NEWS
2019年10月17日 10時20分 JST | 更新 2019年10月18日 14時52分 JST

【ドラフト】松岡洸希(武蔵)は「ただの高校生」から1年でプロ野球へ。イチローと激闘演じた「あの投手」を完コピ

屈託のない笑顔から、一転勝負師の目に。記者が打席の位置で「イム投法」のボールを体感してみた。

素朴な19歳。

おそらく、ほとんどの人が彼を見たときにそんな第一印象を抱くだろう。

松岡洸希さんは、独立リーグのルートインBCリーグ・埼玉武蔵ヒートベアーズに所属する若きピッチャーだ。

1年前までは、県立高校に通うどこにでもいる野球部員だった松岡投手。今、彼はプロ10球団からの調査票が届く正真正銘のドラフト候補だ。

ただの高校生だった彼を1年で変身させたものは何か。その秘密を探るために、練習中の松岡投手を訪ねた。

Haruka Yoshida
松岡洸希投手(武蔵ヒートベアーズ)

■ポテンシャルを信じ独立へ

「ずいぶん軽そうに投げるな...」

50〜60メートルの距離で、松岡投手が遠投をしていた。投球フォームに近いサイドスローから放たれたボールは、まっすぐに相手の胸へ伸びて向かっていく。

力みは見られない。むしろ、身体全体を使って、軽そうに投げている。

もともと、地肩は強かった。埼玉県立・桶川西高校では強肩強打の三塁手だった。それが高校3年の春を終えてから投手に挑むと、夏の時点で最速143キロを記録するようになった。

同世代は、甲子園に金足農旋風を巻き起こした吉田輝星投手(現日本ハム)や甲子園春夏連覇の根尾昂選手(現中日)ら、未来のスターだらけだ。

高校を卒業した松岡投手は、スポットライトの当たる場所とはおよそ縁のないところで、独立リーグ入りを決心する。投手転向わずか数ヶ月で140キロを叩き出した、そんな自分のポテンシャルを信じたくなったからだ。

武蔵ヒートベアーズに入団後、松岡投手は肘痛に襲われる。コーチの勧めもあり、肘にかかる負担を軽減するためにサイドスローで投げてみた。

「上投げの時には肘が痛くて違和感があったんです。でも、サイドは無理やり(肘を)上にあげなくても好きなところで投げられる。そこがはまりました」

参考にしたのは、東京ヤクルトスワローズで抑えとして活躍したイム・チャンヨン(林昌勇)投手だ。身体をやや捻り、反動をつけて投げ込むサイドハンド。2009年のWBCに韓国代表として出場し、決勝戦の延長10回、イチローに試合を決めるタイムリーを打たれた投手、といえば姿が浮かぶのではないだろうか。

時事通信社
ヤクルト時代のイムチャンヨン投手

「イムさんは本当に格好良かった。憧れていました」と松岡投手。動画サイトを参考に真似しているうちに、気づけば完全にコピーしてしまった。

「イム投法」を身につけた松岡投手は上昇気流に乗る。球速も149キロまで伸びていった。

ちなみに、松岡投手曰く、145キロまでは簡単に伸びていったという。だが「そこから3か月くらいスピードが伸びなかったんですけど...145の壁を超えたら一気に行きました」という。「誰でもあると思うんです、そういう悩み」と話すが、レベルが高すぎて多分誰も共感できない。

独立リーグ1年目のシーズンは32試合に登板し、防御率3.58。イニング数を上回る三振を奪った。無名な内野手が1年後、プロ注目の投手に。本人も全く想像しなかったという。

■ボールを体感してみた

松岡投手の協力のもと、打席の位置に立ち筆者がボールを体感してみた。動画もあるのでぜひ一緒に味わってほしい。

3割ほどの力だというが、ボールの「シューッ」という回転音が聞こえてくる。高めのボールは威力を増しながら浮き上がるような感覚だ。

スライダーも見せてもらう。ストレートの軌道から、打席の2メートルほど手前(あくまで体感だ)でブレーキがかかり、そこから緩やかに右打者の手が届かないところまで落ちていく。スライダーは曲がりの大きさによって2種類を使い分ける。他にチェンジアップもある。

Haruka Yoshida
こんな無茶振りにも応じて頂き...ちなみに捕手役は同じくドラフト候補の加藤壮太外野手。贅沢!

■19歳が見せた勝負師の顔

笑顔の柔らかな19歳だ。休日は地元の友人と遊ぶことも多いが、趣味のアニメ鑑賞も楽しむ。「おすすめは?」と聞くと「僕がずっと見ているのは『フェアリーテイル』です」と教えてくれた。

失礼を承知の上で、聞いてみた。

「同世代のスター、吉田輝星投手などは意識しますか?」

口元がきゅっと引き締まる。これは勝負師の顔だ。

「やっぱりやっている環境も違うので...今はライバル心はないです。でも、(プロに)行けた時には、同世代の壁は追い抜かないといけない」

プロからの注目度も高い。10月初めの時点で松岡投手の元には10球団から調査票が届く。ドラフトにかける意気込みを聞いてみた。

「こういう経験が初めてなので、緊張やドキドキがあるんですけど、やってきたことはやったので。

ただ、別に(今年プロに)いけなくても僕今19歳で、(独立リーグ)2年目、3年目もあるので...かからなくてもしょうがないかなという気持ちで待てば、選ばれた時にすごい嬉しいかなと(笑)」

最後の最後で笑いを取りに来た。勝負師の顔が、19歳に戻っていた。