣だと話しました。

坂口 祐さん:移住成功者

神奈川県出身の坂口さんは、ロンドン留学中にTwitterで四国経済産業局の募集を見たことをきっかけに、5年前に四国へ移住。坂口さんが運営する四国の美しい風景や文化を記録しているWebサイト「物語を届けるしごと」は、世界127カ国から月間約10万PVのアクセスがあるのだそうです。1年前には「四国食べる通信」を立ち上げ、独立。地方の風景を残すランドスケープ・アーキテクトとして活動されています。

加藤 千晴さん:家族移住

夫婦ともに愛媛大学出身で、埼玉に住んで働きながら「四国若者1000人会議」のコアスタッフをしていた加藤さん夫婦。土日を使って、いろんな地域やコミュニティーを訪れながら情報収集を重ね、移住先を決断したのだとか。2015年3月、生後2ヶ月の娘さんも一緒に、家族で愛媛県西予市にIターンしました。この日はSkypeでの参加となります。

興味ある地域の話を聞くフリートーク

ここからは約45分間、自分の興味のあるゲストのところへ行き、意見交換をする個別セッションの時間です。ご紹介した通り、多種多様な経験をお持ちのゲストがいらしていたので、参加者のみなさんの期待も高まります。

各席に分かれて、まずはお互いに自己紹介しながら、どんなことに興味があって参加したのか、何に課題を感じているのかを共有していきました。

参加者:自治体が出している支援制度の紹介よりも、移住希望者は"地域のコミュニティーや人の繋がりの情報"を欲しがっていると感じる。移住希望者が訪れたときに、地域の人と関われる場所、地元の人と知り合いになれる場所が欲しい。

小布施では、第二町民になった都会の人たちが来ると『おかえり』と迎えてあげる。都会から来た若者を町長の家に泊めたり、新宿までバスで送迎したりして、小布施に来るハードルを下げている。町民と仲良くなってもらえれば、勝手に来てくれるようになるから。今でも毎月2回10人ずつくらい来ている。

完全移住じゃなくても、コミュニティーとの繋がりが濃い人を増やして、また来たくなる&活気のある町を作るのが大事。二拠点居住をする人のニーズは、リフレッシュだと感じる。

参加者:震災のボランティアもまったく関係のない人が来て、地域と繋がるきっかけにはなった。その最初のきっかけを、偶発的ではなく、どうデザインするか、自治体側が考えていかないと。

このような議論が各テーブルで交わされていました。

「地域の魅力をリデザインする」グループワーク

フリートークの後は、参加した公務員の方を中心に、どのようなことを地域で実現していきたいか、をグループで話し合い、その後テーブルごとに発表してもらいました。

■二地域居住の条件

二地域居住について話し合いました。

「交通の便がいい」とか、小布施市の第二町民のように「地域の人たちが受け入れ態勢にあるのか」が条件としてあるかなと。その上で、移住希望者を増やす行政の施策として、例えば、お祭りに参加するのではなく、お祭りを作る側に入れてあげたり、1ヶ月くらいお試しで暮らせるインターン制度のようなものを作ってあげると、"移住に興味はあるけど、決め手がない"というハードルを越えられるのではないかという話になりました。

やっぱり、一番大事なのは人情やコミュニティーとの繋がり。これがないと、地域に入っていけない。今は新しい働き方を模索する民間企業も増えているので、民間企業が二拠点居住を促進する風潮が広がるといいな、という話もしました。

■自治体は何の情報を発信すればいいの?

