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P&G、東京2020オリンピックから見る経営戦略とは。最高位スポンサーが、ビジネスと社会責任の両輪を重視する理由

24.5トンの使用済みプラスチックから東京2020オリンピック・パラリンピックの表彰台をつくりあげる。性別や障がいに関係なく、誰もが楽しめるスポーツを共に考える――。世界最高峰のマーケティングカンパニーとも呼ばれるP&Gが、東京2020大会を通じて目指したこと。

企業が率先して社会課題の解決に取り組むSDGsの時代。学校の髪型に関する校則に疑問を投げかけるキャンペーンや女性起業家の支援活動などで知られるP&Gは、その先駆け的存在だ。

世界最高峰のマーケティングカンパニーとして、利益を追求しながら社会責任を果たす――。P&Gはなぜそのような姿勢を貫くのか。東京2020大会の活動を通して、同社が多様性や環境サステナビリティの実現を目指す理由や、企業のあり方を聞いた。

■「多様性」と「持続可能性」を最も追求した大会

東京2020大会はコロナ禍によって緊急事態宣言下での開催となったが、意外と知られていないのが、多様性や持続可能性の実現に注力した側面だ。

東京2020オリンピックにおけるLGBTQ+を公表しているアスリートの出場者は、過去最多の180人以上に。リオ2016オリンピックの3倍以上とされている。女子重量挙げでは、オリンピック史上初めてトランスジェンダーの選手が生まれた性別とは別のカテゴリーで参加したことが、大きな話題となった。パラリンピック出場選手も史上最多の4403人を記録した。

また、持続可能性を実現するため、多くの人の協力を得ながら再利用素材を最大活用した初の大会でもあった。大会で授与された約5000個のメダルは、全素材が市民から回収した携帯電話や小型家電からつくられたもの。聖火リレーのトーチの材料となったアルミニウムの3割は、東日本大震災の被災3県で使われた仮設住宅の廃材を再利用している。選手たちの宿泊施設で使われたベッドフレームは、耐久性の高い段ボールから制作。大会後は紙製品として再生利用されるという。

こうした大きな動きの陰の立役者として、東京2020オリンピック・パラリンピックのパートナーの姿があった。

■東京2020大会からの変革

P&Gは、ロンドン2012オリンピックから東京2020オリンピックまでワールドワイドパートナーを務め、パラリンピックでも東京2020大会からゴールドパートナーとして参加。生活者から空き容器を回収し、表彰台としてリサイクルするプロジェクトへの事業協力や、障がいや性別に関係なく楽しめるスポーツを探るイベントなどを実施してきた。

それらの指揮をとったのが、2018年当時、30歳という若さで東京2020オリンピック・パラリンピックチームの日本マーケティングリーダーを任された秋山史門さんだ。

秋山史門(あきやま・しもん)さん:2013年P&Gにマーケティング職で入社。シンガポールアジア本社でのファブリックケア部門を経て2016年より平昌2018オリンピック、2018年からは現在の東京2020オリンピック・パラリンピックのブランドディレクターに就任。ジャパンチームのマーケティングを統括する。
秋山史門(あきやま・しもん)さん:2013年P&Gにマーケティング職で入社。シンガポールアジア本社でのファブリックケア部門を経て2016年より平昌2018オリンピック、2018年からは現在の東京2020オリンピック・パラリンピックのブランドディレクターに就任。ジャパンチームのマーケティングを統括する。
Mike Stobe via Getty Images for P&G

「グローバルチームと連携しつつ、約9割は日本独自でプログラム設計をしてきた」と多忙な日々を振り返る秋山さん。P&Gがオリンピック・パラリンピックのパートナーとなった理由を聞くと「P&GとIOCが、『よりよい暮らしをつくる』『よりよい世界を築いていく』という価値観において強い共感があったことが最大の理由」と話した。

同社がオリンピック・パラリンピックで目指したのは「製品の売上と浸透率の増加」「ブランディング強化」「事業パートナーとの関係強化」「社内活性」「シチズンシップ」の5つ。東京2020大会では、特にシチズンシップ(企業市民として社会責任を果たすこと)に力をいれた。

「P&Gは『世界を変える力、未来を育てる力(A Force for Good, A Force for Growth)』というシチズンシップスローガンをグローバルで掲げています。そのもとで、特に『環境サステナビリティ』『平等な機会とインクルーシブな世界の実現(Equality & Inclusion =E&I)』『社会貢献』の3つを重視。東京2020大会では、スポーツの力を借りてそれらの活動を広げていくことを目指しました」(秋山さん)

Mike Stobe via Getty Images for P&G

■「社会を変えたい」企業がスポーツを通してできることは何か

では、具体的にどんな活動をしたのか、4つの取り組みを秋山さんに振り返ってもらった。

1. 24.5トンの使用済みプラスチックから東京2020大会の表彰台をつくる

環境サステナビリティのため生活者が参加できる活動として考えられたのが、「みんなの表彰台プロジェクト」。洗剤やシャンプーの使用済みプラスチック容器を東京2020オリンピック・パラリンピックの表彰台として再利用する東京2020組織委員会主催の本プロジェクトに、P&Gは事業協力者として参画。全国のスーパーや113の学校で回収活動を実施し、約9ヶ月で24.5トンのプラスチックを集めた。

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使用済みのプラスチックをリサイクルして製作された東京2020オリンピックの表彰台
使用済みのプラスチックをリサイクルして製作された東京2020オリンピックの表彰台
Mike Stobe via Getty Images for P&G

