ダイバーシティ・イクオリティ&インクルージョン(DE&I)といった言葉が少しずつ知られるようになった昨今。でも、「言葉がわかりにくい」「具体的な方法やゴールがよく分からない」とモヤモヤとした気持ちを抱く人もいるのでは。
そんな悩みや解決策を話し合うべく、P&G、“若者が声を届け、その声が響く社会をつくる”を掲げる団体「NO YOUTH NO JAPAN」とハフポスト日本版がライブセッションを企画。2022年5月18日、19日の2夜連続で実施した。

ハフポスト主催・第2夜のテーマは「これでいいの?『DE&I(ダイバーシティ・イクオリティ&インクルージョン)』みんなの悩みを徹底討論」。ファシリテーターには麒麟の川島明さんを迎え、ぺえさんらゲストとじっくり話し合う場となった。
■“多様性”だからといって、差別的な言葉が認められるわけではない
「“多様性”という言葉が世の中にあふれた瞬間があった」と語るのは、ぺえさん。「その時、私はいい言葉だなと思って、これから明るい未来が待っている気がしたんです。でも、言葉だけが独り歩きしすぎると、自分勝手な世の中になってしまいそう」と不安を述べた。

NO YOUTH NO JAPAN代表として、企業の会議に出席することも多い能條桃子さん。次のようにコメントした。「そこに若者が混じっているだけで、多様性だねって満足してしまっている会議もあります」。
「もちろん、こちらの意見をきちんと聞いていただけるような機会もあって。そんな時はダイバーシティだけでなくインクルージョンがあると理解していますね」。

そもそも、わかりにくいと感じる人も多いDE&Iとはどういうことだろう。ジャーナリスト・治部れんげさんは「ダイバーシティ(多様性)とは性別・国籍・文化・年齢・セクシュアリティ・障がい、ライフスタイルなど多様な人がいること。イクオリティは平等。インクルージョンは多様な人がそれぞれ包括され、自由に意見が言える状態になること」と説明。

ぺえさんの「自分勝手な世の中になってしまうのでは」との不安には、「差別的なことなどひどいことを言うことが、多様性だからという理由で認められることはありません。それぞれの人の機会や人権を無視することはイクオリティではないですよね」と答えた。
■P&Gでは「アライ」グループも結成。企業も個人もアップデートが必要
DE&Iは、企業では今どのように取り組まれているのか。P&Gジャパン合同会社の市川薫さんは、「まず、トップが必ずDE&Iをやるのだとコミットすること。そこからがスタート」と語った。

「私たちの会社では、一般社員から社長までそれぞれの層にあった研修内容を用意しています。最初は否定しないところから入り、認知をして“その先”に何があるかを考え、それを生かしてポジティブなパワーにつなげていくにはどうしたらいいかという研修です。多様性の“その先”の行動がとれるようトレーニングしています」。
「そうすることによって、例えば、“アライ”(LGBTQ+の支援をする人)として行動したい人も増えてきて、社内にグループが結成されたりもしました」。
企業のこのような取り組みは、就職活動を控える学生たちにも注目されていると考えたほうがいいだろう。「リクルーティングという意味でも、社員さんの意識が変わっていかないと、就活市場で見放されてしまうことはあると思います」と能條さん。
ぺえさんは「就活の面接で、女性は足を閉じて男性は足を開いて話すとかも、昔から染み付いた固定観念。小さな違和感を大事にしていければ」と語った。

川島さんも「アップデートは僕らの世界でも絶対に必要。芸人は男だけのものじゃないのに、女芸人っていう言葉もおかしい」とコメントした。
■分化や同化ではなく、インクルージョンを目指す
多様性を意識するあまり「発言しにくい」と感じることもあるだろう。川島さんの「“髪切ったんや”もダメ?」という疑問に、ぺえさんは「どうやって生きていけば?」と動揺する一幕も。

そこで市川さんが、今、自分がDE&Iのどのステージにあるのか確認できる図表を解説。「除外・排除 / 分化・差別化 / 同化 / インクルージョン」の4ステージがカラフルなドットで表現されている。例えば、LGBTQ+の人がその個性を隠すことで組織に受け入れられる状態は、インクルージョンではなく同化である。

この図の分化・差別化に心当たりがあるというぺえさん。「ぺえは男の気持ちも女の気持ちもわかるでしょってよく言われるの。でも、私は私の気持ちしかわからない」と述べた。
■DE&Iはそれぞれの個性を損なわない、フルーツポンチ
DE&Iの理解をより深めるため、市川さんは、さらにフルーツポンチに例えて説明。

「理想的な状態はフルーツポンチ型だと思っています。多様性を色々なフルーツで表しています。そして、みかんもリンゴもそれぞれ平等な機会を得られます。大事なのは、それらが合わさっておいしいフルーツポンチになるというところなんです」。
「ポイントは、全部をミキサーにかけてミックスジュースにしてしまったら、全部バナナの味になってしまうかもしれないこと。それは同化ですね。キウイはキウイの味、いちごはいちごの味のまま混ざったフルーツポンチにすることで、それぞれのおいしさが活きたおいしさになる。それをP&Gはとても大事に思っています」と市川さん。
■無意識のバイアスを忘れずに、寄り添う気持ちで
同化については、「仕事をがんばることで自分が周りに合わせて変化することは同化なの?」「変化を制限されて、周りが思う自分のキャラクターを無理に続けたら辛くなることもあるのでは」と議論に。
視聴者から「共演者の個性を引き立てるやさしさの秘訣」を聞かれた川島さんは「若手の頃から個性を出すのが苦手で、人に合わせるタイプ。芸人は個性が大事だからブレないほうがいいって言われたけど、むしろ人によって態度を変えることを極めていたら面白くなってきて、仕事も増えました。自分を変えないことを貫くにも負担があると思うんです」と持論を展開。

これにぺえさんは「苦しんで合わせているわけじゃないし、それは“寄り添う”ってことじゃないのかな」とコメント。能條さんは、前日にNO YOUTH NO JAPANのインスタライブで出た意見も引用し、「臨機応変に相手に対応するのはやさしさだと思う」と答えた。
“正解”のないDE&Iを実現するために、どんなことに気を付けたらいいのか。

治部さんがヒントとして提示したのは、「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」。「昔、取材に行った先で 2 名の男女を見て、無意識に男性が社長だと思い込み、間違った相手に名刺を先に渡してしまった」と自身の経験を踏まえて語った。
「パートナーを異性だと決めつけるような無意識のバイアスは誰にでもあるもの。特に社内で立場が上になると、注意してくれる人も減ってしまいます。素直な気持ちで注意してくれるような人を確保したり、自分にバイアスがあることを意識したりすることを心がけてください。声がけの仕方を迷ったら、本人に聞いてみるのもいいと思います」。

市川さんは「無意識のバイアスは誰にでもあることを理解しておくことが大事」「DE&Iには失敗も付き物。それでも必ず乗り越えていくもので、個人も企業も変化に合わせ、アップデートし続ける必要があります。ゴールがない旅のように、ずっと付き合っていくものだと思っています」と語った。
川島さんは「正解はないから、みんなで正解を作る。もしくはそれを追い求めていく作業。この番組が、そのきっかけになれば」とまとめた。
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