奥さんに怒られないくらい、フツーに育児がしたい 盛田諒さんが語る「キラキラじゃない」等身大の育休

男性の育休って正直どう?というリアルなお話を伺いました。

ラシク・インタビューvol.82

株式会社KADOKAWA 盛田 諒さん

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株式会社KADOKAWAの盛田諒さんは、今年の2月にオンラインメディアASCII.jpで「33歳の男ですが育休を8週間取ることにしました」という育休宣言の記事を公開し、大きな反響を呼びました。その後もコンスタントにFacebookページや育休コラムで失敗や実感を含めた等身大の子育てを発信しています。

少しずつ浸透してきた一方、未だ「意識の高い男性」がとる行動として捉えられがちな男性の育休ですが、「意識は低いです」と言い切る盛田さん。

「意識が低い」たる所以は? 男性の育休って正直どう? というリアルなお話を伺いました。

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実際に育休を取得した男性のブログを読んで「イケるかも」と背中を押された

編集部:奥さんに育休取得をすすめられたけど最初は渋っていた、と育休宣言コラムでは書かれていましたよね。そこから実際に育休を取得するまではどんな気持ちの変遷があったんですか?

盛田諒さん(以下、敬称略。盛田):最初は産休と育休の区別もついていなくて、「育休=産んだ人が取る」くらいの認識でした。社内の規程にも、ましてや国の制度としても男性の育休があることを知らなくて。

そこから「男 育休」で検索したり、社内規程を確認したりしましたけど、いざ自分が取得するとなると一週間が限度、それでもかなりの冒険だなと思ってました。育休の期間仕事が止まってしまうと周りに迷惑がかかるな、とか、自分の心に何となくフタをしてたんですけど、半年間育休を取得したという男性のブログで、取得するのも復帰するのも意外とあっさりできていることを知ったんです。

それを読んで「イケるかも」と心を動かされて、上司に相談しました。

散々予防線を張って「育休中はこう仕事を進めて、復帰したらこうして」って3000字くらいのメールを出したんですけど、返事は「いいと思いますよ」と簡潔で、拍子抜けしたと同時にホッとしました。

色々言われてしまうかな、パタハラみたいなことが起こるのかなって緊張してたんですけど、そんなことは全くなくて、2カ月くらい悩んでいたのに対して、解決するのはあっという間でした。

編集部:コラムは更新されるたびに話題を呼んでいますが、そのリアクションにより盛田さん自身に変化はありましたか?

盛田:最初の育休宣言を書いた時に「同い年で同じ時期に同じことをしようとする人を見て勇気づけられる」とコメントをくれた男性がいました。

声には出さないけど本当は育休を取りたい、だけど周りに前例がないからできないって感じている人はいるはずだと思っていたので、自分が選んだことは正しかったのかな、ってそのコメントには励まされました。

また、私が所属するアスキーは男性が多い編集部なので、お父さんも多いんですけど、「お父さん」はこうやって子育てしていて、こういうことが大変でってことを発信したり、受信するメディアって世の中にほとんどないですよね。

それを私が発信することで、部内の人が「大変だろー」っていじってくれたり、あまり会話したことがなかった他部署の人が「君の部署とこういう仕事がしたいんだけど」って声をかけてくれるようになったのは驚きでした。

編集部:男性側も実は育児について会話したかったのかもしれないですね。

盛田:アスキー編集部のお父さんたちあるあるで、深夜に帰宅して仕事も兼ねてオンラインゲームをしようとしたら、奥さんに怒られたっていう話があるんですけど、男同士って集まってもなかなかそういう話題にはならないですからね。家庭など現実生活の憂さ晴らしをしたいんだけど、恥ずかしくてなかなかできないところに取っ掛かりを求めていたのかなって思いました。

失敗を初めとする「パパあるある」の延長に、男性の育休があってもいい

編集部:育休を取った時点で周囲から見た盛田さん自身のカテゴライズって確実に変わったと思うんですが、ご自身を「意識低い」と思うのってどのあたりなんでしょう。

盛田:不安定な今の時代に安心して子育てをするためには、夫婦どちらも働いていて、どちらも家庭を運営するスキルを持ってないといけない、そのためには夫は妻に後れを取らないために最初から育児に参加する必要がある、そんな当たり前の選択肢としての育休、っていう感覚からですね。

