サイボウズ式:憧れの二拠点生活「でも何から始めれば?」――地方で複業する課題と理想を話し合ってみた

サイボウズ式:憧れの二拠点生活「でも何から始めれば?」――地方で複業する課題と理想を話し合ってみた
サイボウズ式

「二拠点生活」が実現できれば、これからの社会にどんな可能性が生まれるんだろう――。

ここ数年、住まいや本業を都市部に置きつつ、2つ目の仕事を地方で行う、「二拠点生活」や「地方での複業」に注目が集まっています。

自分らしい働き方の確立、地方での人材不足や「都市×地方」の交流による発展性など、さまざまなインパクトが期待されています。

しかし、実現するには「そもそも地方に受け入れ態勢はあるの?」「収入が減るのでは」「子育てはどうする?」などの課題もたくさんあります。

「地方×複業」のメリットやデメリットについて考えながら、自分らしく働くためのヒントを「#サイボウズ式Meetup Vol.11」で探りました。

今回のゲストは、Wantedly 広報の小山恵蓮さんと、新潟県妙高市役所 企画政策課の藤野加奈子さんです。そしてサイボウズ式編集部からは、東京と新潟で、複業&二拠点生活を実践している竹内義晴が登壇しました。

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「二拠点生活」で地方の問題を解決できる? それって甘いじゃないの?

竹内:まずはそれぞれの立場から、今考えていることを話しましょうか。

僕はサイボウズで複業を始めてから、「都市部で働く人が地方の企業で複業できたら、とても良いことが起こるんじゃないか?」と考え始めました。

たとえば近年、二拠点生活に興味を持っている人が増えていると聞きます。二拠点生活って、都市部に加えて、地方とも関わることができるので、より自分らしく働けるんですよ。

そこから、地方で複業する人が増えると、人材不足を解決できたり、経験やスキルを地元に役立てられたり、それによって地方の衰退を防げたりするんじゃないかなと。

ただ、課題もあります。その想いをサイボウズ式の記事で書いてみたら「いやいや、そんな甘くないよ」という反応があって。

参照:

竹内義晴(たけうち・よしはる)。1971年、新潟県妙高市生まれ・在住。ビジネスマーケティング本部コーポレートブランディング部 兼 チームワーク総研 所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業している。コミュニケーションの専門家。「もっと『楽しく!』しごとをしよう。」が活動のテーマ。
竹内義晴(たけうち・よしはる)。1971年、新潟県妙高市生まれ・在住。ビジネスマーケティング本部コーポレートブランディング部 兼 チームワーク総研 所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業している。コミュニケーションの専門家。「もっと『楽しく!』しごとをしよう。」が活動のテーマ。
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竹内:あと最近は、実際に地方の経営者と都市部の人をつなげようと動いて見たのですが、とにかく仕組みがなくて苦労しました。そこも問題があるな、と。

「二拠点生活」や「地方×複業」って、どうすればうまくいくのか。今回のイベントで、そこを模索したいと思っています。

藤野:新潟県妙高市役所に勤めている藤野です。今回は行政の立場の一人として、地方のリアルなお話ができれば、と思います。

藤野加奈子(ふじの・かなこ)さん。1990年、新潟県妙高市生まれ。妙高市役所 企画政策課 未来プロジェクトグループ。市民税務、農林の業務を経て、現在は市における新たなプロジェクトの企画立案に向けた調査研究を担当している。
藤野加奈子(ふじの・かなこ)さん。1990年、新潟県妙高市生まれ。妙高市役所 企画政策課 未来プロジェクトグループ。市民税務、農林の業務を経て、現在は市における新たなプロジェクトの企画立案に向けた調査研究を担当している。
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藤野:新潟県妙高市では、「妙高に帰ってこないかね」と題し、空き家情報の登録制度や住宅購入の補助、お子さんを育てやすい環境づくりなどの移住支援を行っています。また、観光や農業体験など、都市部との交流人口の増加に向けた施策を進めてきました。

これからは「仕事を通して都市部の人と関わりを持てないだろうか」と、市としても模索しているところです。

小山:Wantedlyで広報をしている小山です。本日はよろしくお願いします。

地方の自治体さんでWantedlyを使うケースは増えています。理由は「若手のIT人材が足りていないから」ですね。

「複業」の検索数は今年に入ってから増えています。「複業をしたくてWantedlyで検索した」などのツイートもあり、ニーズは高まっているなと感じています。

小山恵蓮(こやま・えれん)さん。1989年、埼玉生まれ。新卒でサイボウズに入社し、マーケティングコミュニケーション部で中小企業向けグループウェアのプロモーションを2年半、自社カンファレンスの運営を1年間担当。その後、PR会社で広報とクライアントのPRを1年ほど経験し、現在はWantedlyの一人広報として奮闘中。
小山恵蓮(こやま・えれん)さん。1989年、埼玉生まれ。新卒でサイボウズに入社し、マーケティングコミュニケーション部で中小企業向けグループウェアのプロモーションを2年半、自社カンファレンスの運営を1年間担当。その後、PR会社で広報とクライアントのPRを1年ほど経験し、現在はWantedlyの一人広報として奮闘中。
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小山:ただ、「地方×複業」の例はまだまだ少ないですね。今はプラットフォームとして、「地方の企業や自治体」と「複業したい人」をつなぐ可能性について考えています。

