【東日本大震災から8年】石巻と東京の商店街のつながりが生んだ、「いぎなり、うんめぇ」サバ缶の物語

《本屋さんの「推し本」 ヤマト屋書店・小池俊介の場合》

今から10年ほど前、私は念願の書店員になった。

それまではまったく違う職種だったが、自分自身、本が大好きだったことや、そこから得られる感動や知識を多くの人へ橋渡しができる仕事に憧れがあったためだ。根底には、「本が好きだから」という、よくある理由で書店員となったのです。

私が勤める「ヤマト屋書店 東仙台店」がある宮城・仙台という街は、都市部と自然のバランスが良く、大変住みやすい。なにより「東北の人たち」の人柄は心を温かくしてくれる。だから私はこの街が大好きだ。

そんな東北・宮城では、東日本大震災の記憶を避けて通れない。有形・無形の両面で、今もあの当時のまま、時間の流れに取り残されているものは多い。今なお「復興」は道半ばだ。

しばしば取材等で、「おすすめの本を紹介してほしい」という依頼を受けるが、私は毎度1冊の本を紹介させていただく。それが、須田康成『蘇るサバ缶〜震災と希望と人情商店街』(廣済堂出版)だ。

須田康成『蘇るサバ缶』(廣済堂出版)

2011年3月11日、津波によって壊滅的な被害を受けた宮城県石巻市の水産加工会社、木の屋石巻水産。残されたのは泥にまみれた缶詰のみ━━。そんな絶望的な状況から、震災前より交流のあった東京・経堂の人々との繋がりや助けをかりて、工場再建へと突き進んでいく過程を描いたノンフィクションだ。

この本との出会いは、私の勤める店舗で、木の屋石巻水産の缶詰を販売することになったため。「せっかく新たに販売するのだから、この缶詰のことをもっと知ろう」という思いで読み始めた。

木の屋の人々がおかれた過酷な状況や、それでも希望を持ち続けた強い気持ち、そして、経堂の商店街の人々の奮闘が丁寧につづられている。

それでもきっと、描かれている以上に苦労や困難は多かったに違いない。しかし、その大きなパワーで、泥まみれだった缶詰は、ピカピカの「希望の缶詰」になった。

「人とのつながり」。言葉にするとややチープに感じてしまうが、それこそが今の時代に改めて求められ、大切にすべきことではないかと思う。

コミュニケーションや人との関わりが希薄といわれる今こそ、読んでほしい。

もともと大変美味しいサバ缶だが、この本を読み、つくり手や背景を知ることで、より美味く感じ、感動すらしてしまうから不思議なものだ。

昨年、2018年の漢字は「災」だった。ここ数年だけでも日本各地で多くの災害があった。そして、東日本大震災から、もうじき8年が経つ。

私はこの本を読んで、感傷に浸ってほしいわけではない。

東京には経堂商店街の人情、宮城には不屈の闘志で立ち上がった会社と、「いぎなり(とっても)、うんめぇ」サバ缶があることを知ってもらいたいのだ。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

今週紹介した本

須田康成『蘇るサバ缶』(廣済堂出版)

今週の「本屋さん」

小池俊介(こいけ・しゅんすけ)さん/ヤマト屋書店 東仙台店(宮城県仙台市)店長

どんな本屋さん?

家族連れのお客様が楽しめるような幅広いラインアップが魅力の書店です。宮城県に5店舗を構えるヤマト屋書店ならではの「宮城本コーナー」も人気。地元の魅力を再発見できる、本や缶詰(!)が購入できます。ぜひ見ていただきたいのが児童書売り場。担当者さん手づくりの装飾が季節ごとにリニューアルされ、子どもも大人もワクワクします。

撮影:田中姫菜(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)

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