発行部数の激減する新聞・雑誌。本当になくなってしまって良いのか?

メディアが変われば、コンテンツのフォーマットも、それに合わせて大きく変わるのが当然なのです。

ジャンプ、マガジン、サンデーに代表される週刊漫画雑誌の売り上げが激減しています。

20年前には650万部を売り上げた週刊少年ジャンプ すら、毎年のように10%を超える売り上げ減に見舞われ、今や200万部を切ろうとしています(データソース:日本雑誌協会)。

新聞社も週刊誌も売り上げの激減に悩まされています。特に、駅売りに頼っていたスポーツ新聞ビジネスは、どこも破綻状態で、数年後には、「スポーツ新聞」というジャンルそのものがなくなってしまうと言われています。

理由は明確です。人々のライフスタイルが大きく変わったからです。

20年前、通勤・通学する人々の多くは、漫画・雑誌・スポーツ紙を読んでいました。駅のホームには必ずキオスクがあり、そこで雑誌や新聞を売っていました。朝、通学途中に読んだ漫画を友達と回し読み、それがごく普通の高校生・大学生の姿でした。

今はそんな人たちはほとんど見かけません。誰も彼も、スマホで何かをしています。LINEでコミュニケーションをする人、Instagramで写真を楽しむ人、Youtubeで映像を観る人、ゲームを遊ぶ人、ニュースを読む人。目的は様々ですが、そこに、従来型の雑誌やスポーツ紙が存在する余地はすでにないし、決して元には戻らないのです。

では、出版社は生き残りのために何をすれば良いのでしょうか?

既存の雑誌や新聞を単純に「電子化」しただけでは全くダメなことは、数々の失敗が証明しています。紙に印刷した雑誌や新聞と、スマートフォンとでは、大きさ、解像度、閲覧時間や頻度、インタラクションなどに根本的な違いがあります。単に紙に印刷すべきコンテンツを電子書籍化してスマホ向けに配布しても、ユーザーには受け入れられないし、決してビジネスとして成立しないのです。

参考にすべきはテレビです。テレビという新しい媒体(メディア)が出てきた時に、新聞や雑誌をカメラで写すだけのテレビ番組を作っても誰も喜びませんでした。紙の雑誌向けに描かれた漫画をスキャンして、電子書籍として配布する行動は、それに相当する愚行なのです。

報道は、新聞で使われている「写真と文字」から、「映像と音声」へと大きく変わりました。漫画は、紙に描かれたコマ割りの漫画から、「アニメ」へと進化しました。テレビという新しい媒体に合わせて、コンテンツのフォーマットそのものが大きく進化したのです。

メディアとコンテンツの関係は、本来こうあるべきなのです。メディアが変われば、コンテンツのフォーマットも、それに合わせて大きく変わるのが当然なのです。

スマートフォンという新しいメディアが誕生してから、早くも10年が経とうとしていますが、それに最適化されたコンテンツ・フォーマット、という意味では、まだまだ業界全体が手探り状態にあると言えます。

「スマートフォン向けのコンテンツはアプリであるべきだ」と主張する人もいます。確かに、スマートフォンというデバイスの利点を最大限に生かすには、それぞれのコンテンツ向けにアプリを作るのが最適であることは事実です。

しかし、例えば「ワンピース」というコンテンツのために、専用アプリを作っていてビジネスが成り立つか、というと決してそんなことはありません。何時間も遊んでもらえるゲームならばまだしも、漫画やアニメのように毎週配信されるコンテンツのために、アプリの開発者を雇ってコンテンツを作り込むというのは、時間的にもコスト的にも全く現実的ではありません。

iPhone向けに、子供向けのインタラクティブ・ブックのようなものも幾つか作られましたが、専用アプリを作る開発費を回収することは、残念ながらどこも出来ていないというのが現状です。

電子書籍の業界には、EPUBという世界標準がありますが、そもそもが文字を中心とした書籍を電子化するために作られたフォーマットであり、画像や映像が中心のコンテンツには不向きなフォーマットです。アニメーションやインタラクティビティが必要な場合には、JavaScript で書かれたプログラムを各ページに埋め込む必要があるという、全く使い物にならない仕様になってしまっているのです。

今、業界に必要なのは、写真、映像、アニメーションなどを取り入れた、スマホに最適化されたコンテンツの配布を可能にするコンテンツ・フォーマットであり、そんなコンテンツ作りを支援するオーサリング・ツールなのです。

私が、去年の10月に Swipe というコンテンツ・フォーマットを提唱し、同時に iPhone 向けのビューアーをオープンソース化したのは、そんな業界のニーズに応えるためです(参照:Swipe on Github)。複数のページに分割された、アニメや動画を、親指のスワイプだけで、サクサクと自分のペースで楽しむことができる、スマートフォンに最適化された paged-media と呼ばれる、これまでに存在しない、全く新しいコンテンツ・フォーマットの提案です。

当時、日米の出版社や作家の方たちに、Swipe を提案したところ、誰もが EPUB の抱える問題点は認識しており、新しいフォーマットが必要であることには同意してくれました。私が Swipe という新しいコンテンツ・フォーマットを、ロイヤリティ・フリーで、完全にオープンな形で公開したことを歓迎もしてくれました。そして、多くの人たちから「是非ともオーサリング環境も作って欲しい」というフィードバックをいただきました。

さすがに、オーサリング環境となると私一人では難しいので、Swipe Inc. という法人を立ち上げ、人を集めて開発を続けてきました。それも、従来のツールのようにパソコンをターゲットにしたものではなく、コンテンツのオーサリングそのものもスマートフォンで行う、「スマートフォンで作り、スマートフォンで消費する」という、真の mobile-only なエコシステムの構築を目指したものです。

あれから1年、ようやく iTunes ストアで公開できるところまで開発が進んだので、まずはクリエーターの人たちに向けてリリースしたいと思います。名前は、Swipe Studio(無料)です。iPhone/iPad/iPod touch さえお持ちであれば、誰でも試すことが可能なので、ぜひともお試しください。

作ったコンテンツをどうやって誰が販売するのか、その際のビジネスモデルは何なのか、出版社はどう絡むのか、ビューア・アプリは一つなのか雑誌ごとに別個のものを配布するのか、など細かなことはこれから決めていけば良いと考えています。何よりも大切なことは、今の時代のユーザーが楽しむことのできるコンテンツを作ることであり、それに必要な新しいコンテンツ・フォーマットを、誰でも使えるオープンな形で進化させて行くことなのです。

現在の「紙に印刷した雑誌・新聞」というビジネスが完全に破綻してしまう前に、一緒に新しいビジネスを作りませんか?

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