「お腹が減った」と食事や行き場を求め歩く兄弟。親と車上生活を送る女の子。学習塾に通えず、希望する進学を諦める子どもたち……。7人に1人の子どもが相対的貧困(*1)にあると言われ、「親ガチャ」「格差社会」などの言葉も聞かれる現代。とはいえ、子どもの貧困は周囲に見えにくく、理解が広まらないという実情がある。
今、子どもたちに何が起きていて、どんな支援が必要とされているのか? 低料金の塾を経営するお笑い芸人・笑い飯の哲夫さん、子ども食堂など幅広い活動を続ける認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク理事長・栗林知絵子さんが、支援者の立場から話し合った。

芸人が“笑かしながら”教えてくれる低料金塾。Win-Winの関係性とは
━━ お2人が子どもたちへの支援を始めたきっかけや、現在の活動を教えてください。

哲夫さん(以下敬称略):僕は2012年頃から、友達に投資するかたちで低料金の学習塾「寺子屋こやや」を始めました。その理由は、僕が小学生の時代、近所のおばあちゃん先生が1ヶ月数千円で勉強を教えてくれたという楽しい思い出があったから。当時は、地域教育の文化があったんですよね。
吉本興業の社員から「子ども1人の塾代が月6万円」と聞いたことも理由の1つです。そんなにお金がかかるのでは、塾に行けない子どももたくさんいるだろうと思い、経済状況に関係なく小中学生が誰でも通える塾を目指しました。今、授業料は小学生が週2で月約5000円。大阪市には所得に応じた「塾代助成事業」があり、それを利用すれば経済的に苦しい家庭の子どももかなり安く通えます。
━━ 芸人さんが教えてくれるというのは本当ですか?

哲夫:はい。先生は、売れる前の高学歴の芸人たち。これは、Win-Winの関係性です。先生の仕事は、芸人にとって話術を向上させる良い訓練。もちろん芸人のたまごですから、子どもたちを笑かしながら教えるわけです。
子どもからしたら「めちゃくちゃ面白いじゃん」と理解がしやすい。うちの先生を卒業して、華々しくテレビで活躍している芸人もいます。うちは勉強自体というより、勉強の仕方を教えています。苦手な分野の教材を与えて、「わからなかったら聞いてね」みたいな。「取り組む姿勢」を身につけていく子がすごく多いです。
自己責任から「社会の皆で支える」時代へ

栗林さん(以下敬称略):Win-Winの仕組みづくり、素晴らしいですね。私は自分の子どもと通っていたプレーパーク(*2)で、課題を抱える子どもたちと出会ったことがきっかけで、活動を始めました。
2011年に、中3の男の子から「高校に行けないかもしれない」「お金の心配をしない日なんて1日もない」と言われたことが、すごく心に刺さって。「経済的な理由でいろいろなことを諦める子どもたちが本当にこの町にいる」ことを目の当たりにしました。
さらに、彼の親御さんは昼夜仕事をしていたので、いつもコンビニ弁当を独りで食べていることを知りました。そこで、2012年に小学生から受けられる「無料学習支援」と、無料で食事と団らんを提供する「子ども食堂」を地域の皆さんと始めました。
━━ お2人が活動を続けるにあたり、苦労されたことや、良かったことは?
栗林: 10年ほど前は「子どもを育てるのは親の責任」という意見が多く苦労しました。子ども食堂や学習支援の活動に対して、「親が怠けてしまう」「教育者でもないのにできるの?」と言われました。
その後、コロナ禍でコミュニケーションを取りづらいなど皆さんが不安を感じているためか、自己責任論が減り、最近は「子どもも子育ても大変だから、社会の皆で支えましょう」という市民運動に成長してきました。

哲夫:「社会の皆で支える」ことはとても大事ですよね。塾の経営は、コロナ禍もあり厳しいです。でも、社会と子どもたちのために続けます。
塾に来る子どもの成長で、最近「すごいな」と思ったのが、理科の飽和水蒸気量の話。温度を上げると水蒸気ができるけれど、温度が下がってくると水になってくる、というやつです。これ、何かうまい例えがないかなと思っていたら、ある子が「炊飯器だ!」と言ったんです。身近なもので例える、見事なセンスに驚きました。

海を知らなかった子どもを皆で支える
━━ 子どもの成長を実感できる素敵なお話ですね。栗林さんの印象に残るエピソードは?
栗林:ある時、小学校高学年の子が「海って何?」と聞いてきました。その子の親御さんはふさぎ込みがちで外出がままならないうえ、お家にはテレビがないので、その子は海を見たことがなかったのです。
ならば、「この子と海に行こう」と皆で思い立ちました。偶然、その月はその子のお誕生日。海に行く途中、「誕生会をしてもらったことがない」と聞き、皆で帰り道にコンビニでアイスを買って、ハッピーバースデーの曲を歌いお祝いしました。その子は、私たちを支援してくれている地域の建設会社に就職。社長が父親代わりになってくれています。
━━ お2人の今後のご活動を教えてください。
栗林:「中学校カフェ」を実現できないか模索中です。学校がプラットフォームとなれば、地域の人や居場所に子どもがつながるのではないかと考えています。地域がどんどん「おせっかい」になることで、豊かな育ち環境をまちぐるみで築きたいです。哲夫さんの「寺子屋こやや」も、もっと全国に広がると良いですね。
哲夫:塾の全国展開の野心はずっと持っています。子どもが賢くなっていってくれることが世の中にとっての財産だと思っているんです。なぜかといったら、今の地球環境の危機を救えるのは、次世代を担う子どもたちだから。僕がやっていることは未来への“投資”の1つです。
自らのことを切り詰めてでも、子どもに栄養のある食事を。そんな親御さんを応援したい
━━ 支援を受けたい、あるいはしたい方々にどんな声をかけたいですか?
哲夫:支援を受けたい人には、まずは「うちも経営に困っていて生徒を増やしたいので、ぜひ来てくださいね」と(笑)。支援をしたい人には、所得税の寄付金控除が適用される場合もあります。そうでなくても、その貢献は巡り巡って、きっと自分に返ってくるはずです、と伝えたいですね。

栗林:その通りで、子どもたちを大切にすると、自分も幸せな気持ちになるんですよね。支援することに関心を持ってくださった方には、「小さな力も集まれば大きな力になる」と伝えたいです。お金の寄付だけでなく、食べ物を寄贈するフードドライブ、古着回収など、支援の方法にはたくさんの選択肢があります。一方、支援を受けるか迷っている方には、まず一歩ドアを開けてみてほしいです。困った時は頼っていい。きっと、話をするだけでも楽になることがあります。
それから、子どもの貧困について語ると「ものすごく大変な家庭じゃないと『大変だ』と言いにくい空気をつくりがちです。多くの親御さんは、見た目にはわかりませんが、親は自らのことを切り詰めてでも、子どもに栄養のある食事を用意して、やりたいことをさせてあげたいと長時間働いています。そこを皆で応援したいです。子どもも親も大切にする地域を皆で一緒につくりたいです。
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「社会で一緒に子どもたちを守り、育てていく」。哲夫さんと栗林さんに共通していたのは、そんな思いと行動力だった。支援の方法も多様化しつつある今、まず何かしてみたいという人は、あなたのクリックに応じて企業から募金がされる「子供の未来応援基金への寄付」から“アクション”を起こしてみては。
「子供の未来応援基金」クリック募金
https://www.dff.jp/kodomohinkon/
NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク
https://toshimawakuwaku.com/
寺子屋こやや
https://terakoya-koyaya.com/
(撮影:西田香織)