なぜ「note」には、記事のランキングがないのか? 代表の加藤貞顕さんが目指す“ネットで安心して書き続けられる場所作り”

「とにかく一番大事なのは(作ったものを誰かに)見てもらえること。そして反響があること。そこを重要視してデータなども見ています」

いま、多くのクリエイターが自分を表現する場として集まるサービスがある。株式会社ピースオブケイクが提供する「note」だ。

サービスが始まってから5年あまり。1日に投稿される記事は1万本以上、月間の利用者数は1000万人を超す。伝えたいことがあれば「noteに書く」、そして、その逆もまた然りで、「面白い文章はnoteにある」という文化も広まってきた。

noteはなぜ書き手に、読み手に信頼されるのか。炎上やデマもみられるインターネットで、安心して表現ができる「場づくり」をどう進めているのか。

東京・六本木のアカデミーヒルズで5月8日に開かれた「ハフポストブックス」創刊記念セミナーにゲスト登壇した、ピースオブケイクCEOの加藤貞顕さんが語った、noteの開発思想をまとめた。

noteにはランキングがない。目指しているのは、「心地よい“街づくり”」

2019年の年初め、メディアアーティストの落合陽一さんがnoteを始めた。

「140字じゃ足りないし、本一冊は読んでくれない. Note始めます. 」と題された投稿は、そのタイトルからして、noteのポジショニングの“妙”を物語っている。

Twitterでは毎日のように”炎上”が起きていても、noteはなぜか炎上しない。安心して発信できる「雰囲気」がある。ネットのスピード感と、本が持つ信頼性。その両方が合わさったような雰囲気のことを、加藤さんは「心地よい街」に例える。

《noteには特徴的な点があって、(クリック数などを元にした人気順で記事を表示する)ランキングがないんですよね。サービスの思想として、置かないと決めているんです。

ランキングがあると、段々とコンテンツがそこに収斂していきます。人はみんな、ランキングが大好きです。僕もニュースサイトなどを見ている時にはつい押してしまいます。

でもそうすると、結局刺激的な見出しや、悪口のようなものになりがちですよね。僕はnoteをそういう「街」にしたくない。

当然、ランキングなしでも読者にしっかり読んでもらうとなると、よりインテリジェントな(読んでもらうための)仕組みが必要になりますが、それでもです。そこまでしてコンテンツの多様性を担保したい、と考えています。》

大事なのは作り手のモチベーション維持。そのために人とAI、両方でサポートする。

「心地よい街づくり」を目指す背景には、「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする。」というnoteのミッションがある。

《インターネットが普及して、誰でもコンテンツを作れるようになりましたが、続けるということが難しいんですよね。みんな、自分の発信したものをディスられるのは嫌だし、やっぱり手応えが欲しい。

続けていくには、きちんと認められる機会があることが大事。noteはインターネットでそれを実現したいと考えています。》

これまでであれば、作家には編集者がついて、テーマを提案したり、モチベーションを上げたりするなど伴走者としての役割を担ってきた。noteでは、「人の力」と同時にテクノロジーが大きな柱を担う。

《とにかく一番大事なのは(作ったものを誰かに)見てもらえること。そして反響があること。そこを重要視してデータなども見ています。

1日1万本も投稿されるみんなの記事が、きちんと読まれているか、特定の人にアクセスが集中していないか、そうした点にはかなり注意してUIを設計していますし、AIが人によってそれぞれ異なる記事をレコメンドしたりしています。もちろん人ーーディレクターと呼んでいますがーーが選んで記事をオススメするシーンもあります。

クリエイターのモチベーションを維持する存在というのは、必ずしも人である必要はないと思っています。機械的に用意できることもたくさんありますし、(人力と機械)両方でサポートするというのが大事なんだと考えています。》

