特集
2019年03月16日 10時12分 JST

「子育てやめます」妻に宛てた一通の手紙。ボクはあの時、育児うつになっていた

村橋ゴローの育児連載「ワンオペパパの大冒険」07

あれは、ちょうど1年前、息子が3歳の頃だった。ボクの仕事がとても忙しく、スケジュールもパンパン。例えではなくて、寝る間も惜しんで仕事をしていた。

さて、この連載のタイトルに「ワンオペパパ」とある通り、ボクは兼業主夫だ。そのため多忙を極めたそのころも、掃除・洗濯・炊事といったほとんどの家事と育児も担当していた。「そんなの、自分が忙しかったら奥さんにやってもらえばいいじゃない」という声が聞こえてきそうだが、結婚以来14年間続けてきたボクのルーティン。忙しくても、何とかこなした。というか、「妻に頼む」という発想すらなかった。

くわえてその多忙を極めている「仕事」が、どうにも上手くいかない。努力の方向性を間違えているか、そもそも需要がないのか、どうにも上手くまわらない。それでも1日の大半を仕事に捧げるしかないという日々。そして大量の家事、そして育児。

いま思えば、このころにはもうコップの水が溢れる寸前だったのかもしれない。「家事はボクの仕事」「どんなに忙しくても全部こなさなければ」。誰かに相談することもなく、自分で決めたルールの中でもがき、必死になってこなしていた。ちなみに一切の家事・育児を、妻から「やって」と頼まれたことはない。それなのに、すべてを自分ひとりで抱えていたのだ。

平日フルに働いても、まだ仕事はこぼれる。土日もガッツリとりかかりたいところだが……週末は、子どもと遊ばないといけない。妻も当時は、フルタイムで働く会社員だった。土日くらいはゆっくり休みたいだろう。そう思い、土日は朝から子どもを外に連れ出し、午後3時くらいに家に帰る、という役目をボクが担当していた。

村橋ゴロー

公園で、息子を怒鳴ってしまったあの日


これも妻から「やって」と言われたことではなく、ボクが自主的にやってきたこと。それなのに、自分が多忙を極めたそのころの週末も、そのルーティンを守っていた。週末、子どもを遊ばせに公園に。そこは親子の笑顔が溢れる、平和の象徴のような場所。

しかし、ボクの頭のなかは「仕事したいのに、なんでこんなトコにいなきゃなんねんだ! ああ、時間がもったいない!!」とイライラが募るばかり。そのときだった。今となっては細かいことは覚えてないが、息子がボクに何かのわがままを言ってきた。平常時なら「はい、はい」と受け流せるのだが、その時のボクは「うるせえんだよ!!」と怒鳴ってしまったのだ。怯える目でボクを見上げる我が子。それでも「てめえ、この野郎!!」と、我が子への暴言は止まらない。冷静に考えれば、仕事・家事・育児すべてを抱え込んでのストレスが爆発し、よりによって一番弱い立場の我が子へと向いてしまったのだ。

最低だ。そして数十秒後には、その息子に吐いた暴言が、良心の呵責や後悔となって、自分を責めて落ち込む。

家事・仕事を全部ひとりでやっているのに、何も上手くいかない。子どもと遊んでも些細なわがままで怒り、ストレスを息子にぶつけ、後悔にさいなまれ心はどん底に。そんな生活が何カ月続いただろう。我が子のことを、まったくかわいいと思えなくなってしまったのだ。いや、むしろ憎い。怯えたまなざしを自分に向けてくるそいつを、にらみ返していた。

 

「子育てやめます」妻に宛てた1通の手紙

それを機に一切のやる気を失った。ああ、終わった。オレの家族ごっこ、もう終わったわ。それから自室にこもるようになった。家族と食卓を囲むことは一切なく、完全にひきこもった。リビングから聞こえてくる子どもの笑い声すらいまいましく、耳を塞いだ。ヤバイ、オレ、どうなっちゃうんだろう? 気ぃ狂ってきたわ。押し寄せる恐怖の中、妻に1通の手紙を必死に書きなぐった。

しばらく子育てをやめます
今のままだと誰も幸せになれないので、やめます
日々のイライラが止まらず、たぶん“うつ”の一歩手前です
背中にしのびより、肩をポンポンとたたかれる一歩手前です
なのでいったん、家のこと、子どものこと、全部やめます
たぶん、ぼくはもう売れないと思います、仕事がまったくうまくいきません
そのことが心をどんどん潰していきます
もう耐えられないところまできています
そのうえに家のこと、子どもの世話、できません
なので、いったん逃げます
治るか戻れるかわからないけど、いったん逃げます
ごめんね、帰ってこれるまで、さようなら

そう書いて、妻に渡した。するとその夜、妻が手紙をくれた。

いろいろ教えてくれてありがとう。
私はいつも通り待っています。
いつも通りずーっと待っています。

勝手にすべてを背負って、勝手にパンクしたボクに向かって、妻は「ありがとう」と言ってくれた。そして「待ってる」とも。いったん逃げることを、妻は許してくれたのだ。疲弊しきっていた自分にとって、これは大きかった。妻はフルタイムで働く会社員でありながら、保育園の送り迎えからはじまり、すべての家事を代わりにやってくれた。それも文句のひとつもいわず。しかも引きこもり中のボクに対し、いつも笑顔で。

 

引きこもっていたボクに、息子が「ぱぱ。あそぼう」

すべての家事・育児を捨てて1週間が経ったころ、だいぶ心が軽くなってきたのがわかった。そして心の底から、こんな思いがふつふつと音を立てて湧き上がってきたのだ。

子どもと遊びたいーー。

何かを察したのか、はたまたただの偶然か。その瞬間、ギィとボクの部屋を開け、息子が入ってきてくれたのだ。恥ずかしいような困ったような顔をした息子は、ボクにこう告げた。「ねえ、あそぼう」「ぱぱ、あそぼう」。嬉しさと恥ずかしさで、胸が潰れそうになる。「お前のこと、『バカ』って言ってごめんね」

「いいよお。ぱぱ、あそぼう」。息子を抱きしめ、気づかれないよう泣いた。

育児に行き詰まっているすべてのパパとママへ。逃げ出せる状況にあるなら、どうぞ逃げてください。それが不可能なら、いったん距離を取ってください。義務感や意地だけで子どもと接していても、それは自分と子ども、両者にとって幸せなことではありません。

まずは距離を取り、壊れかけた自分を取り戻してほしい。笑顔でないママやパパを、子どもは望んではないのだから。

 

■村橋ゴローの育児連載

第1回 妻はきっと知らない。ボクが家事・育児の“ワンオペ夫“を14年続けられる理由。

第2回 不妊治療の末に授かった赤ちゃん。出ないおっぱい。ボクたちが経験した「産後うつ」

第3回 「この子捨てていい?」――地獄のような「産後うつ」乗り越え、ふたりで涙した夜

第4回 【週5で銭湯】子どもに社会を知ってもらう「湯育」(とういく)のススメ

第5回 結婚のきっかけは「あなたの子どもが産みたい」。借金地獄を救ってくれた妻のために、ボクができること

第6回 男の子がピンクを選んだっていい。4歳の息子が感じた「性別と色」の世界

 

親も、子どもも、ひとりの人間。

100人いたら100通りの子育てがあり、正解はありません。

初めての子育てで不安。子どもの教育はどうしよう。

つい眉間にしわを寄せながら、慌ただしく世話してしまう。

そんな声もよく聞こえてきます。

親が安心して子育てできて、子どもの時間を大切にする地域や社会にーー。

ハッシュタグ #子どものじかん で、みなさんの声を聞かせてください。