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産業革命以後の世界を変える「サーキュラーエコノミー」とは? 専門家は指摘「持続可能でなければ生き残れない」

オランダ在住のサーキュラーエコノミー研究家に聞く、ヨーロッパの先進事例と日本の課題。

「サーキュラーエコノミー」という考えがいま、注目を集めている。

これまで「廃棄物」とされていたものを「資源」と捉え、廃棄を出さない経済循環の仕組みのことで、新たに4.5兆ドルもの利益を生み出せるといわれている(*1)。

産業革命の時代から続く大量生産・大量廃棄に取って代わる新しい経済の仕組みとして、期待がふくらむサーキュラーエコノミー。ヨーロッパの先進事例や日本の課題について、オランダ在住の研究家、安居昭博さんに聞いた。

安居昭博(やすい・あきひろ)さん:オランダ・アムステルダム在住サーキュラーエコノミー研究家。2015年ドイツ・キール大学大学院に留学。ドイツのサスティナブルウェブマガジン「FUNKENZEIT」にて映像制作やインタビューを担当。自身でも「社会課題 × ビジネス」のアイデアを伝えるウェブマガジン「EARTHACKERS」を立ち上げ、サーキュラーエコノミーの最新動向を世界に発信している。
安居昭博(やすい・あきひろ)さん:オランダ・アムステルダム在住サーキュラーエコノミー研究家。2015年ドイツ・キール大学大学院に留学。ドイツのサスティナブルウェブマガジン「FUNKENZEIT」にて映像制作やインタビューを担当。自身でも「社会課題 × ビジネス」のアイデアを伝えるウェブマガジン「EARTHACKERS」を立ち上げ、サーキュラーエコノミーの最新動向を世界に発信している。

■2030年には4.5兆ドルの利益に。環境と経済の利益を一致させるサーキュラーエコノミー

――まず、サーキュラーエコノミーとはどのようなものか、教えてください。

「循環型経済」とも呼ばれ、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄の経済モデルに代わる、地球環境や労働環境にも持続可能性をもたせるオルタナティブな経済の仕組みです。

これまで「環境」というと、CSR (corporate social responsibility、企業の社会的責任) の分野だと捉えられがちでしたが、廃棄を出さないビジネス設計や、リユース、リサイクルを通じて利益を出せるのがポイントです。2030年までに、新たに4.5兆ドルもの利益を生み出せるといわれています(*1)。

これまでの経済モデルとサーキュラーエコノミーのイメージ図(*2)。
これまでの経済モデルとサーキュラーエコノミーのイメージ図(*2)。

――なぜ、いまサーキュラーエコノミーが注目されるのですか。従来の経済モデルではいけないのでしょうか。

「地球環境が持続可能でなければ、もはや自分たちが生き残れない」。そんなビジネス界の危機感が背景にあるから、がぜん注目を集めるんです。18世紀半ばの産業革命から約260年。その間、世界の人口は7億人から72億人ほどに膨れ上がり、今後も人口増加が見込まれています。でも、地球の資源にはすでに限界が見えているものもあります。

現在の経済システムはもはや持続できないのではないか、という認識が広まる中、2010年代に入り民間の研究機関が、サーキュラーエコノミーを導入すれば、「持続可能性」を維持しつつ、多大な経済効果も得られるとも指摘したんです(*1)。

これまで相いれないと思われてきた、環境と経済の利益を一致させることができる。それが政府や企業に衝撃を与えました。実際に飛躍的な成果を出す企業が現れ始めたことで、さらに関心が高まっています。

■サーキュラーエコノミーのビジネスモデル

――環境と経済の利益を一致させることは、簡単ではないように感じます。サーキュラーエコノミーでは、どのようなビジネスが成立するのでしょうか。

よく知られているのは、アクセンチュアの五つの分類(*3)です。

1.再生型サプライ:繰り返し再生し続ける100%再生/リサイクルが可能な、あるいは生物分解が可能な原材料を用いる。

2.回収とリサイクル:これまで廃棄物と見なされてきたあらゆるものを、他の用途に活用することを前提とした生産/消費システムを構築する。

3.製品寿命の延長:製品を回収し保守と改良することで、寿命を延長し新たな価値を付与する。

4.シェアリング・プラットフォーム:Airbnb(エアビーアンドビー)やLyft(リフト)のようなビジネス・モデル。使用していない製品の貸し借り、共有、交換によって、より効率的な製品/サービスの利用を可能にする。

5.サービスとしての製品(Product as a Service): 製品/サービスを利用した分だけ支払うモデル。どれだけの量を販売するかよりも、顧客への製品/サービスの提供がもたらす成果を重視する。

ただし、上記の分類にビジネスを当てはめる前に考えるべき優先順位があります。一番重要なのが、「資源をなるべく使わない・廃棄物を出さない」こと。ミニマルな資源を用い、資源を回収し続ける仕組みを設計段階から取り入れることが大切です。第二に、「廃棄物のリユース・リサイクルを進めること」。廃棄物や活用しきれない物がどうしても出てしまう場合は、他企業や行政とも協力し合いながら、リサイクルやシェアを進めていくことが必要です。

■大量廃棄される食材、疲弊するNPO……。憤りを解消してくれたドイツでの出会い

――安居さんはいち早くサーキュラーエコノミーに着目されていますが、どんなきっかけがあったのでしょうか。

サーキュラーエコノミーについて取材をする安居さん。
サーキュラーエコノミーについて取材をする安居さん。

日本の大学に通っていた時に、ホテルのレストランでアルバイトをしたことがきっかけです。朝食のビュッフェを担当していたんですが、ホテルの見栄もあるのか、サラダや果物を終了直前まで山盛りにし続けなくてはいけなかったんです。そして終了した瞬間、全部ゴミとして廃棄するという状況に疑問をもって。