そこから、98台の表彰台を制作。小学生からは「これがオリンピックの表彰台になると思ったらすごく感激する」「何かの役に立ちたいから持ってきた」といった声があがった。秋山さんは「日常生活の中に活動を組み込めたことが一つの成果。未来を担っていく子どもたちが、環境やリサイクルを考えるきっかけをつくれたのでは」と手応えを語った。

2. アスリートと共に「社会を変える力」を発信

参加型の「みんなの表彰台プロジェクト」とは対照的に、グローバルな大型キャンペーンとして展開したのが「Lead with Love」だ。選手の家族目線で語り始められる短編動画は大きな反響を呼び、印象に残っている人も多いのではないだろうか。

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「Lead with Love」は「愛をもって、世界をより良くするための行動」という意味合い。「アスリートたちが世界をより良くすべく社会貢献活動をする姿は、私たちにインスピレーションを与えてくれる」そんな思いから、選手たちの活動や情熱にフォーカスしたCMやドキュメンタリー作品を作成した。

日本では、「車いすテニス界のレジェンド」とも言われ、今大会でも車いすテニス男子シングルス金メダルに輝いた国枝慎吾選手がアンバサダーに就任。「健常者と障がい者の垣根を越え、多様な社会を築きたい」という思いを共に発信してきた。

ドキュメンタリー作品「Good is Gold」には、飛込の英国代表で金・銅メダリストに輝いたトーマス・デーリー選手が参加。クィア(性的少数者)としての思いを打ち明け、インクルーシブな社会の実現を訴えた。パラリンピック陸上競技のスカウト・バセット選手(米国)は、若いアスリートが社会のバリアを打破できるよう勇気づけている。そのほか、環境問題、人種、コロナ禍での医療など様々な切り口の作品が制作された。

3. 性別や障がいに縛られないスポーツを生み出す

切断障がいを持つ人がプレーできるよう考案されたアンプティサッカーを体験する様子
切断障がいを持つ人がプレーできるよう考案されたアンプティサッカーを体験する様子
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さらに、既存のスポーツルールをよりインクルーシブなものにできないか挑戦する取り組みも。P&G「Create Inclusive Sports(クリエイト・インクルーシブ・スポーツ)」というイベントでは、国籍、障がいなど多様なバックグラウンドを持つ人々が集まり、個性を活かし合いながら、誰もが楽しめるスポーツづくりに取り組んだ。

自らも多くのスポーツを経験してきた秋山さんは「これまでスポーツをする際には、当然のように性別・国籍・障がいなどで分けられることが多かったですよね。でも、そこを今一度考え直してみたかったんです」と振り返る。

プロジェクトについて話し合う秋山さん
プロジェクトについて話し合う秋山さん
Mike Stobe via Getty Images for P&G

「率直に言えば、新しいルールを考えるのはすごく難しい。でも、多様な人たちが一緒に考える過程を重視しました」(秋山さん)。イベントでは、視覚障がい、聴覚障がい、切断障がいなどを持つ人と健常者が同じチームでプレーできるよう考案されたメドレーサッカーに挑戦。そのうえで新しいルールを参加者たち自身で話し合って決め、実際にプレーした。

「印象的だったのは、元日本代表の中澤佑二さんが語った『同じサッカーでも、違うバックグラウンドの方とやると、新しい発見や楽しさがすごくある』という驚きの声」と秋山さん。「想像だけで行動するのではなくて、多様なバックグラウンドを持つ方と積極的に交流し、実際に体験してみることで理解は深まると実感した瞬間でした」

4. コロナ禍における迅速な方向転換と社会貢献

コロナ禍の大きな影響を受ける中、秋山さんは迅速な方向転換を決断したことも。

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オリンピックのチケットが当たる消費者プロモーションを急遽、買い物を通して医療従事者・こども福祉・アスリートに寄付ができる仕組みに改変。#想いの架け橋プロジェクトとして総計7900万円の寄付支援をした。

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そのほか、自社工場で生産したマスク100万枚を医療機関に寄付し、東京2020大会の運営にも無償提供。

表彰台プロジェクトで回収した使用済みプラスチックも、一部フェイスシールドへとリサイクルして、大会運営へと寄贈するなど、社会貢献を進めた。

■ビジネスと社会責任は両輪

すでに2028年までオリンピック・パラリンピックのスポンサー継続を決めているP&G。「持続可能な社会、多様性に対して平等な機会がある社会」をさらに企業全体で目指していくという。

秋山さん個人の目標は「東京2020大会のレガシーを継続的な取り組みに進化させていく」ことだ。「例えば、毎日のお買い物の中で環境や多様性について学べる取り組み、簡単に社会貢献ができる仕組みづくり等が進行中です。その中で自社製品の良さもしっかり伝えていけたら」

Mike Stobe via Getty Images for P&G

最後に、同社の社会責任とビジネスに対する思いを聞いた。「社会責任を考えない方が、短期的には業績を伸ばしやすいかもしれません。でも、生活者と共に長期的な未来のことを考えなければ、企業と社会が共に良い形で成長し続けられません」

「一方で、企業は社会責任のみを考えると、継続が難しくなります。企業として成長しつつ、社会責任を果たしていくためには、プロのビジネスリーダーとして株主の利益、企業価値向上などと社会責任を効果的に繋げ、実現していく戦略的思考が欠かせません。そのため、例えば弊社にはあえてCSR部署を設けていません。マーケティングから営業、R&D、HRまで、一人ひとりがビジネスと社会責任、両輪を革新させていく。そこに情熱を注げる人や企業と一緒に、今後より取り組みを強化し、拡大していきたいと思っています」(秋山さん)

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