新型コロナに感染したNYの日本人医師が警告。「自分は『無症状感染』かもと思って行動して」

パンデミックになった現場での治療----。地獄のような生活は思いもよらぬ形で終止符が打たれました。7日夜、大好きなインドカレーを食べているときに味覚が無くなっていることに気がつきました。
ニューヨークのマンハッタンにある中核病院で新型コロナウイルスの治療にあたっていた宮下智医師
ニューヨークのマンハッタンにある中核病院で新型コロナウイルスの治療にあたっていた宮下智医師
宮下医師のFacebookより

アメリカ・ニューヨークにある私立の中核病院で新型コロナウイルス(COVID-19)感染者の治療にあたっていた宮下智医師が、新型コロナに感染し治療現場を離れた。

現地時間の2日前にあたる4月7日夜に、「大好きなインドカレーを食べているときに味覚が無くなっている」と気付いた。「『今日はスパイスが少ないのかなぁ』くらいに特に深くは考えてませんでしたが、翌日からは全身の痛み、発熱、悪寒、咳が出現」したという。

宮下医師が働くニューヨークのマンハッタンにある病院は、入院患者の90%近くが新型コロナウイルスが原因だという。インフルエンザとは全く違い、いままで見たことないほど急速に重症化し亡くなる人が多くいるという。「感染力が強いため、身近な医療従事者も亡くなってしまいました。本当に怖いウイルスです」と宮下医師。

「患者が山のように押し寄せるため人員不足になってしまいました。仕事の日程も急遽変更になり、夜の間ずっと重症の新型コロナウイルス患者を大量に担当しています。本来であれば一人で処理できる数ではありませんが、パンデミックの際は、限りある医療資源を最大限活用するしかありません。

夜勤で生活リズムが崩れるだけでなく、患者と接触する際はずっと呼吸しづらいマスクをつけてガウンも着ているのでかなり疲弊します。呼吸器が不足したり、患者の急変時に自分が感染するリスクと蘇生をどう考慮するのかなど様々な倫理問題は浮上してますが、とりあえずできることは全てやっています」と4月5日、Facebookに投稿していた。

パンデミックになった現場での治療――。投稿の2日後、「地獄のような生活は思いもよらぬ形で終止符が打たれた」と宮下医師は伝えている。

宮下医師は、現在、自己隔離し療養している。悪寒が続いているためベッドで寝ているという。

宮下医師は、日本でもパンデミックに陥り、医療崩壊を招くことを懸念している。「自分は『無症状感染』かもと思って行動して」と警鐘を鳴らす。ハフポスト日本版の取材に対し、日本にメッセージを送っている。

「人にうつさないことを強く意識してください。 もし仮に自分が無症状であったとしてもコロナウルスに感染している可能性があります。知らず知らずのうちに大切な人にうつしてしまう可能性があるのです。もしその方が高齢者だったり心臓病や糖尿病などの基礎疾患がある方であれば、重症化する可能性が非常に高くなります。自分は大丈夫だからいいと思うのではなく、周りの人を気遣って行動できるといいと思います」

ニューヨークの病院で、新型コロナウイルス感染者の治療にあたる宮下医師
ニューヨークの病院で、新型コロナウイルス感染者の治療にあたる宮下医師
宮下医師のFacebookから転載

宮下医師はFacebookに公開情報として以下のようなメッセージを掲載している。以下、宮下医師の了解のもと、転載する。

ニューヨーク、マンハッタンの病院で医師としてコロナウイルスの診療にあたってます。

前回の投稿後に沢山の応援頂き本当にありがとうございました。

私が医師として働くNY マンハッタンの病院ではコロナウイルスが蔓延しています。以前申し上げた通り約8割の患者がコロナを患ってます。

働く人や呼吸器など命を救うのに必須なものが足りなくなり、ただただ患者だけが増えていきます。

パンデミックを実感します。需要と供給のバランスが著しく崩れた状況です。

うちの病院の場合、幸か不幸か州の要請に応えるだけのスペースがあったため、コロナの患者のためにベッドが新規に増設されました。

しかし、ベッドはあっても十分な人員や設備がなかったため自分を含めた一部の人間に大きな負担がのしかかりました。供給の不均衡というやつです。

夜間、私と一年目の医師2人で酸素化の著しく悪化した不安定な30人の患者を担当。モニターや看護師が足らないため、医師2人で直接各々の部屋に入って患者がBiPAPと呼ばれる強力な酸素マスクをちゃんとつけて呼吸しているかを数時間おきに確認しました。自分自身ずっと呼吸しづらいマスクをつけてガウンも着ているのでかなり疲弊しました。

ときには酸素マスクが外れて、酸欠になって錯乱状態になってる方もいました。放っておくとすぐに心臓が止まってしまうので、半ば無理やり酸素マスクをつけたりしました。命がかかってるので仕方ありません。

そんな地獄のような生活は思いもよらぬ形で終止符が打たれました。

2日前の夜、大好きなインドカレーを食べているときに味覚が無くなっていることに気がつきました。「今日はスパイスが少ないのかなぁ」くらいに特に深くは考えてませんでしたが、翌日からは全身の痛み、発熱、悪寒、咳が出現しました。

ついに魔の手が自分のところまでやってきました。

本来ならば集中治療室ICUで勤務の予定でしたが、一週間の自宅隔離となりました。

コロナ戦線離脱です。

過酷な労働環境に持続的にコロナに暴露される環境。コロナにかからない方が不思議でした。酸素化が悪くなるとすると発症から一週間ほどなのでまずは様子見です。人が足りない時期に戦線離脱してしまうのは本当に申し訳ない気持ちです。

今回の件で誰も責める気にはなりません。

全部コロナのせいです。

病院の対応も素晴らしかったです。マスクやガウンといったPPEは十分供給されてましたし、毎日、病院の対策チームにフィードバックを求められて、要望を言うとすぐに対応してくれて、モニター含めて殆どの要望がすぐに実現されました。なので、今週からは私が体験した地獄のような業務はなくなります。

パンデミックの際は需要と供給のバランスが崩れるのは当然ですし、供給の中でもバランスが崩れて、ある一定のところに負担が集中することは当然だと思います。

そういうときに現場がしっかりと声を上げて、それに対応できるような病院システムは非常に大切だと実感しました。

米国には元々フィードバックシステムが充実しているので良いですが、日本の場合、対応能力という点で多かれ少なかれ不安が残ります。

まずは、個人個人ができる範囲で、感染を拡げないように常識的な行動を心がけて、日本でパンデミックにならないことを祈ります。
(ハフポスト日本版・井上未雪)

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