真ん中の私たち
2019年06月21日 12時49分 JST | 更新 2019年06月21日 13時23分 JST

新しい法律が日本語教育の「後ろ盾」に。「住む地域に人生が左右されていいのか」現場からは声があがっていた

日本語が十分ではない外国人などを対象に、日本語の教育を受けられるよう責任を明確にする。一方、あくまで「理念」を定めただけに過ぎず、どのように具体的な政策につなげるかが課題だ。

「日本語教育の推進に関する法律」が6月21日、参議院の本会議で原案通り可決、成立した。

外国人や海外育ちの日本人などが、日本語の教育を受けられる機会を最大限に確保できるようにするのが目的で、国や自治体、それに企業などの責任も明確にする。

参議院のインターネット中継より
全会一致で可決した

日本語教育に法的な「後ろ盾」ができることで、日本語を教える教室の整備など、自治体が必要な予算を要求しやすくなるなどの効果が期待されている。

一方で、現時点ではあくまで「理念」を定めただけに過ぎず、どのように具体的な政策につなげていくかが課題だ。支援活動の現場にいる人たちは、今回の法律をどう受けて止めているのか聞いた。

■現場にとっては「蜘蛛の糸」

日本語教師や弁護士などの専門家の集まりで、各地で外国人の支援にあたる人材の育成などを手がけている「CINGA(しんが)」の新居(にい)みどりコーディネーターは、「日本語を学ぶ権利を、自治体や企業が保障するための根拠法として、非常にいいこと」と大きな期待を寄せている。

Fumiya Takahashi
CINGA・新居みどりコーディネーター

新居さんは、自身も支援活動に携わる中で、外国人住民や外国ルーツの子供たちへの支援に、地域ごとに大きな格差が存在するのを実感してきた。

ある会社の総務課から電話があり、『外国人職員が転勤で家族を連れて日本に来るのですが、どの区に入れればちゃんと日本語教育受けられますか』と相談が来たこともあります。

外国人の場合、住んだ場所によって日本語教育の手厚さが変わります。
学校に入った時からコーディネーターがついて、計画を作ってくれて、着実に積み上げて日本語を勉強するパターンはある。
一方で、担任の先生しか見てくれずほったらかしの状態のところも。
そんな状態で日本語の理解は進まないため、『発達障害じゃないの』『高校に行くなら特別支援学校だよね』と言われるケースもあります。

日本語教育の手厚さだけで、その後の人生が変わってしまうということが、あっていいのかと思います。

このように、これまでは自治体や学校の担当者の熱意によって、子どもの将来が左右されてしまう状況があった。これが法整備によって、地域に関係なく均一な教育を受けられるよう改善される可能性がある。

しかし、問題はこれだけではない。

外国人住民や子供たちへの日本語教育は、自治体から補助金の交付を受けたNPO法人などが重要な役割を果たしてきた。一方、公的な支援が十分ではないケースもあり、綱渡り状態の運営を強いられる団体もある

新居さんは、現状についてこう語る。

自治体と議論すると『頑張りたいですようちだって!でも、福祉などと比べれば優先度がいつも下がってきちゃうんですよ』って言われて、毎回終わるわけです。

行政職員が悪いわけじゃないんです。(行政側は)優先順位を考えるときに、根拠法があったり予算がついたりするものから実行していきます。

法律ができたならば、NPOや市民側は『こういう法律ができたから、是非頑張っていきましょう』と交渉できるかもしれません。

手綱というか、上から落ちてくる蜘蛛の糸というか、いくら喋っても何も(成果が)なくて双方ともガックリするんじゃなくて、法律があるからなんとか予算を引っ張ってきてみんなでやっていきましょう、と。

そういうことができる法律なんじゃないかなと思っています。

■「うちの地域なら」を考える

成立した法律は、あくまで日本語教育の「理念」を定めたものだ。具体的に、自治体に対して何らかの政策の立案を義務付けるものではない。

そのため、これまでに日本語の支援にあまり積極的に取り組んでこなかった自治体の場合、ノウハウが足りず、現実的な支援に結びつかない可能性もある。

(そういった自治体も)あると思います。

CINGAは小さな団体ですが、支援に関しては広域的なノウハウを持っているので、どんどん頼っていただきたいです。

大事なのは金太郎飴みたいに『周りと同じことをしたらいい』と思うのではなくて、『うちの地域だったらどうしたらいいのか』という課題性を整理することです。

プロジェクトチームでも審議会でもまずは立ち上げてみて、課題を探して見てください。

そして、他の自治体は何をやっているのかをみて、でもそれを真似するのではなくて、専門家の力も借りつつ、『うちはどうしたらいいのか』を考えるプロセスを積んでいったら、小さくても実りあるものが必ずできると思います。

■「社会的な課題として認知するきっかけ」

この法律は、日本語教育が専門の神吉宇一准教授(武蔵野大学)らで作るグループが、署名サイトの「Change.org」で早期成立を求めて賛同を募っていた。目標の10万筆には届かなかったが、1万2610人が賛同していた。

神吉准教授は「過去数十年、法制化に取り組んできた諸先輩方の尽力・積み重ねのおかげだと思っている。現状では、日本語教育や外国人の言語支援に対して、一般の方はほとんど知らないという状態。法律ができることで、外国人が増加する社会の中で、言語・コミュニケーション問題が、社会的課題として認知されるきっかけになるという点でも意味がある」と話している。