育児に対する理想を掲げているわけではなくて、「おむつの付け方をこうやったら失敗しました、でも何度やっても失敗してしまうんです」みたいな、育児におけるごく普通の「パパあるある」の延長に育休はあっていいと思うんです。

奥さんにもなるべく怒られたくないし、おむつ替えなど普通のことができるようになりたい、肩肘張らずに子どもと接するために育休があるんだったら取りたいよねって思います。

編集部:男性育休が当たり前になるには先ほどの「恥ずかしさ」を超える必要があるんでしょうか。

盛田:自分自身も最後まで育休を取るのを迷っていたのは、育休を取ることで「育児意識の高い面倒くさいやつ」みたいなレッテルを張られることへの恐怖があったから、というのもありました。

今は男性の育休が華々しい、キラキラしたことと捉えられているけど、月9のドラマとかでも共働き家族のお父さんが朝洗濯して、軽く掃除もして、子どもを保育園に送っていって、みたいな描写が当たり前に入っていてもいいと思うんです。その現実が顧みられていないな、という実感はあります。

制度によって自分も変わっていこうっていうのはなかなか想像もできないし、ハードルも高いから、ドラマみたいに男女関係なく万人に届くような、文化的なものがあるとどんどん意識が変わるかもしれませんね。

「ここまで家事・育児をやることはできない」の判断ができるようになったのが育休のメリット

編集部:盛田さんの記事が書籍になってドラマ化されるしかないですね!「キラキラじゃない」育休の様子は失敗談や夫婦の行き違いなど、とてもリアルでしたし。

盛田:家事にせよ育児にせよ、ピンときたらすぐ行動するタイプなんですけど、黙ってもくもくと手を動かしているうちに、仕事モードになってしまっていて。その間にある、妻とのコミュニケーションや会話を忘れがちな自分に気づきました。

編集部:女性も産後は些細なことでイライラして「そうじゃない!」ってなりますしね。逆に「こうやって伝えてくれたら分かったのに...」みたいなことはなかったですか?

盛田:あるにはあるんですけど、育休を取っていると24時間お互い家庭の中に固定されるから、コミュニケーションを取ろうとする前に怒られちゃう、みたいなことはしょっちゅうでした。

私もそれで萎縮してしまって、もう黙っておこうともしたんですけど、妻からしたら、ちゃんとケンカをしたかったってことみたいです。

ぶつかって、ごめんね、ありがとう、お疲れさまって。ちゃんと気持ちをぶつけあうことでサラッとしていられると言われ、そうかと気づかされました。

編集部:そこも踏まえて育休を取ってよかったですか?

盛田:こんな家事、育児ができるようになったというのも大事なんですけど、辛さが分かるとか、ここまでやることはできない、だからここは手放した方がいいっていうあきらめの判断がついたのは大きかった気がします。

私は完璧を求めがちなところがあるので、自分が育休を取らずに妻に家事育児を任せていたら、「子どもができるとこんなに家庭が荒れて悲しい」みたいな気持ちになってたかもしれません。

ただ育児休業を取れたことは、周りに恵まれていたんだなって思います。母親や義母にも手伝ってもらったし、コラムやFacebookで定期的に発信することで、職場の人が軽口を叩いてくれたり、「そんなの普通普通」みたいにコメントしてくれる人がいたから励まされたし、今笑って話せる気がします。

これがなくて妻と2人だけの関係になってたら、自分を客観視できなくて「こんなダメな夫、俺だけなんじゃないか」って行き詰ってたかもしれません。

育休を取っても、自分ひとりで家庭内を背負いこんじゃうと疲れちゃうから、外に向かって話せるきっかけになるような場所を、ブログでも何でも持ってるといいんじゃないかと思いますね。

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コラムのユーモラスな語り口から、絶対面白い話が聞けるだろうと期待していた今回のインタビュー。

予想通り盛田さんから発せられる「パパあるある」に笑いっぱなしの1時間でした。

そんな中、「育休を取って良かったです」と語ってくれた笑顔がとても幸せそうで、この日一番の記憶に残るほど。

キラキラじゃない等身大の育休には大きな価値があるのだろうなと感じました。

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【盛田 諒さん プロフィール】

盛田 諒(Ryo Morita)1983年生まれ、暮らしのオンラインメディア「家電ASCII」編集者。2017年2月22日に男児を授かり、一児の父親に。3月1日から4月26日まで8週間の育児休業を取得した。目標ははたらくトロフィー・ハズバンド。

文・インタビュー:真貝 友香

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