二拠点生活から始めればスムーズ? 移住との違い

竹内:まず、一つ目のテーマとして、移住と二拠点生活の違いについてからお話しましょう。

一言でいうと、「気軽にできるかどうか」だと思うんです。

移住するまでの道のりって、かなりハードルが高いでしょう? 今の仕事を投げうってでも地方にやりたい仕事があるのか。家族は了解してくれるのか。子どもはどうするのか。いろんな問題があります

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竹内:一方で、二拠点生活はそこまで無理がないのかなと。いきなり移住しなくていいし、自分のできる範囲で動きやすい。

藤野:そうですね。移住はその地域にガッツリと関われる一方、二拠点生活なら農業や観光など、関わりやすいところだけ、週末だけと、気軽に行動できます。

どちらも良い点はありますが、まず、その地域に関わりやすいのは、二拠点生活ですね。

竹内:二拠点生活からスタートして、その後移住した方っていらっしゃいますか?

藤野:週末だけ二拠点生活をし、農業を楽しんでいた方が、そのまま移住するケースはあります。あとは古民家を改造して、長年の夢だったカフェをオープンした方もいますね。

竹内:二拠点生活を始めてみて「自分の夢ややりたいことが、そこでできるかも」って思えるのはよいですね。

小山:私は埼玉県に実家があって、中学生からは都内の学校に通っていたので、生活圏や職場がずっと東京23区内なんです。

なので、もし地方に興味があっても、友達や知り合いがいない場所にいきなり飛び込めるかというと、やはりハードルが高いです。

そんな私のような立場からだと、とりあえず二拠点生活から始めて、そこから徐々に知っていく、というのはすごく大事なんじゃないかと思いますね。

自治体も企業も、どういった人やノウハウ、スキルが欲しいのかを考えて

竹内地方の中小企業に目を向けると、ITやWeb、広報やマーケティングを生かせば、もっと成長できる企業は多いんじゃないかと。

もし、都市部のビジネスパーソンを複業で受け入れたら、その部分を補える可能性もありますよね。まだそこのメリットはあんまり気づかれていないんじゃないのかな。

藤野さんはメリットについてどう思いますか?

藤野たくさんありますよね。働く人が増えることで、企業にとっても事業を活性化するきっかけになると思いますし、地域に貢献してもらえる機会も増えます。

竹内複業をきっかけに、人手が減りつつある地域のお祭りを手伝ったりすることで、伝統を守れるかもしれない。

最近はそのような「地元のファン」「地域の仲間」のような人のつながりのことを「関係人口」とよんでいます。

藤野それにおじいちゃん、おばあちゃんたちに話を聞くと、「若い人と触れ合うだけで元気をもらえる」という意見も多いです。

小山今は、働いている人がどうしても都市部に集中しています。もし地方で複業できれば、これまで培ったスキル、ノウハウを生かせる。それが大きなメリットになりますね。

ただ、自治体にしろ企業にしろ、どういった人やノウハウ、スキルが欲しいのがわからない状況だともいえます。

都市部で働く人も、自分のスキルが具体的にどういう場面で使えるか、なかなかわからないのかな、と。

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小山なんとなく「若い人を入れたい」「IT系の人材が欲しい」といっても、どういった課題があるのか、どうしたいのか整理されていない状況だと、うまくマッチングできないですよね。

竹内Wantedlyを利用して地方へ移住した方って、いらっしゃるんですか?

小山はい。Wantedlyがきっかけで移住された例はいくつか聞いています。

移住はハードルが高いので、複業をはさむことによって、二拠点生活や移住がもっと活性化されるかもしれません

「本当は地元で働きたい」という潜在ニーズがある?

小山二拠点生活による働く側のメリットについて、私は3つあると考えています。

1つは移住よりもハードルが低いこと。

2つ目は個人のモチベーションアップ。自分のノウハウによって、地域の活性化に貢献していると実感できます

そして3つ目は、地方に対する興味につながることですね。自分が持っているノウハウや経験を地方で生かせるかもしれない。

竹内不足している部分が活性化されることで、その地域だけじゃなくて、全国に対する商いができる可能性が広がりますね。

ただそのメリットに気づいてはいても、実際に複業を始めるにはまだ課題がありますよね。地方で複業を始める場合、何から始めればいいんでしょう?

小山やっぱり、自分にどういうスキルがあるのか、何ができるのか、棚卸しをしておく必要はあるかな、と

そうじゃないと、いいマッチングは生まれないですよね。

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小山地方自治体や企業側が「どういう人を求めているのか」を公開していると、マッチングしやすいですよね。

竹内藤野さん、このあたり、実際のところいかがでしょう?

