【佐藤優】最近、政治が気になるあなた。ならば世界は「異常事態」なのかもしれません

【佐藤優のお悩み相談室】市民が政治の話をしないというのは、代議制民主主義においては正常な状態なはずなのですが...
佐藤優さん
佐藤優さん
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

質問 アメリカの大統領選挙で、民主党代表選が大詰めになってきました。
2016年と比べ候補者の競争が激しく、それぞれユニークな価値観を持っていると感じています。
同時に、彼・彼女らの支持層の中では、候補者自身の主張とは別に、人種や性に対して差別的な価値観を持つ人たちもいます。
中では集団となって別の候補者のSNSを攻撃するよう呼びかけたり、名誉を傷つけるような偽情報を拡散している様子が伺えます。
選挙で候補者を評価する時に、その支持層の言動も考慮するのはフェアだと思いますか?

また、私が政治の話をすると意識が高いと思われ敬遠されます。選挙が終わると「全国的に投票率が低かった」と報じられます。今の生活の中で生きづらさを感じていて、いつか変えるためには政治について議論し、選挙で投票するのが大事だと思っていますが。佐藤さんはどう考えられますか。 (米国出身東京在住、20代男性)

佐藤さんの回答
アメリカの民主党の大統領選候補者選びのレース。民主党の方は「アイデンティティの政治」です。
例えば、女性というアイデンティティを重視する人たち、黒人というアイデンティティを重視する人たちがいます。後者は、前者に対して「白人女性の黒人に対する姿勢はどうなんだ」と非難が始まります。

様々なアイデンティティが存在する中で、「アイデンティティの政治」をやっていくと、その集団間で係争が起きるので一つにまとまりにくい。これが民主党の置かれてる状況です。

アイデンティティの政治を重視する人は小さなアイデンティティの差異を重視するので、まとまらない。ですから、トランプが掲げるワンテーマ「偉大なアメリカ」を破る力になりにくいのです。

実は、市民が政治の話をしないというのは、代議制民主主義においては正常な状態です。どういうことかというと、フランス革命以降、代議制民主主義においては、政治は我々が送り出した代表のプロが行います。政治によって予算の配分を行って、国内の治安をし、外交安全保障を担保して、国民を政治に関わらせない。その代わり、国民は何をやるかと言いますとーー。
ヘーゲルやマルクスは市民社会を欲望の王国と言っていますが、市民がやるのは欲望の追求です。

政治から一般市民を隔離して、経済を発達させる、文化を発達させるというのが基本的な市民社会の構造です。ですから、市民社会においてプロの政治家以外政治に関心を持たないというのは正常な状態です。

Jun Tsuboike / HuffPost Japan

政治に気を配らなくて良いのが正常な状態ですが、公文書問題、桜を見る会など、政治に気にせざるをえない日本の昨今の状況は異常な状態と言えます。

経済がうまくいかなくなると、それを政治によって変えてくれという声が強まります。そうすると、政治と経済はトレードオフの関係にあるので、多くの人が経済活動に推進するのではなく、政治活動に従事するようになる。そうすると、経済は弱体化する。そうすると、ますます皆政治に期待をして、悪いスパイラルに入っていきます。

「政治について話すと浮いちゃう」というご相談は、日本の経済状態が相対的に安定してるからだとも言えます。ただし不安はあるでしょ?子育て、年金、増税、学費の無償化など...。経済に関係することが多いのではないですか。

北方領土をどうするかとか、竹島どうするかとか、中国の歴史認識をどうするかとか、あるいは国際テロリズムに対する戦いをどうするのかという問題は政治のプロに託すわけです。投票する時に委ねないといけないからしっかりとした人を選ぶ。その後、市民が政治をやらなくていい。これが、民主政治の本来の仕組みです。

みんなが政治をするというのは市民社会としては良い現象ではない。直接民主主義というのは補完的な仕組みですから、政治で実現させたいことがある場合は、自分の選挙区の国会議員に伝えて実現させる。その伝え方は、SNSでも運動でも様々な方法があろうかと思います。究極的には、それが民主主義の仕組みです。

(編集・構成 ハフポスト日本版 井上未雪)

「知の巨人」と呼ばれる佐藤優さんに、モヤモヤした気持ちや悩みをぶつけ、解決の糸口となるアドバイスをうかがいます。今見えている物事の底脈には何があるのか。佐藤さん独自のインテリジェンス視点で、考えるヒントを見つけたいと思います。

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