感染拡大でも休校なし、休業なし「壮大な社会実験」のスウェーデン、人々は今。【新型コロナウイルス】

「個人主義が強い社会の中でも、新型コロナによって繋がりが再び重視されてきている」という
ストックホルムでは珍しいシェアハウスに住むマリカ・レワン(Marica Leone)さん=2020年2月7日、ストックホルムで撮影。「居住者はより繋がりに価値を感じて、シェアハウスにいることが好まれているようだ」とレワンさんは話す。
ストックホルムでは珍しいシェアハウスに住むマリカ・レワン(Marica Leone)さん=2020年2月7日、ストックホルムで撮影。「居住者はより繋がりに価値を感じて、シェアハウスにいることが好まれているようだ」とレワンさんは話す。
Miyuki Inoue / HuffPost Japan

50人に満たなければ集会は開くことができ、カフェには寛ぐ人があふれるーー。4月のスウェーデンの日常風景だ。
新型コロナウイルス感染拡大で、欧州では多くの国がロックダウン(都市封鎖)する中、スウェーデンは、ロックダウンをせずに国民の自主性を重んじる「スウェーデン方式」をとる。経済的な打撃を抑え込みながらも、一方で、致死率は高い。人々はどう捉えているのか。

人口1023万人のスウェーデンでは4月28日現在、新型コロナウイルスの感染者数が1万8900人超で、2274人が死亡している。イタリアやスペインと比べると、死亡率は大幅に少ないが、北欧諸国やアメリカより高い。

ほとんど普段通りの生活を送るというスウェーデンの人々=Felix Frickeさん撮影
ほとんど普段通りの生活を送るというスウェーデンの人々=Felix Frickeさん撮影
Felix Frickeさん提供

レストランやカフェは、カウンター席は使えないが、ほぼ普段通りに営業を続けている。ジムも開いている。小中学校は休校にもならず通常通りだ。

在宅勤務に切り替えつつも、通りには出歩く人の姿がある。政府が指示するソーシャルディスタンスを保つことを心がけながら、ほぼ普段通りの生活を送っている。

スウェーデンでは、長く厳しい冬が明けると、夏にかけて屋外での時間を楽しむ。夜の9時ごろまで明るい今の季節。燦々と降り注ぐ太陽の光を前に、市民はこの緩い「スウェーデン方式」を受け入れているようにも見える。

ストックホルムの映画編集者のトマス・べイェさん(43)は、「新型コロナウイルスについての施策については、何が正解か分からない。そんな中、政府が経済へのダメージと人々の生活の維持のバランスを考えて世界でも珍しいこの方式をとっていると理解しています」と話す。その背景には、歴史的に培ってきた政府への信頼があるのだという。

参加者50人を超えない集会は開くことができる=Jhonatan Cebellosさん撮影
参加者50人を超えない集会は開くことができる=Jhonatan Cebellosさん撮影
Jhonatan Cebellosさん提供

この状況を「壮大な社会実験」と捉え、結果を見守るという日本人ビジネスマンもいる。三菱商事ストックホルム駐在員首席の長野彰理さんだ。「死亡率はアメリカより高いが、それでも社会はこれまで通りに動いている。壮大な社会実験に参加している気分だ」と話す。

一方で、専門家からは異議を唱える声は上がっている。多くの人が自然感染し免疫を持つことでウイルスの感染拡大を抑制する「集団免疫」を獲得することを目指す保健当局。専門家集団が、保険当局の施策は間違っていると指摘し、政府に政策変更を求める声明を4月14日に出した。

4月21日のストックホルム中心部の様子。多くの人が出歩いている
4月21日のストックホルム中心部の様子。多くの人が出歩いている
Jhonatan Cebellosさん提供

この答えのでない状況をどうみているのか。

ストックホルムでも珍しいシェアハウスに住むマリカ・レワンさん(32)に、新型コロナウイルスの感染拡大後の人々の生活や意識を聞いた。

シェアハウスK9は、世界各国からの約50人が共同生活を送る場だ。昨年、ニューヨークタイムズにも掲載され、世界的注目を集める。プライバシーを尊重するスウェーデンでは、意外にもシェアハウスは珍しい存在だ。

ここの住民を取材した2020年2月。新型コロナの感染者はまだ1人だけだったが、レワンさんは、「助け合い」を信条とするシェアハウスは、ストックホルムでの意義は際立つと指摘していた。

新型コロナウイルスの感染拡大でどう変わったのか。レワンさんは「居住者はより繋がりに価値を感じて、K9にいることが好まれているようだ」と話す。

K9では、約50人が、シャワーやキッチンを共有し、集団で生活する。新型コロナウイルスの感染者が増え始めた当初は、約20人がK9を離れたが、今はほとんどの人が戻ってきたという。現在、4部屋の空きがあるだけだ。

レワンさんは、個室の部屋にほぼ終日籠もったまま、共同キッチンで料理を作るという。基本的に自室に籠ってはいるが、人の気配を感じながら自主隔離生活を送っている。人々が夕食を食べている午後7時ごろに食料品店で買い物をしたり散歩をしたりする。毎日開かれる政府の記者会見を聞くのは日課だ。

「ゆりかごから墓場まで」の高福祉のスウェーデンでは、社会的弱者も政府がケアしてくれるという意識がある。ただこの未曾有の状況を前に「自分たちで助けあおう」という気持ちが出てきているのを感じる。

「スウェーデンは、いい意味で個人主義です。一人一人が自立している」。18歳になり自立した後は、生活の単位は核家族が基本で、高齢になっても親族の支援は期待されておらず、政府の支援を受けながら自立生活を全うするのが一般的だという。

だが、「感染リスクの高い高齢者の食料を買って持ってきてあげたり、支援が必要な人のために住民が動くことが多くなってきているようだ」とレワンさんは話す。隣人に対してできることをしようという動きがあるのだ。

イタリア出身のレワンさんは大家族で、近隣とお互い助け合う環境で育ってきた。随所で母国イタリアの雰囲気を少し感じるという。「個人主義が強い社会の中でも、新型コロナによって繋がりが再び重視されてきている」と話す。(ハフポスト日本版・井上未雪)

2020年2月7日に撮影したシェアハウスK9でのヨガの様子。今でも居住者同士でヨガやサイクリングなど各種アクティビティは継続しているという。
2020年2月7日に撮影したシェアハウスK9でのヨガの様子。今でも居住者同士でヨガやサイクリングなど各種アクティビティは継続しているという。
Miyuki Inoue / HuffPost Japan

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