藤野「都市部の人を複業採用して、マーケティングやIT利用を活性化していこう」と取り組んでいる企業は、まだまだ少ないのが現状ですね。

そもそも「都市部の人材を複業採用する」という考えがあんまり浸透していないので、どういった効果を生むのかを認識している経営者は、ほとんどいないと思います。

小山そうかもしれませんね。

藤野ただ、そういうニーズを持つ企業はきっとあるはず。なので、情報発信を支援したり、仕組みづくりを手伝ったりするなど、行政としても考えたいですね。

小山ちなみに竹内さんの場合はどういう経緯があって、新潟で働いているのですか?

竹内僕は28歳まで神奈川県で働いていて、そこからUターンしました。理由は、実家のことが気になっていたからで。

私の親は今75歳なんですが、親の老いをすごく感じます。もし僕が神奈川で働いていたら、親の様子が気になるけど何もできない状態になっていたでしょう。

「本当は地元で働きたいけど仕事がない」「戻りたいけど東京で生計を作ってしまったから、もう無理」というケースも多い

そういう人が地元で複業できれば、今まで以上に関心を寄せられるメリットは大きいですよ。

小山そうですね。地方の働き方に興味がある都市部の人が今できることって、何でしょうね。

竹内まずは、地方とつながることだと思います。

何も知らずにいきなり「複業しに来ました」って言っても、来られた方からすると「はあ?」という反応になりますよね(笑)

藤野それは確かにそうなってしまいますよね。

竹内だから、まずは地元や地方に行く回数を増やして、地域の祭りの準備などに関わってみるとか。現地の人と話すことで、何か課題が聞こえてくるかもしれない。なので、まずはなじむことが大事なんじゃないかな。

地方のニーズが都市部に伝わってない?必要なのは働き手をつなぐ仕組み

竹内一方地方側が必要なのは、都市部から来た人を受け入れる体制をつくることですよね。

藤野「よく来てくれたね。この町はこういうところなんだよ」と気軽に話せる環境づくりですね。

小山あと、テレワークですね。地方のIT化って、実際どこまで進んでいるんでしょうか?

藤野IT化自体がまだ進んでいない企業やお店が多いです。市としても、IT化やテレワークの情報提供など、環境整備に対する支援も必要だと思います。

小山そもそも、IT化したいニーズが地方にある」ことが、都市部のIT系人材に伝わっていない気がしますね

地方と都市部、双方が発信し合うことによって、良いマッチングができる可能性が出てくると思います。

竹内地方の企業と都市部の働き手をつなぐ仕組みがないことも問題の一つですよね。

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藤野地方でも、IT化に限らず「もっと事業を活性化していきたいけれど、どうすればいいのかわからない」と悩んでいる企業もあります。

竹内企業が困っていることをヒアリングして、言語化する。そのあたりをコーディネートできる人がいればいいですね。

お金優先なら都内にいたほうがいい 「想い」だけでモチベーションは保てるのか

竹内では最後に質問コーナーです。何か聞きたいことがあればぜひ。

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質問者自分が働いている会社は複業が認められています。ただ、仕組みや雰囲気が整っていないところがまだまだあるんです。どうすれば変えていけるでしょうか?

竹内複業が認められているけど、まだそれが、なじんでいないということですよね?

今まで複業というと、なんとなく隠れてやるものでした。まずは、コソコソしないということ。「私はこんなことを、こういう想いでやりたい」と声に出すことが大事です。

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質問者もし都市部で週3日、地方で週2日働くとした場合、移動コストなども考えると大変な上に、報酬の面でも下がるケースが多いのではないでしょうか。

モチベーションを保つためにどうすればいいでしょう?

小山Wantedlyはミッションやビジョンを具体的に書くプラットフォームなので、「条件」ではなく「共感」を軸につながってほしいと思っています。

ただ現実問題として、生活や家庭もある。二拠点生活をすると収入が下がるのは、ちょっと違う気がしていて……。難しいですね。そのあたり、行政の支援って、ありえますか?

藤野私の一存ではなんとも言えないのですが(苦笑)。

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藤野ただ妙高市に限らず、住居購入の補助金や子育て支援制度が充実している自治体もあります。

「地域でスキルを生かしたい」「環境の良いところで住みたい」など、結局どこにポイントを置いて二拠点生活をしたい、と考えているのかによると思います。

竹内たしかに、地域によって収入の差がありますから、収入だけで考えると地方のほうが下がる可能性は高い。最終的には「何のためにやるのか」に行きつきますよね。お金のためなら、東京で働いているほうがいいですよ。

それ以外の何かがあるからこそ「地方で複業」「二拠点生活」だと思うんですよね。

文・村中貴士/編集・松尾奈々絵(ノオト)/撮影・栃久保誠/企画・竹内義晴

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