現地調査報告 北朝鮮木造イカ釣り漂着船の現場 清津港沖の潮流は能登半島に流れる 加藤 博

北朝鮮の国内状況が不安定になればいつでも脱北難民を運ぶ難民ビジネスが発生してもおかしくない環境が整いつつある。
This photo taken on November 21, 2017 shows a general view of the bay between Chongjin and Orang on North Korea's northeast coast. / AFP PHOTO / Ed JONES (Photo credit should read ED JONES/AFP/Getty Images)
This photo taken on November 21, 2017 shows a general view of the bay between Chongjin and Orang on North Korea's northeast coast. / AFP PHOTO / Ed JONES (Photo credit should read ED JONES/AFP/Getty Images)
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北朝鮮の木造船の漂流、漂着が激増

昨年の日本海沿岸には異変が起きている。これまでにない数の北朝鮮の木造イカ釣り漁船が無人のまま、あるいは白骨死体を運んでくる。まれに「漁船員」が数人乗っていることがある。11 月に入って石川県珠洲市沖、青森県下北半島西側佐井村沖、新潟佐渡市漁港沖、秋田県能代漁港海岸、由利本荘市「本庄マリーナ」と立て続けに木造船、鋼板船が漂着した。北朝鮮の木造船の漂流、漂着は、平成 27 年に 45 件、平成 28 年に 66 件、平成 29 年に 104 件と増加の一途をたどっている。

流れ着いた朴ナムイルのライフジャケット

現地調査団が石川県志賀町の海岸で拾ったオレンジ色のライフジャケットには、氏名と所属の番号がはっきりと判読できた。氏名は「朴ナムイル」、所属の登録番号は 556-63088 だ。この最初の番号5は清津港所属を意味している。まさに清津港から石川県まで潮流が運んだ証拠とも言える。氏名と所属番号で北朝鮮に残る家族が分かるのならば渡してあげたい。私たちは彼の遺品を前に冥福を祈った。なぜ今年はこんなに漂流船や漂着船が多いのか、石川県志賀町西海、金沢市安原海岸に漂着、転覆した木造船を検分するのに現地調査団に加わった。ばらばらに分解しそうになった木造船、海岸の岩場に乗り上げた機関室の無くなった船、スクリューのない船など無残な姿をさらしていた。これは大雪を降らせた異常に発達した低気圧が日本海を横切った時に遭遇した結果だと考えられるが、湖沼、河川での漁でしか使えない船で、外洋に出る無謀な漁だ。船の残骸と生命を失う結果だけが残った。

金正恩労働党委員長の指示 「漁獲獲得戦闘」は外貨獲得が目的

外貨獲得に懸命の北朝鮮は、東海岸沿いの漁場の漁業権を中国に売り渡している。魚種、期間、漁船の能力、海域等の条件を付けている。中国の水産会社はこれまで培った北朝鮮水産事業部との関係を最大限利用し、海産物を買い付けている。買い付けにとどまらず中国の高性能の鋼板船が北朝鮮海域に出漁できる権利を買い取る動きが活発化した。その背景にあるのは外貨獲得のために金正恩労働党委員長の指示による「漁獲獲得戦闘」にある。表向き食糧不足を補うために漁獲高を飛躍的に増し、人民により多くの配分ができるというものだが、各水産事業部では上納するノルマが増やされており、外貨獲得が主目標であることは確かなことだ。

多勢に無勢の日本漁民に危機感

したがって朝鮮人民軍所属の水産会社は、ノルマ達成のために、豊かな黄金漁場である日本の排他的経済水域の大和堆までもやってくる。南清津港所属の漁民は、それが違法行為であることを知らされていない。多勢に無勢の日本漁船は安全操業ができないと危機感を募らせている。対策を求めても一向に埒が明かない海上保安庁に怒りを向ける。長さ 5~7メートル、幅 1 メートルの河川や湖沼用の小型木造船でも出漁してくる。大きくても 12 メートルが主流で、全長 20 メートルの木造船は少ない。外洋の荒波、低気圧の荒れた天候の悪条件になったとしても、働く漁民に選択する余地はない。ノルマが達成できなければ、次の出漁に不利な取り扱いを受ける。生殺与奪の危機に直面するのである。

海路による脱北難民ルートを暗示した

6 月から始まるイカ漁は元山沖から始まり次第に北上し、8 月から 9 月の漁の最盛期には、1 千隻を越える小舟が漁場にひしめく。韓国との国境に近い江原道から咸鏡南道、咸鏡北道の人民武力部所属、労働党の外貨稼ぎ部門 39 号室所属、党行政部所属の各水産事業部が、沖の漁場に向けて出漁してくるのだ。そして平成 29 年度は 104 件もの漂流船、漂着船が日本海沿岸で認められた。本国に生還できたのは 44 名と言われる。彼らは本国でどんな日本での経験を語っただろうか。しかし、見方を変えれば、漁の途中でエンジンが故障した、スクリューが破損したという口実で日本海を漂流し、能登半島に向かうことはできる。潮流に乗って能登地方はもちろん、新潟、秋田、青森の各地に到達できることを証明したのである。 清津出身の漁民であった元脱北者が、清津港所属の船に乗る人間は、清津港沖の海流が能登半島に向かって流れていることを知っている、と語ったのを思い出す。これは日本海沿岸に多数の難民が押し寄せる予 兆なのかもしれない。北朝鮮の国内状況が不安定になればいつでも脱北難民を運ぶ難民ビジネスが発生してもおかしくない環境が整いつつある。

(文/北朝鮮難民救援基金理事長 加藤博/北朝鮮難民救援基金 NEWS Apr 2018 № 108より転載)

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