「運転上手でも、5年後を見すえて家族で話し合いを」 高齢ドライバー問題のためにできること

母子2人が犠牲になった東京・池袋での痛ましい事故をきっかけに、高齢者の運転や免許の返納制度について関心が高まっている。家族でできることは何だろうか。
歩行者がはねられた事故現場で、乗用車(奥)が衝突し横転したごみ収集車=4月19日、東京都豊島区
歩行者がはねられた事故現場で、乗用車(奥)が衝突し横転したごみ収集車=4月19日、東京都豊島区
時事通信社

東京・池袋で乗用車が暴走し、12人が死傷した事故。乗用車を運転していたのは、87歳の男性だった。母子2人が犠牲になった痛ましい事故をきっかけに、高齢者の運転や免許の自主返納について関心が高まっている。

事故で亡くなった松永真菜さんと長女・莉子ちゃんの遺族は4月24日の記者会見で、「それぞれのご家庭で事情があることは重々承知しておりますが、少しでも運転に不安がある人は車を運転しないという選択肢を考えて欲しい」と訴えた。

運転免許を持つ人や、高齢のドライバーを家族に持つ人が、安全のために気をつけるべきこと、できることは何だろうか。帰省する人や交通量が増えると予想される10連休を前に、改めて考えたい。

警察庁科学警察研究所で交通事故の鑑定・分析を担当し、高齢ドライバーの事情に詳しい山梨大学大学院教授の伊藤安海さんに聞いた。

高齢ドライバーの特徴は?

警察庁によると、2018年の高齢運転手(75歳以上)による死亡事故は460件。死亡事故件数全体で占める割合は14.8%だった。

内閣府交通安全白書(2017年)の特集によると、老化にともない視力や体力が低下したり、反射神経が鈍くなったりすることでとっさの判断・対応ができなくなり、事故を引き起こすことがあるという。

「運転が自分本位になり、交通環境を客観的に把握することが難しくなる」とも指摘されている。

特に、高齢ドライバーをめぐる問題でよく聞くのが、「アクセルとブレーキの踏み間違い」だ。伊藤さんは、「踏み間違いが増えるというより、『踏み直しができなくなる』という表現が近いかもしれません」と話す。

「年齢の若いドライバーだとしても、ほんの一瞬アクセルとブレーキを踏み間違えたり、ハンドル操作を謝ったりする場合もあります。若い人はすぐに判断して正しい行動(踏み直しなど)ができますが、高齢者の場合は間違いを認識できなかったり、行動を直せなかったりします」

種々の認知機能低下が原因で起きる運転行動には、「センターラインを越える、路側帯に乗り上げる、車庫入れに失敗する、ふだん通らない道に出ると急に迷ってしまう/パニック状態になる」などがある。

1つでも繰り返し起こすようであれば、交通事故を起こす可能性が高く、免許返納を検討するべきという。

イメージ写真
イメージ写真
Tadamasa Taniguchi via Getty Images

「免許の自主返納」なぜ難しい?

免許を自主返納する人の数は、年々増加している。

警察庁の統計によると、2018年は約18万人の80歳以上のドライバーが免許を返納した。しかし、80歳以上の運転免許保有者数は約226万人で、返納率は8%と低い。

伊藤さんによると、免許の自主返納を阻む理由は主に2つあるという。

1つが、「生活を送るために車が必要」という理由だ。

免許返納率が高い東京や大阪、神奈川では、車以外の交通機関が充実している。一方で、都市部から離れた地域では、車が最も楽な移動手段である場合が多い。

また、高齢ドライバーにとって運転が「生きがい」になっているケースも多いという。

「今の時代の高齢ドライバーにとって、自動車にはその人の青春や人生、思い出やプライドが詰まっている。若い頃から車ありきで生活していて、車との繋がりが非常に強いんです。今の若い世代で置き換えるとしたら、スマートフォンのような存在と言ってもいいかもしれません」

「車は生活のために必要だし、青春も詰まっている。そうした2つの側面があります。人によっては、運転免許を返納することは『生活』を失い、その人の『思い出』や『プライド』も失ってしまうことになる。返納ができない背景には、そうした事情があると思います」

「5年後を見すえて話し合いを」家族でできること

さまざまな事情を抱える高齢者に寄り添いながら、スムーズに免許返納を進めるためには、どうすればいいだろうか。

家族での説得が難しい場合は、主治医や警察署、免許センターに相談する、という手段がある。警察署や運転免許センターには、担当職員が運転に不安のあるドライバーやその家族から相談を受け付ける「運転適性相談窓口」もある。

状況に応じて、こうした専門機関を積極的に活用しよう。

また、伊藤さんは、運転に不安がない段階でも、数年後を見すえて話し合いをすることが大事だと語る。

「いきなり運転をやめなよと言われても、受け入れられず、むしろ説得が難しくなってしまう場合もあります。理想は、運転が比較的上手なうちに、今後どういう状況になったら車を乗り換えるか、運転をやめるかなど、家族でコミュニケーションをとって決めておくことです。車がなくなったら、どんな交通手段を使うか。どこに住み、どんな生活を送るのか。話し合いは早ければ早いほどいいと思います」

「高齢者人口が増えている中で、これから先の5年間、運転に危険がある高齢ドライバーの数はどんどん増えていきます。今これだけ高齢ドライバーが問題になっているのだから、5年後はますます問題は大きくなるでしょう。そのためにも5年後を見すえた対策が必要で、家族間でできることとしては、『まだ運転は大丈夫』という時から話し合いをすることが大事です」

10連休中は実家に帰り、家族で集う予定がある人も多いだろう。

「最近困っていることがないか聞いたり、会話の中で何か変化がないか探したりするといいと思います。せっかく連休で家族と過ごす時間を楽しみにしていたのに、突然運転をやめるよう説得されてショックを受けてしまった、ということにならないよう、相手の立場に立って話し合うことが大事です」

10連休中、二輪の中高年ドライバーは注意を

連休中は、交通量が増えることも予想される。伊藤さんによると、行楽シーズンは二輪の中高年ドライバーの事故が増加する傾向にあるという。

「バイクなどでツーリングをする予定がある方たちは、十分気をつけてほしいと思います」

自動車の運転は、常に事故を起こす危険と隣り合わせだ。事故による犠牲を生まないために、いま一度安全運転を心がけ、自身や家族の運転に不安はないか、考えていきたい。

注目記事