私個人でも何かしたいとNPOの活動に参加したんですが、メンバーたちは経済的に苦しく、疲弊しながら使命感で取り組んでいました。私はもちろん収入も得たかったし、自分の生活がサスティナブルじゃなかったら、行動も起こせないですよね……。

そんなもやもやを抱えていた時、留学先のドイツで、廃棄食品を販売する「SirPlus」という店がビジネスとして成功し、人々がきちんと収入を得ながら生き生きと働いていることに衝撃を受けたんです。しかも、環境や食料廃棄問題に特別な関心があるわけではない“街の普通の人たち”が、おいしい食品を安く買えるという理由で訪れている。興味をもって調べていき、たどり着いたのがサーキュラーエコノミーの考え方でした。

規格に合わないため、廃棄される予定だった野菜。「SirPlus」では、こういった廃棄食材が安価で販売される。
規格に合わないため、廃棄される予定だった野菜。「SirPlus」では、こういった廃棄食材が安価で販売される。

サーキュラーエコノミーって、自分たちでビジネスマインドをもって社会課題にアプローチし、クリエーティブに働ける仕組みなんですよね。製品やサービスに、安くておいしい、かっこいい、といった魅力があるから、サーキュラーエコノミーに関心のない人も自然に巻き込める。それがビジネスとして成功させるポイントです。自分でもっと深く調べて世の中に伝えていきたいと思い、これまで100社以上にインタビューしてきました。

――数々の企業を見てきた安居さんが、いま注目する事業を教えてください。

オランダのスタートアップが開発した「Fairphone(フェアフォン)」というスマートフォンには、設計、デザインの段階からサーキュラーエコノミーが取り入れられ、廃棄物がまったく出ない仕組みになっています。カメラ、ディスプレイなどを自分で交換できるうえ、壊れた部品は100%リユース、リサイクル可能なんです。さらに、紛争の原因になっているレアメタルが使用されていないという、エシカルな面もあります。2012年の発売以降13万台以上を売り上げ、予約待ちになるほど、ビジネスとしても非常に成功しています。

サーキュラーエコノミーを取り入れ、廃棄物がまったく出ない仕組みを実現した「Fairphone(フェアフォン)」。
サーキュラーエコノミーを取り入れ、廃棄物がまったく出ない仕組みを実現した「Fairphone(フェアフォン)」。

クリスマスなどの飾りをシェアする会社も、アムステルダムの行政が関わって設立されました。デパートやレストランはこれまで、シーズンのたびにオーナメントを購入しては廃棄してきました。シェア会社が誕生したことでそれが変わり、返す仕組みが街全体で成立しつつあります。

グローバル企業もサーキュラーエコノミーをけん引しています。フィリップスという大企業は、サーキュラーエコノミーのコンセプトを取り入れて、医療機器の販売事業をリース事業に移行しました。これまで90%も廃棄処分されていた医療機器が、メンテナンスをしながら何度もリースできるようになったんです。リース事業を開始してから、まだ10年たっていませんが、すでに企業全体の利益の約10%を占めるようになっています。

■日本の課題は「ビジネスの透明化」

――シェアやリースは日本にもありますが、日本企業の取り組みはどう思われますか。課題も教えてください。

シェアやリースのビジネスがすでに成立しているのは、素晴らしいと思います。例えば、オリックスは50年以上前にリース事業からスタートして、自動車のシェア、中古機器の販売など事業を多角化してきているんですね。サーキュラーエコノミーという言葉はこれから浸透していくと思いますが、意識せずともこのような事業を生み出し利益をあげている企業がある。それはすごいことだと思います。

日本企業における課題は、「ビジネスの透明化」だと思います。ヨーロッパでは、自社の廃棄物情報を公開することで、その廃棄物を「資源」として活用する新しいビジネスパートナーを発見する、なんてことも起きているんですよ。日本にもたくさんのビジネスチャンスが眠っているはずです。

――私たち一人ひとりがサーキュラーエコノミーに参加していくため、できることは何ですか。

サーキュラーエコノミーの最小単位は個人だと思いますが、何かを無理してやる必要はないでしょう。放っておいたら腐ってしまう食材を発酵食品として活用する知恵など、実は、日本は伝統的にサーキュラーエコノミーを取り入れ、生活を豊かにしてきているんです。まずは、身近な物の再利用や有効活用など、興味をもてることから始めてみてください。そういう人が増えていけば、サーキュラーエコノミーという難しい言葉を使わなくとも、自然と持続可能な世界にアップデートされていくと思います。

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リースを祖業とするオリックスは、1964年の創業時からリースが終了した物件をどうするべきかを事業を通じて考えてきました。その結果、車両や機器のリユース、廃棄物の再資源化(リサイクル)と不要物の適正処理に留まらず、環境性能の高い商品やサービスの提供を推進しています。「価値あるものを長く大切に使う」「リサイクル、天然資源の有効利用により廃棄物の発生を抑制し、環境負荷低減を図る」社会の形成に向けて多岐にわたる分野で事業を推進しています。

*1 ピーター・レイシー, ヤコブ・ルトクヴィスト (2016)『サーキュラー・エコノミー デジタル時代の成長戦略』, アクセンチュア・ストラテジー訳, 牧岡宏・石川雅崇監訳, 日本経済出版社.
*2 オランダ政府「From a linear to a circular economy」を参照
*3 アクセンチュア「無駄を富に変える:サーキュラー・エコノミーで競争優位性を確立する

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