私たちのグループでは、行政の方が「自分たちの魅力をどう発信すればいいのかわからない」という悩みを抱えていました。

また、発信するだけでは限界があって、一回は来てくれたとしても、そのあと何度も来てくれるまでになるのは、難しいと。そこで考えたのが、それぞれのフェーズにいる移住希望者の人が、次に何をするといいのかがわかる"ステップ"を見せてあげられると、いいのではないかという話になりました。

また、移住は手段でしかないので、その先にどんな暮らしがあるのかを見せる必要もあるので、発信だけでなく、その先の"コミュニティー作り"もあわせて進めなければいけません。

とはいえ、行政は土日が休み。移住希望者が土日の休みを使って地域を訪れても、話を聞くことができません。なので、"特にこの人に聞け"という「キーパーソンリスト」を作っておいて、土地の魅力を伝えてもらえるといいのではないかなと。

さらに次のステップとしては、リアルな繋がりを生み出せるような「イベント」や、ここに行ったら地域の人に会えるという「ハブになる場所」作りです。"地域が残っていくために、どんな人が必要なのか"というのを自治体で決めて、その人たちにダイレクトにアプローチすることが大事なのではないかなという話になりました。

■町会議

特にテーマはなくフリーディスカッションになってしまったのですが、主な話題としては3つありました。

まず1つ目は、地方に根付いている「20年間、町会長やってます」とか、「60年間、町議会議委員やってます」みたいな街づくりの担い手の硬直化は、地域の癌であることは明らかなので、そういう方たちには次の役割があり、担い手が変わっていく新陳代謝のスキームを考えてもいいんじゃないか、ということ。

2つ目は、それに付随して、町議会議員に若者枠を作れば良いのではないかということです。そうすると、仕事もできて、町のプロデューサーになれるということで、移住希望者が現れるはず。行き詰まっている地域ほど、若者議員の枠を作っていいんじゃないでしょうか。

最後3つ目は、20〜30代じゃなくて「40代がいかに移住するか」が重要だということです。パワーが溢れて、上にも下にも融通がきく、40代が動かしている地域が強い。神山は40代の四天王が町を盛り上げて、その人たちを好きな20〜30代が集まってきています。"強い40代"がいるというのは、魅力的な町の要素なじゃないかと、話していました。

■地元の人との関わり方

行政職員が2名、移住経験者が2名で話し合いました。

僕は生まれも育ちも田舎なので、自然と田舎の"暗黙のルール"を肌感覚で学んできましたが、移住してくると、それを知る術がなかなかなく、トラブルになることも。例えば、物をもらったときに、お返しはお金や物じゃなくて行動や特技で還すといったことです。そういう田舎の暗黙のルールを可視化した「暮しの手帖」みたいなものを作っておくと、いいのではないかという話をしました。

また、外から来て、地域を盛り上げたいと意気込む若者を、地元の人たちの8割は冷めた目で見てしまいます。強引に巻き込もうとしても難しいので、それが当たり前だと覚悟しておけば、気持ちが楽になるのかなと。

移住者が新しいことをするとメディアが飛びつきますが、そこで自分たちだけががんばったと手柄を独り占めしてしまうと、出る杭は打たれてしまう。せっかく良いことをしても、白い目で見られることが起こってしまうので、地元の人や行政の人たちを持ち上げながら、地元の人たちとうまく付き合っていく必要があるのではないかという話になりました。

最後に

岩手県の盛岡市から参加された方に、感想を伺ってみると、「移住希望者にもいろんなレベルの方がいて、盛岡市としてどのニーズに応えられるのかがモヤっとしているので、突き詰めて考えていきたいと思いました」

「人口減少による数合わせのための移住ではなく、人口が減っても、いかに地域が元気であり続けられるかが大事。その手段のひとつとして移住があるんだなと、確信的に感じることができました」と話されていました。

今回浮き彫りになったのは、「情報を発信する人=自治体」と「情報が欲しい人=移住希望者」のマッチングが、まだまだうまくできていないという現実でした。移住フェスで生まれた出会いや繋がりをきっかけに、こうしたミスマッチが少しずつ解消されていくと、幸せな移住生活を送れる人が増えそうですね。

次回の「移住フェス」の開催も、どうぞお楽しみに!

(執筆・撮影:野本纏花

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