書き手のモチベーションを維持する仕掛けとして、noteでは定期的に書き手に「お題」の出題をしている。

例えば、新しい元号が発表されたばかりの4月には、「#令和元年にやりたいこと」というお題で文章を書いてもらうよう呼びかけた。また、5月15日の「ヨーグルトの日」を機に、「明治ブルガリアヨーグルト」とコラボして「#ヨーグルトのある食卓」をテーマにした投稿を受け付ける企画をおこなった。新しい年にどんな目標を立てるのか。どんな人と、いつヨーグルトを食べたのか——。こうした数々のお題があるだけで、文章やイラストを発表するきっかけになるという。

pixabay

《たくさん本を出している作家さんって、いっぱい依頼がきているから色々書けているんだと思うんです。自分では思ってもなかったことを依頼されると、新しいことを書けたりする。noteで実施している「お題」や「コンテスト」でも、そうしたことをねらっています。》

また、記事には「いいね」にあたる「スキ」ボタンが設置されており、押された回数がキリの良い番号になると「おめでとうございます!」という通知が届いたりするなど、読者の反応をポジティブにしていくような様々な工夫が凝らされている。

「お金」を通じて書き手と読み手のコミュニケーションが生まれることも。

noteが目指す、発信し続ける人を支えるための「心地よい街づくり」。そこでは、記事への「課金」システムが、仕組みを支える役割の1つを担っている。

「クリエイター」と呼ばれる投稿者は、文章やイラストを無料で公開することもできるが、100円〜1000円の値段をつけて、自分のコンテンツを「売る」こともできる。

ニュースサイトやSNS、他のブログサイトなど、無料のコンテンツが多いインターネット空間だが、noteでは1割弱のコンテンツが「有料」だという。

これは、作り手が「お金を儲けられる」という単純な話ではなく、コンテンツを通して作り手と読者により深くつながって欲しいという思想によるものだ。

加藤さんは以下のように語る。

《今までのインターネットが、無料のコンテンツばかりだったというのが、実はちょっと異常だったんだと思います。既存のメディアで言えば、新聞も有料のものとフリーペーパーのような無料のものがあるし、テレビだってそう。どちらかによって、中身も視聴者も違うだろうし、両方の選択肢があればコンテンツ全体として、より豊かになる。それを担保しようというのが僕たちがやっていることです。》

《noteでは有料の記事を「買う」だけでなく、無料の記事に対しても読者が「いいな」と思ったら、自主的にお金を払うことができる仕組みになっているんです。

「サポート」という機能ですが、やっぱり面白い記事だとたくさんサポートを受けることができます。「面白かったよ」という気持ちを表明するコミュニケーションツールとしてお金が使われているんですね。

僕は欧米におけるチップの文化がすごく好きなんです。日本にはチップの文化がないから、レストランでサービスに満足しても何もできなくて、ただ「ありがとう」って5回くらい言ったりしちゃう(笑)。お金という形で、気持ちを示せるのってすごくいいですよね。》

有料コンテンツの書き手の中には、吉本ばななさんなどの大物作家もいる。

吉本さんはnoteで月額課金形式のコラムを連載している。連載はその後、紙の本になって発売されるという。

「noteなどのサブスクリプションで読者とつながって、あとから(紙の)本にするという流れは、今後主流になってくる気がします」と加藤さんは見ている。

最後に加藤さんは、「あまり現世御利益ばかり主張してちゃいけないけど…」と前置きした上で、書くこと、そして書き続けることの意義をこう語った。

《記録のため、自社サービスを伝えるため、単純に好きだから……書く目的はケースバイケースだと思うのですが、書くためには考えざるを得ないので、書くという行為を通じて、視点が変わったりモノを見る解像度が変わってくる。そういう体験は貴重だと思います。》

《続けて(発信して)いる人の特徴を見ていると、コンテンツを通じて仲間ができているんですよね。見てもらって、共感してもらって、仲間ができる。それはお金だけの話じゃなくて、人生の幸福の一番の要素なのではないでしょうか。》

本記事は、ハフポスト日本版とディスカバー・トゥエンティワンの共同書籍レーベル「ハフポストブックス」の創刊を記念して開かれたトークイベントで、ハフポストの竹下隆一郎編集長、ディスカヴァー・トゥエンティワンの干場弓子社長、ゲストであるピースオブケイクCEOの加藤貞顕さんとの鼎談の中で語られた内容を編集したものです。

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