「お寺でお化け屋敷」、プロデューサー五味弘文さんの情熱

私たち日本人の心を捉えて離さないお化け屋敷の歴史を紐解いてみましょう。

来る5月の向源では、例年になかった新しい企画として「お化け屋敷」をつくりたいと考えています。お化け屋敷といえば夏の風物詩ではありますが、「ドキドキしたい」という怖いもの見たさの心理は季節を問うものではありません。そこで、私たち日本人の心を捉えて離さないお化け屋敷の歴史を紐解いてみましょう。

<お化け屋敷の歴史>

日本で初めてお化け屋敷が登場したのは江戸時代後期と言われています。見世物としての「お化け屋敷」は江戸時代。天保元(1830)年に、大森に住んでいた瓢仙という医師が自宅の庭に設けた「大森の化け物茶屋」という見世物が元祖と言われています。

その後永らく、お化け屋敷は見世物小屋と一体で、漫然と展示されているものを見て歩くものでした。大正時代に入り、音と光を組み合わせるなど、会場装飾と合わせて魅せる大掛かりなものが登場すると、博覧会ブームと相まってお化け屋敷人気は大変なものとなりました。しかし、幽霊や妖怪、変死体などのいわゆる「怖そうなもの」を並べて見せるという意味では、このスタイルは平成の声を聞くまで変わることはありませんでした。

さて、それまでの展示型のお化け屋敷を大きく変革したのが、お化け屋敷プロデューサーの五味弘文さんです。五味さんの手がけるお化け屋敷の最大の特徴は、お化け屋敷に「ストーリー」と「ミッション」を持たせたことです。従来のお化け屋敷では、例えばお菊さん人形の横に狼男やドラキュラが置かれているといった具合だったものを、五味さんは一つのテーマに従い、統一された世界観でお化け屋敷をまとめるということを始めました。

お化け屋敷プロデューサーの五味弘文さん

その世界観の中にはストーリーがあります。「ある古ぼけた屋敷ではこんな噂がある・・・人知れずその屋敷を◯◯の屋敷と呼ぶ」といったものです。五味さんのお化け屋敷を訪れる人は予めその設定を知らされた状態で、一歩足を踏み入れた先でその恐怖の物語を追体験するという仕組みです。さらに、もう一つの特徴である「ミッション」とは、例えば「赤ちゃんを母親のもとに届ける」「血の手形のついたふすまをすべて開ける」など、自分が実際にお化け屋敷の中で果たさなければならない仕事(ミッション)のことです。怖いものに近づきたくない、でも行けなくてはならない、でもやっぱり怖いという、まさに人間の「怖いもの見たさ」の心理を巧妙に刺激するのが、五味さんのお化け屋敷なのです。

そんな五味さんが、自ら「会心の出来」と胸を張るのが、2010年に東京ドームシティアトラクションズに開設された「足刈の家」。そこに設定されたストーリーをご紹介します。

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今を遡ること数十年前、美しい女性"歩未"がその家に嫁いできました。

しかし、その結婚生活はあまり幸せなものとは言えませんでした。

帰ってこない夫に厳しい義母。しかも、歩未は子宝に恵まれませんでした。

そんな彼女には、たった一つの秘密がありました。結婚前に付き合っていた男性からもらった赤い靴を、誰もいない部屋で履いてみることです。

ところがある晩、その姿を夫に目撃されてしまいます。

理由を知った夫は激怒し、「足を刈ってやる!」と叫ぶと、歩未の足を鎌で切りつけました。

不衛生な部屋に閉じこめられた彼女は、足の傷も癒えぬまま、次第に精神を蝕み、やがて亡くなってしまいます。

しかし、歩未の怨念は深く、結局その家は滅んでしまいました。

今でも、その屋敷に足を踏み入れた者には、必ず祟りを起こします。

今日も、どこからか彼女の啜り泣く声が聞こえてきます。

「足をちょうだい...」

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この不気味な「足刈の家」に、来場者はなんと靴を脱いで上がらなくてはなりません。靴を脱ぐというたったそれだけのことでも、人はひどく無防備な感覚に陥るものです。腐り果てたおそろしい様態であろう歩未が、冷たい床を這って近づいてくる。暗い家の中でどこから狙われているともわからぬ自分の足元の、なんと頼りないことでしょうか。

このように、五感をつかって心理に訴える五味さんのお化け屋敷を向源にお招きするべく、現在準備を進めているところです。

<向源でおこなうお化け屋敷>

さて、それでは今回の向源のために五味さんが考えてくださったお化け屋敷がどのようなものか、この記事をお読みの皆さまに少しだけご紹介しましょう。

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一歩足を踏み入れると、そこは漆黒の闇。

たった一本の綱だけを頼りに進まなくてはなりません。けれどその綱は、ある深い思いを抱いて亡くなった女性の髪の毛が埋め込まれた毛綱だったのです。

顔に当たる髪の毛、耳元で囁く声、足元の布団......。

やがて、綱が何者かによって引かれます。それに誘われて進んだ先には......。

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「闇」、「髪の毛」、「囁き声」など、人間の恐怖心をくすぐる演出はもちろんのこと、暗闇の中で一本の綱を頼りに歩を進めるというスタイルは、お寺の真っ暗な地下を抜けて生まれ変わる「胎内巡り」を彷彿とさせます。奇しくも、今回のストーリーにはお坊さんが登場します。女性に逆恨みされたお坊さんに呪いの毛綱がからみつき、お坊さんを冥界に引きずり込むかのようにのちうちまわるのです。まさに、お坊さんも怖がるお化け屋敷。「こわい、でものぞいてみたい」の心理が存分に刺激されます。

五味さんからは今回のお化け屋敷に関して以下のコメントを頂いております。

「お寺でお化け屋敷をやりましょう。

この話を聞いたとき、そんなやり方もあったのか、と思わず膝を打ちました。今まであったようでなかったこの企画。そんな発想をお坊さんがしてくれるとは、仏教はなんて懐が深くて魅力的でしょう。その懐の中で、今までやったことのないようなお化け屋敷を作らせてもらいます」

そしてお化け屋敷以上に気になるのは、お化けとなってしまうほどの深い怨念を抱いて亡くなった女性に、はたして救いはあるのかということです。誰からも認められず孤独に生きていた女性。その髪の毛を何気なく褒めた、お坊さんの優しさそのものを恨む女性の魂を救うには、一体どうしたらよいのでしょうか。この興味深いテーマを、お化け屋敷プロデューサーの五味さんと向源代表の僧侶・友光雅臣との対談で読み解くトークイベントが4月18日に行われます。非公開で行われるこのトークイベントへは、クラウドファンディングにご支援くださった方への特典としてご参加いただくことができます。少しでも興味を持ってくださった方は、ぜひこちらのウェブサイトも合わせてお読みください!

協力:オフィスバーン(http://www.officeburn.jp/

お化け屋敷

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